(写真:Pangaea/PIXTA)

「自分の意に反して暗い人に見られてしまう」と悩んでいる方もいるかもしれません。この状況が続けば、本人にとっても、周りにとっても気持ちがよい状態とは言えないでしょう。

そこで本稿では、リーダー研修や就職セミナー等で自分の想いを正しく伝えるコミュニケーション法をお伝えしている、感情と表情の専門家としての知見から、ポジティブな印象を醸し出すヒントを紹介したいと思います。

暗い人の心の状態とは?

最初に、暗い人とはどんな人のことを言うのでしょうか。退屈なときや疲れているときも暗い印象を与えることがありますが、ここでは感情や気分に焦点を絞って説明します。

感情は、覚醒水準の高低とポジティブ・ネガティブ方向の二次元から捉えることができます。覚醒水準が高くてポジティブなのは、「歓喜」や「感激」です。覚醒水準が高くてネガティブなのは、「恐怖」や「怒り」です。一方、覚醒水準が低くポジティブなのは、「安堵」や「安心」などとなります。

暗い感情とは、覚醒水準が低く、かつネガティブへ向かう感情のことです。代表的なのは、「悲しみ」です。

暗く見られる人とは、この悲しみ感情が持続的に続く状態を意味します。つまり、「寂しさ」「憂鬱」「無気力」などに支配されている状態です。

表情としては、悲しみが顔全面に出ているというより、緩やかに表れています。もしくは同時に表情に張りがなく、目にも力がない状態です。また姿勢は、うつむきがちになります。


暗い表情の例(Ⓒ株式会社空気を読むを科学する研究所)

プライベートで辛いことや仕事でミスが重なったりすると、寂しさや憂鬱が心に浸食してきます。こうした状態の最たるものが、うつです。

うつ病の表情の特徴は、症状の程度によって異なりますが、往々にして表情の少なさが挙げられます。無表情と言える場合もあります。無表情は、感情としては中立に位置し、覚醒水準が中程度(なお、覚醒水準が0だと眠っていることになります)、ポジティブでもない、ネガティブでもない、ニュートラルな状態を意味します。わかりやすく言えば、感情が死んでしまっている状態です。

「暗い」を脱するための根本的な解決方法は、原因によって異なります。うつ病やうつ状態が続くようなら、専門機関の治療が必要であることは言うまでもありません。

とはいえ、大切なものを失い、苦悩し、それがしばらく続く。こうしたことは、私たちを内省的な状態に促し、気持ちを整理するうえでも役に立つため、不要どころか、必要です。問題なのは、程度です。いつまでも悲しみの状態にいるわけにはいきません。

テンションを上げる方法

それでは、どうしたらよいのでしょうか?

それは、覚醒水準を上げる、つまりテンションを上げることです。覚醒水準を上げることによって、身体は、感情を受け入れる器を用意しようとします。心臓がドキドキすることで、脳は「このドキドキは何だろうか?」と考え、ドキドキの原因を求めます。

では、どうすれば、覚醒水準を上げることができるのでしょうか?

「ドキドキ」と書いたように、単純に、心拍数を上げることが手っ取り早い方法です。例えば、走る。健康に不安があるならば、ちょっと早歩きをしてみます。そうすると、身体から鼓動を感じると思います。

一方、覚醒水準が上がっても、脳はその原因をポジティブにもネガティブにも求め得ますので、早歩きしながら、好きな音楽を聴く、あるいは、楽しいことを考えるとよいでしょう。

「風が気持ちいいな」「ランチに何、食べようかな」「今度の休みに映画を観に行こうかな」などです。

覚醒水準が上がってくると、表情としては、目がパッと見開きます。楽しいことを考えていると、口角が上がってくるはずです。ドキドキを感じながら、自身の表情が変化し、身体の中から感情が生じてくる様を体感してください。

走る、早歩き以外でも、身体を目覚めさせられるならば、何でもOKです。腕立て伏せをする。腹筋をする。文章を音読する。熱いシャワーを浴びる等々、いろいろあると思います。心と身体はつながっていて、身体が目覚めることで、気持ちもシャキッとするフィードバック機能があるのです。

子どもの驚き体験をいつまでも

こうした身体を動かす方法のほかに、驚く経験を日々するという手もあります。

驚きは、覚醒水準を引き上げます。驚きは、未知のもの、新しいものに対して生じます。幼き日々を思い出してください。周りに小さなお子さんがいれば、観察してみてください。「何!これ?」「見せて、見せて!」「私に触らせて」「僕もやってみたい」と、未知のものに近づき、元気いっぱいです。

これをマネしましょう。知らないこと、触れたことのない世界などいくらでもあります。ちょっとしたことでよいのです。例えば、普段通らないコースで通勤してみる。普段観ないようなジャンルのドラマを観てみる。普段食べないようなものを食べてみる……等々です。身体を動かすのが嫌な方は、ちょっとした驚き体験で心を動かすきっかけを得ることができます。


こんな表情になる体験を日常に取り入れよう(Ⓒ株式会社空気を読むを科学する研究所)

人を暗く見せる悲しい気分ですが、悲しみ以外にも、もう一つ、大切なものがあります。それは、ミスをしたときのリアクションです。これも人を暗く見せるか、そうでないかの分岐点となりえます。

公衆の面前で滑って転んでしまったとしましょう。

どんな感情になりますか? どんな表情になりますか?

ちょっとしたミスですので、通常、感情は、「恥ずかしい」ではないでしょうか。その表情は、「うつむいてはにかむ」になります。

「恥」と思う人もいるでしょう。その時、下唇を噛む人もいるかもしれません。

では、ミスをした際の他者の顔にさまざまなリアクションを見るとき、私たちはどんなふうに感じるのでしょうか?

調査の結果は?

あるアンケート調査の結果(Keltnerら, 1997)、次のことがわかっています。

公衆の面前で滑って転んでしまった人の表情が、

「恥ずかしい」の場合:その人を「社会的」な人と見て、愉快な気持ちになる傾向にある。

「笑顔」の場合:その人を「社会的」な人と見て、愉快な気持ちになる傾向にある。

「恥」の場合:その人を「社会的」な人、あるいは、「反社会的」な人と、人によって判断が分かれる見解がとられ、同情心を向ける傾向にある。

「怒り」の場合:その人を「反社会的」な人と見る傾向にある。

ということです。

「恥ずかしい」や「恥」が表情に表れるというのは、「私は社会的なつながりを大切にしています」「今回のようなミスを繰り返しません」「私もばつの悪い思いはしたくありませんし、皆さんにも気を使わせたくありません」「許してください」というシグナルです。

「恥ずかしい」と「恥」の違いは、ミスの程度です。ミスの程度が軽い場合は、「恥ずかしい」。重い場合は、「恥」です。

滑って転ぶくらいの軽いミスで、恥は、調査では「反社会的」と見られる可能性が指摘されていますが、通常感覚ですと、「落ち込み過ぎじゃないか」という感じではないでしょうか。

一方、何度も足を運んだ営業先。あともう一歩のところで契約を取れず、失敗。なんてことになれば、はにかんでいる場合ではなく、恥で反省の意を示すのが適当になるでしょう。

ミスを引きずらないために

要は、失敗をどう適切にとらえるかです。

改善策は?

失敗の程度を正しく知る、ということになりますが、ちょっとしたミスで恥を感じてしまうことが身に付いている方の場合、マインドチェンジも難しいでしょう。それなら、身体から変えましょう。方法は、悲しみと一緒です。

そう、「動く」です。

身体を覚醒させ、習慣化し、さまざまな感情、特にポジティブな感情を受け入れる器を鍛えましょう。次第に暗い印象が払拭され、ポジティブな印象が醸し出されるようになるでしょう。

参考文献:Keltner, D., Young, R. C., & Buswell, B. N. (1997). Appeasement in human emotion, social practice, and personality. Aggressive Behavior, 23(5), 359-374.

(清水 建二 : 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役)