ついにアメリカでビットコイン現物に投資する上場場投資信託(ETF)が始まった。出だしは好調のようだが、今後はどうなるか(写真:塩大福/ PIXTA)

アメリカの証券取引委員会(SEC)が1月10日、暗号資産であるビットコインの現物に連動する上場投資信託(ETF)11本を承認したと発表した。これにより、機関投資家や個人投資家はビットコインを直接保有することなく同資産に投資することが可能になった。


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら

このニュースを暗号資産トレーダーたちは心待ちにしていた。公式発表前日の9日には、SECのXアカウントがハッキングされ、「すでに承認された」というフェイクニュースがされていたほどだった。

「ついに来た!」ということで「ビットコイン暴騰!」かと思いきや、暗号資産ウォッチャーからは「SEC承認となれば、材料出尽くしで暴落する」という見方が有力だった。すでに2023年、ビットコインは大幅上昇していたが、このSEC承認への期待が理由だったから、その反動が来るということだ。

ビットコインは乱高下後、さらに大幅上昇する

しかし、私はまったく違うシナリオを想定している。まず、乱高下し、その後、さらに大幅上昇すると予想する。個人的には、暗号資産は価値がゼロだと思っており、JPモルガンのジェームズ・ダイモンCEOは、暗号資産は「詐欺」だと非難し、2023年12月の議会公聴会で「自分に権限があれば暗号資産業界を閉鎖するだろう」と述べたが、彼に120%賛成だ。

それでもビットコインは上昇する。いやだからこそ、暴騰するのだ。暗号資産そのものには何の価値もない。正真正銘のゼロである。それは何も暗号資産に限ったことではない。マネーはすべて無価値だし、ドル紙幣も無価値、金(ゴールド)だって、実は1トロイオンス=2000ドルの価値などとてもなく、プラチナの1トロイオンス=900ドル台よりははるかに低いはずだ。

要はバブルだと言いたいのかと言われそうだが、バブルであることは間違いがないが、商品化された投資対象はすべてバブルになっているから、上場個別株も上場して取引されている原油などの商品も資源もすべて同じことだ。

しかし、それらは価値がゼロではない。ドルですら、紙っぺらだが(最近は紙ではないドルが大半だが)、決済手段としての価値が一応ある。

一方、暗号資産は純粋にゼロだ。決済手段として使おうと思えば使える場面もあるが(実際に使われているのは違法な取引に関するものがほとんどで、だから価値があるという面もあるのだが)、普通は使わないから、完全にゼロと考えていいだろう。

だからこそ、トレーディングゲームのチップとして、手段として最も純粋に使い勝手が良いのだ。価値がゼロであるからこそ、バブルにおけるババ抜きゲームの手段として非常に価値が高い。だから、バブルになったときに最も上がるし、暴落するときはまさにゼロになることがありうる。

「バブルでない状態のビットコイン」をどう考えるか

しかし、今回の議論で重要なのは、バブルではない。バブルではない状態のときのビットコイン、暗号資産の話なのだ。

バブルとは買いが集まった結果である。バブル崩壊とは売りが殺到し、パニック売りとなった結果である。要は需給である。それは、ビットコインでも個別株でも変わらない。

違うのは、“普通の”ときだ。普通のとき、マーケット全体が静かなとき、個別株の価格はどうやって決まるか。

これも結局は需給なのだが(だって、経済学ではすべての財の価格は需給で決まる。決まらないと言い張っているのはファイナンス理論だけだ)、その需給の裏側にファンダメンタルズがあることになっている。

その企業の業績見通しがよいのに、株価が上がらなければ、それを見抜いた人が買って、上がる。ある企業のリスクが高まっているのに、皆が買ったままになっているとき、気づいた人が売って、下がる。価格は最後は需給で決まっているということがわかりにくくなっており、市場関係者や理論家は企業の業績見通しと株価は一体のような前提で話をすることになる。

くどいが、それでも結局は需給なのだ。見通しがよくなってもそれに人々が気づかず買わなければ上がらないし、機関投資家が有望でも時価総額が小さすぎて投資対象にならなければ買わないから上がらないし、世界から日本市場が無視されれば上がらない。今ごろ、世界の人々が日本食ブーム、観光ブームの流れの日本ブームで、そのついでに日本株に今さら気づいて買うと最後に上がる、ということだ。

しかし、ビットコインはそんなまどろっこしいことは言わない。いや、まあ言っているが、陰謀論の類いで、ただのポジショントーク、あるいは「欲に目がくらんだたわごとだ」とすぐにわかるから、誰も本気にしない。半減期がなんとかといっても、要はそれをネタにポジショントークをしたいか、それを信じたいか、というだけのことだ。

ファンダメンタルバリューはそこにはない。電気代がいくらかかろうが、結局、電気代を使って得たビットコインを買うやつがいなくては話にならず、買うやつにとっては転売して儲ける以外に用途がないのだから、すべては単なる需給なのだ。

しかも、上がるから買うという、でも価値は誰の目にも明らかにゼロ。しかも本格的な決済の手段としては使えないから、さらに上がるという見通しで買うやつがいない限りゼロ。まさにババ抜きゲームだから、すべては100%需給なのだ。

だからビットコインは上昇する

そこでだ。現物ビットコインのETFの登場なのだ。つまり、いままでのビットコイントレーダー、主に普通の金融商品に投資しない人々だけのバブルババ抜きゲームの世界に、“本物の”いや“古臭い”伝統的なメインストリームの投資家、機関投資家、平凡な、バブルゲーム好きでない、投資だと思って上場金融商品を買う個人投資家たちの需要が流れ込むことになる。

そりゃあ、上がる。まずは、買いから入らないと始まらない。買わなければ売れない。現物ビットコインだから、ビットコインの価格に連動する紙っぺら、いや仮想の金融商品を売買するのと違う。実物(?)のビットコインを買わなければ組成できないETFを買う人々が現れたのだ。しかも、いままでビットコインを投資対象としていない人々だ。しかも、バブルババ抜きゲームとしてではなく、投資、一定期間保有して値上がりを待つ、別の動物たちなのだ。

だから、上がる。このネタでポジショントークをして盛り上げた人々が「待ってました!」とひととおり売るが、買いは続く。ETFの値段が下がっていったん落ち着けば、そこでETFを買う人々が出てくる。だから、売ってしまったバブルトレーダーたちは、いったん底打ちをしたように見えたところで、もう一度ゲームに参入する。あるいは、売ったことを後悔して買ってくる。

これは、18世紀の南海泡沫バブルで儲けたアイザック・ニュートンが、値上がりがさらに急速に続いたのを見て、売ったことを後悔して、再度買って、そこで大暴落の憂き目に遭ったのと同じことだ。

昨年上場した半導体企業であるイギリスのアーム・ホールディングスがIPO(新規株式公開)後、下がり続け、「IPOが株価のピークか」と思われたのちに、盛り返してくるのとも同じ構造だ(こちらは今後、どうなるかは意見が分かれているだろうが)。

したがって、ビットコインは現物ETFを背景に新しい投資家層の流入、それをネタに右往左往する既存のトレーダーたちの混乱で、乱高下をしばらく続け、いったん大幅下落したあと、どこかで再度上昇してくるだろう。

その上昇のきっかけはいろいろあるだろうが、それはまさに現実世界の状況次第、事件次第。株式市場が大幅上昇を続ければ、市場全体の大きなバブルの波に乗ってビットコインもバブルを続けるだろう。

盛り上がった後一気に大暴落か、暗号資産ETFは要観察

一方、アメリカの中央銀行であるFEDの利下げがなくて、慌てた投資家が株価を押し下げたり、あるいは軟着陸すると思われた同国経済が予想以上に一気に冷え込み、それにもかかわらず利下げは中途半端で株がパニック売りになったり……と、そのような“普通の”資産市場が崩れたときにどうなるか。

そのときはまさにバブルゲームを行う場所がビットコインしか残っておらず、資金の逃避先として安全資産が選ばれるように、「ゲーム」の逃避先として、ビットコインバブルゲームが再度盛り上がる可能性がある。

しかしこれは、市場全体の流れに勝てないから、一時的に盛り上がったあと、一気に大暴落する。そのときは、ETFの売り、「普通の」投資家の「ゲーム」ではない売りも殺到するから、とことん下がって、ビットコインの終わりが近づくかもしれない。

したがって、ビットコイン現物ETF上場はビットコインバブルゲームの終わりの始まりなのだ。

ちなみに、アカデミックな研究としても、1980年代、1990年初頭にも、クローズエンドファンドパズルということが言われた。要は、ETFの組成が増えるというのはバブルがピークにある兆候の1つであり、最もバブルになっているもののETF(インド株、あるカリスマ投資家のファンド、ベンチャーファンドETF、直近のSPAC<特別買収目的会社>の上場も同じことだ)が数多く組成されたことが知られている。

このような背景を認識のうえで、暗号資産ETF市場の動きを、今年は観察することをお勧めする。

(本編はここで終了です。このあとは競馬好きの筆者が競馬論や週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)

競馬である。

昨年引退した世界最強馬のイクイノックスは、シルクホースクラブから50億円で社台グループに売却された。これで一口馬主はいくら儲かっただろうか。「募集時は4000万円だったから、グロス(全体)で125倍になった」ということだが、これは実は大損害だ。

イクイノックスの一口馬主はもっとお金をもらえた?

以前のこの連載で書いたように、もしイクイノックスを種牡馬としてオークションにかけたら、おそらく200億〜400億円の間で決まったと予想する。種牡馬を所有することは普通の馬主のように道楽だけではできないし、配合相手もあるし、シンジゲートを組むのが普通である。

だが、個人馬主であった場合には、繋養先と共同保有という形がとれる。いずれにせよ、馬主生活を送っている人々にとってはオーナーブリーダーになることが一番の夢だから、「経営は任せても大株主であり続けたい。それでこそ自分の馬、自分の馬の子供、孫」というとてつもない夢が広がる。

しかし、一口馬主はクラブの決定に従うしかない。シルクと社台グループはファミリーだから、愚痴りたくても、仕方がない。むしろ、イクイノックスをたった4000万円で売ってくれたこと、当歳や1歳時を中心とするセレクトセールというセリで「3億や4億は当たり前」という世界で馬主に売ることもできたのに(イクイノックスは当歳時、そこまで評価されていなかったはずだが)、クラブに安く売ってくれたことに感謝しなければいけないから、仕方がないのだ。

昔、私がシルクホースクラブにのめり込んでいた頃、シルクジャスティスという馬が種牡馬になったのだが、生産した早田牧場に3000万円で買い戻された。この3000万円をめぐって、ちょっとした騒ぎになった。

一部の出資者は、安すぎる、横暴だ、自家取引だと騒いだが、別の馬にばかり出資していた私にとっては、種牡馬になれただけでも狂喜乱舞すべきだ。種牡馬にならず、乗馬になる可能性、最悪行方不明になる可能性すらあったのに、自分の出資した馬が血統表に残るだけで夢のようだ、こいつら何もわかっていない、と思ったものだ。

実際、一口馬主システムはよくできている。このような良血馬をセリで大金持ちに競らせて高く売り飛ばさず、妥当な価格で、一口馬主の庶民に幅広く売る。楽しんでもらう。その代わり、引退後は生産者のもとに帰ってくる。とくに良血牝馬は牧場の基礎となるから、どんなに高く売ってくれと言われても売りたくない。

しかし、売っていかなくては経営が成り立たない。そこで、いわば買い戻し契約付きで一口馬主クラブに売る。要は引退までの期間限定で、その間の権利を売るようなものだ。だから、一口オーナーは少額で楽しめ、牧場はリスク、資金負担分散を図りながら、大事な血統を残し、育て続けることができる。一口馬主制度は、日本が生み出した20世紀最高のイノベーションの1つではないだろうか。

週末は筆者所有の3頭が出走!やっぱり勝ってほしい!

さて、週末は、私が現在出資している5頭のうちの3頭が出走する。しかも、2頭は重賞という夢のような週末だ。息子が学芸会でセリフのある役をもらったような喜びである。出走してくれれば、ほとんどそれで満足なのだ。

いや、ウソだ。勝ってほしい。14日に京都競馬場で行われる日経新春杯(第11レース、芝コース、距離2400メートル、G2)のハーツコンチェルト。実力は一番だし、写真で見る馬体は抜群だ。ただ、昨年行われた菊花賞(G1)で脚をひっかけられ、傷を負った後遺症かどうかわからないが、自分からギアを上げなくなっているというクラブからの報告が……。心配だ。無事に帰ってきてほしい。

もう1頭。13日、小倉競馬場で行われる愛知杯(第11レース、芝コース、距離2000メートル、G3ハンデ戦)は姉のアレグロモデラート。こちらは格上挑戦でハンデ51キロだが、体調絶好調でチャンスありか。

あとは14日の京都競馬場の準メイン、雅ステークス(第10レース、ダートコース、距離1800メートル)のミラクルティアラ。善戦2着続きで「今度こそ」だが、今度の相手が一番の大物ヤマニンウルス。この馬はとてつもない馬になる可能性もある。読者のみなさんも、私の馬は忘れてもヤマニンウルスは覚えておいてほしい。皆の無事を祈っています。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(小幡 績 : 慶應義塾大学大学院教授)