リリースが出ていない…。人知れずトライアウトに挑んだ2選手を追う

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日本プロサッカー選手会(JPFA)が主催する「JPFAトライアウト」が今月12、13日に開催された。今季契約満了を言い渡されたJリーガー(元Jリーガーも含め)たちがピッチ上でスカウトたちにアピールした。

同トライアウトの参加者は当日発表され、各報道機関が参加者一覧を報道することが恒例になっている。中には契約満了リリースが発表される前にトライアウト参加報道でファンが契約満了の事実を知る「先バレ」がこれまで多々あった。リリースが発表されていない人知れずトライアウトに挑んだ2選手を取材した。

旧友、先輩との再会に西山は笑顔

J1横浜FCを契約満了となったDF西山大雅(24)はクラブから契約満了リリースが出ていない中で、トライアウトに臨んだ。この日はセンターバックで25分ハーフの11対11ゲームを2本出場し、空中戦の強さ、緻密なビルドアップを展開するなど持ち味を出した。

「そんな滅茶苦茶いいプレーをしたわけでもないですけど、いつも通りの自分は出せたかな。『絶対まだやりたい』という覚悟は持ってきたので、気持ちを見せられたと思います。ヘディング、ビルドアップは自分の持ち味なので、そこはある程度見せられたかな。でももっと守備の対応などは見てほしいという場面もあったんですけど…。そういう場面はきょうプレーとしてなかったので、それはそれでしょうがないですね。でもビルドアップとヘディングを見せられたので、チームが見つかればいいなと感じではありますけどね」と振り返った。

今季はリーグ戦1試合で出場時間わずか8分(リーグ杯は3試合、天皇杯2試合)と出場機会に恵まれなかったが、ゲーム終了後は複数の関係者が西山に接触するなど、評価は上々だったようだ。

この日はJ3カマタマーレ讃岐満了のDF伊従啓太郎(24、川崎フロンターレU-18出身)と息の合った好連係を披露。絶妙な距離感でビルドアップを形成しながら攻撃を組み立てた。二人は2015年に和歌山県で開催された国民体育大会(国体)の神奈川県少年男子メンバーに選出され、同大会優勝を果たした。旧友との8年ぶりのコンビネーションは色あせていなかった。

西山(左)と伊従

「伊従はひさびさにコンビを組んだんですけど、こんな形でコンビを組むとは思わなかった(笑)。国体のときの優勝メンバーで一緒に組んでいました。やりやすかったですね。ひさびさに組めた嬉しさもありつつ刺激になりましたね」と再会を喜んでいた。

また横浜F・マリノスユースの先輩であるJ2水戸ホーリーホック契約満了のMF新里涼とも面識があった。

新里

西山は「新里くんはすごくプライベートでも仲良くしていただいています。プライベートの方で先に出会ったんですけど、きょう一緒にやれて良かったです。きょうの行きは新里くんが車で一緒に迎えに来てくれて、『こんな形でチームメイトになると思わなかったね』と話をしました(笑)」と先輩とのプレーを楽しんだ。

平井はひた向きな姿勢

J1横浜FMを契約満了となったDF平井駿助(21)もクラブから契約満了リリースが出ておらず、人知れずトライアウトに参加した一人だ。この日はセンターバックで25分ハーフの11対11ゲームに出場し、相手ストライカーへのチェックやブロックなどで体を張ってアピールした。

試合前のアップ後にコーンを片付けるスタッフの手伝いに加わるなど、実直かつひた向きな人柄は関係者からの評価も高い。細やかな気配りを見せながら、ピッチでも存在感を出していた。

トライアウト後に取材を受けた平井は「いつもやってる選手じゃない選手とやって、新しい感覚というか。サバイバル的な気持ちで臨めていい経験になったと思います。僕は緊張したら結構下に行っちゃうタイプなんです。遊び心を持ってやったんですけど、体力がキツかったです」と振り返った。

今季はJFLレイラック滋賀に期限付き移籍をして、リーグ戦28試合5得点1アシストと主力として活躍。チームは上位争いを繰り広げたが、惜しくもJリーグ参入を果たせなかった。主にセンターバックを務め、チーム状況に合わせて右サイドバックでプレーすることもあったが、今季で横浜FMから契約満了を通告されたという。

ただ名門横浜FMでは大きな経験ができた。

「J1優勝争いするクラブで1年だけしかいなかったですけど、練習からすごい雰囲気でやっていました。継続が大事だと思いました。そういう経験を忘れずに継続していければいいと思います。(プロで学べたこと)先輩との関わりはプロに入って苦労した部分もあったので、そういうところは自分から喋りに行って、向き合って改善しようと思ってやってきたと思っています」とチームに感謝を述べた。

リリースが出ていないことに怒り

和やかな雰囲気の中で取材を受けていた西山だったが、リリースの話が出ると一変した。ファンへ別れを告げるクラブからの契約満了のリリースが出ていないことに西山は「そうですね。チームとしてひどいですね。本当にひどいですよね」と不満を口にした。

ファンも報道で契約満了の事実を知り、中にはSNSで怒りの投稿をするサポーターもおり、リリースが出ていないことに納得していない人間も多い。

「(怒っているサポーターは)たくさんブチ切れてください(笑)。僕は横浜FCを満了になった身なので、いくらでも横浜FCのフロント叩いちゃってください(笑)。なんとでも書いてもらって大丈夫です。もしJ2のチームに行けたら横浜FCを倒すために頑張ります」と語気が強かった。

ただこれまで支えてくれたファンへの感謝は忘れていない。「こういう状況ですけど、DMやメッセージとかよくくれる方もいます。常に応援してくれてありがとうございますという気持ちは持っています。なんとかそれを還元できるように頑張ります」とサポーターに向けて笑顔で深く感謝していた。

平井もまたこの話題になると悲しそうな表情を浮かべた。

「とりあえず上を目指すことは変わっていないんで…。引き続き応援しててくれたらうれしいです。見返す気持ちはめっちゃある。マリノスじゃないクラブで対戦することになるかもしれないですけど、僕はそれを目指している。見ていただければいいなと思います」と声援を送り続けたサポーターに感謝しつつ、前を向いていた。

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二人のトライアウトは終わったが、ときには熱く、激しく、ときにはクレバーにピッチ上でプレーしてスカウト陣に全力でアピールした。クラブの事情があるとはいえ、選手へのリスペクトやサポーターへの配慮に対してリリースを出す形で応えてほしい。この日人知れずトライアウトで戦った西山と平井に待望のオファーが届くことを願うばかりだ。