角田裕毅、9位入賞の大逆転劇「汚名返上」の5ポイント獲得で信頼を取り戻す
値千金の9位入賞。そしてスプリント6位入賞の計5ポイント。
アルファタウリのサンパウロGPは、予選を16位・17位Q1敗退で終えた瞬間に終わったかと思われた。
しかし、そこからの大逆転劇。苦境のなかで得たこの5ポイントは、前戦メキシコシティGPで極めて大きなミスを犯してしまった角田裕毅にとって、まさにこのうえない価値を持つリザルトとなった。
角田裕毅のステディな走りが光っていた photo by BOOZY
後方にはフェラーリ勢やアストンマーティン勢、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)らが控えていることもあり、8位以内に留まることは容易でないように思えた。だが、多くのチームが決勝を見据えてタイヤを温存するために中古タイヤを使うなか、決勝が後方スタートのアルファタウリはスプリントレースに重点を置き、新品タイヤで挑んだ。
メルセデスAMG勢やフェラーリ勢がタイヤに苦戦するなか、アルファタウリの2台は彼らを上回るペースを見せ、角田はシャルル・ルクレール(フェラーリ)を猛追。攻略はならなかったが、最後にタイヤグリップを失ったルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)を追い詰め、抜き去って6位入賞を果たした。
それも、飛び込みたくなるターン4のインには行かず、1周待って確実に捉えられるメインストレートで抜く冷静さもしっかりと見せた。前戦メキシコシティGPで得た教訓をしっかりと生かして結果につなげられたことは、角田にとって非常に大きな意味を持っていたと言える。
「これまでのレースよりも忍耐強くレースができていたと思います。特にチャールズ(シャルル・ルクレール)のうしろで走っていた時はそうですね。最悪の状況に陥った時に興奮してしまうクセがあって、それが僕の問題点だったんですが、今日はそれもうまくやれたと思います。
メキシコの出来事が少しフラッシュバックしましたけど、プッシュしすぎることなく落ち着いてルイス(・ハミルトン)を抜くこともできました。なので、今日のスプリントレースにはとても満足しています」
【角田はフルカウンターを当ててスピンを回避】路面温度が50度を超える厳しい環境のなかで、アルファタウリのマシンがいいペースを持っていることはわかった。
しかし、決勝は16番グリッドからのスタートであり、入賞圏まで駒を進めるのが難しいこともわかっていた。どんなに速さがあっても、予選でミスを犯せばレース週末全体を失ってしまうのが、今の超タイトなF1だ。
だが、この日のアルファタウリには運も味方した。
フォーメーションラップでルクレールがマシントラブルにより消え、スタート直後の多重事故で4台が消えた。そして好スタートでピエール・ガスリー(アルピーヌ)を抜いたことで、角田は一気に10位までポジションアップを果たすことに成功したのだ。
赤旗中断を挟み、リスタートでエステバン・オコン(アルピーヌ)を抜いたものの、ガスリーと1周にわたるサイドバイサイドのバトルで抜き返され、不用意に飛び込んで行き場を失ったターン12で隙を突かれ、オコンに再逆転されてしまった。
スプリントでは、アルピーヌ勢を上回るペースを持っていることはわかっていた。だが、アルピーヌはストレートが極端に速いセットアップを採っており、彼らの先行を許すと面倒だという意識が逆に空回りしてしまった。
第1スティントはトレイン集団のなかでの走行。タイヤに厳しい中団勢が早い段階でピットインして行くなか、角田は上位勢と同様に25周前後引っ張る戦略を採り、フリーエアで本来の速さを発揮していった。
その矢先、16周目のターン10で左側のタイヤがわずかにグリーンに落ち、挙動を乱してしまった。
「ターン10でミスをしてポジションをひとつ失ってしまったので、本当にチームに申し訳ない気持ちです。あれは大きなミスでした。あそこでリタイアにならなかったのはラッキーでしたが、ちょっと恐かったです」
ほとんどランオフエリアがなく、バリアが目前に迫るなか、角田は左にフルカウンターを当ててなんとかスピンを回避し、グリップが戻った瞬間に今度は右にフルロック。わずかでも反応が遅れればそのまま左のバリアに突っ込むところを、驚異的なマシンコントロールでセーブした。
【ペースの遅いハミルトンにターゲットを絞ったが...】このハーフスピンで約5秒をロスし、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)の先行を許したが、その後のハイペースで前の集団とのギャップを再び2.7秒まで縮めた。スピン前のギャップが2.0秒だったことを見れば、実はここでのロスはそれほど大きな痛手にはなっていない。
ミディアムタイヤを履いた第2スティントは、ガスリーよりも速いペースでさらにギャップを縮めていった。これに対し、アンダーカットを警戒したガスリーは残り25周という早いタイミングで2度目のピットインをする。
このまま角田が翌周にピットインすれば、ガスリーを抜けないままレースが終わってしまう。アルピーヌはストレートが速いため、コース上で抜くにはタイヤの差が必要となる。
そこで角田はガスリーのペースを見ながら、可能なかぎりピットストップを遅らせて最後にフレッシュなタイヤを履き、そのタイヤ差を利用してガスリーを抜く戦略を採った。置かれた状況のなかでは、その判断が唯一の正解だったと言える。
だが、ソフトに履き替えたガスリーのペースは思いのほか速く、一気にギャップが広がっていく。この時点でガスリーを逆転するのが現実的でないことは明らかで、アルファタウリのターゲットはガスリーではなく、ソフトでもペースの遅いハミルトンを逆転することに絞った。
55周目まで引っ張り、彼らより9周もフレッシュなタイヤを履いて最後に猛追を見せる──それがアルファタウリの狙いだった。だが、9周差があってもガスリーとのペース差は0.3秒、もっと苦しいと思われたハミルトンと比べても0.4〜0.6秒ほどのアドバンテージしかなく、9周ステイアウトの間に13.8秒まで広がったギャップを挽回するには十分ではなかった。
つまり、ソフトタイヤでの自分たちのペースが、思ったほど速くなかったのだ。いや、正しくは、スプリントで苦戦したアルピーヌやメルセデスAMGが決勝には可能なかぎりの修正をしてきた、と言うべきだろう。
【転んでもただでは起きないアルファタウリの戦略】計算上、追い着くのが不可能と判断したアルファタウリは、1回目のピットストップ後に生じていたクラッチの不具合がパワーユニットに及ぼすダメージを最小限に抑え、確実にレースを走りきるため、安全モードへの変更を決断する。ペースは0.5〜0.8秒ほど低下を余儀なくされ、9位確保の走りに切り替えてのフィニッシュとなった。
「最後は信頼性の問題もあってプッシュすることができなかったので、かなりパフォーマンスを失っていました。本当ならもっと上に行けたはずでした。ピエール(・ガスリー)はどうだったかわかりませんが、ルイス(・ハミルトン)を捕まえられた可能性はかなりあった」
ターン10でのハーフスピンや、リスタート直後の攻防でのミス、そしてクラッチ不具合によるピットストップ時の約3.5秒のロスがなければ、ガスリーの前後で7位争いをしていたはずだ。ガスリーを引き離すことができていれば、レース後半はカルロス・サインツ(フェラーリ)との6位争いだったかもしれない。
しかし前述のとおり、自身のミスは自身のドライビングで取り戻しており、16位スタートとトラブルを抱えながらの走行という難しい状況のなか、9位入賞を果たしたステディな走りと戦略は評価に値する。
そして、レース週末全体で5ポイントを獲得したことは、チームにとっても、角田にとっても、汚名を返上する値千金の内容と結果だった。
赤旗で周回遅れとしてのリスタートしかできないとわかった時点で、チームはダニエル・リカルド車にセットアップ変更を施し、予選とスプリントレースで見つけたアイディアを試した。その結果、角田車よりもペースがよく、このデータから得られる知見が今後のレースにさらに生かされることは間違いない。転んでもただでは起きなかった。
アメリカGPの最終アップデート以来、アルファタウリのマシンは競争力を増し、ライバルたちも警戒心を燃やす。
中団での存在感が増してきたアルファタウリ photo by BOOZY
「今の僕たちは中団グループのなかで、ある種のダークホースになっている。3戦連続でポイントを獲得していい流れを掴むことができていますし、この流れを最後の2戦でも維持することが重要だと思います。マシンのパフォーマンスを引き出し、ポイントを獲得し続け、コンストラクターズランキングのひとつ前にいるウイリアムズとのポイント差を縮めたいと思います」
残り2戦、メキシコシティで失った自信と信頼を取り戻し、角田裕毅とアルファタウリがランキング7位へ向けて邁進していく。