試合後のピッチ、ファフ・デクラークと互いの健闘を讃えあうアントワーヌ・デュポン【写真:イワモトアキト】

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ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム

 連日熱戦が繰り広げられているラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は15日(日本時間16日)の準々決勝・南アフリカ戦に28-29で敗れた開催国・フランス代表の主将アントワーヌ・デュポン。

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デクラーク「良いゲームだったな」
デュポン「ああ、そうだな。ありがとう」

 ピッチ上で語り合う2人、その表情からそんな会話があったように思えた。あっという間の80分間だった。その差は1点、開催国として優勝をどのチームよりも渇望していたであろうフランスのW杯が、準々決勝で幕を閉じた。

 スタッド・ド・フランスのピッチに英雄が帰ってきた。フランス代表、アントワーヌ・デュポン。地鳴りのような大歓声が響くスタジアム。相手は前回王者・南アフリカ、負ければ終わりの極限状態の中、レ・ブルー(フランス代表の愛称)のキャプテンは最後まで勇敢にピッチを駆けた。

 いつもと変わらぬ冷静な状況判断、いつもと変わらぬキレのあるプレー、いつもと違うのは右目付近に残る痛々しいアザと見慣れないヘッドキャップくらいだった。擦り傷? 打撲? そんな生優しいものじゃない。顔面骨折、ほほの下にはチタン製のプレートが埋め込まれた状態でのプレーだっだ。

 9月21日のナミビア戦で顔面に強烈なタックルを受けて退場した。ピッチを去る姿から重症の予感がした。翌日、顔面骨折の一報とともに緊急手術、チームから離脱しないとの一報が届いた。復帰に向けてトレーニングを続けるデュポンの姿そのものが、きっとチームのエネルギーになったのだろう。

 試合終了の笛がなるまで、デュポンは顔色ひとつ変えず、勝利を信じてボールを追いかけていた。その背中を、スタジアムの大声援が何度も押した。

 ノーサイドの瞬間、崩れ落ちるようにデュポンはピッチに倒れた。立ち上がることのできないデュポンに手を差し伸べたのは、南アフリカのファフ・デクラークだった。顔を上げたデュポンは、これまでに見たことのない悲しげな表情だった。この試合に、このW杯にかけるデュポンの強い想いその顔から伝わってきた。

 この悔しさが、きっとフランスをより強くする。4年後、デュポンはどんな表情でピッチに立っているだろう。その時は見たことのないような笑顔のデュポンを撮りたい。

■イワモト アキト / Akito Iwamoto

 フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表の試合撮影のほか、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。

(イワモト アキト / Akito Iwamoto)