信頼される「CSR企業ランキング」【非製造業編】

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卸売業の1位は三井物産(撮影:尾形文繁)

信頼される会社をCSR(企業の社会的責任)と財務の両面から見つける「CSR企業ランキング」。総合ランキング、業種別ランキングの製造業編に続いて、非製造業編を紹介する(評価方法など、ランキングに関する解説はこちら)。

CSR・サステナビリティ活動は業種・業態によって傾向に差がある。そのため、各企業の取り組みを評価する際は、全体の順位と合わせて、業種ごとの評価も見ていく必要がある。

そこで今回は、いくつかの業種をまとめた形で、非製造業に分類される各業種上位10社を紹介する。なお『CSR企業白書』2023年版には、各業種最大20位まで掲載している。

水産・農林業/鉱業/建設業の1位は積水ハウス

水産・農林業/鉱業/建設業の1位は積水ハウス(総合ポイント570.0点、以下同)。総合順位でも5位に入った。

2001年から生物多様性に配慮し、在来種中心の庭造りを顧客に提案する「5本の樹」計画を推進。2021年度までの累計植栽本数は1810万本に達する。新築戸建住宅の9割超を、太陽光発電などでエネルギー収支を実質ゼロにするZEH仕様として提供するなど、環境保全への取り組みが進んでいる。好調な業績も財務評価を押し上げた。


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2位は大和ハウス工業(560.8)。全国に展開する事業所を起点に、模型などを使って家の構造や住み方について考える出張授業等を実施している。

3位は鹿島(544.8)。若手社員向けのメンター制度や年1回異動希望を調査する自己申告制度など従業員のキャリア形成支援に取り組む。新卒3年後定着率は95.4%と高水準だ。

以下、4位大成建設(541.2)、5位INPEX(541.0)、6位清水建設(539.7)と続き、水産・農林業のトップ10入りはなかった。

電機・ガス業では大阪ガス(548.8)が前回に続きトップ。天然ガスの採掘・輸送・製造・燃焼の各過程で生じるCO2をCO2クレジットで相殺した「カーボンニュートラル都市ガス」を法人向けに提供する。バイオマス発電所の事業化決定(愛知県田原市)や商業運転開始(千葉県市原市)など再生可能エネルギー事業にも取り組む。


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2位は東京ガス(539.0)。同社もカーボンニュートラルなLNGを活用した都市ガスを提供するほか、水素とCO2からメタンを合成するメタネーションの実証試験や、客先でCO2を資源化するオンサイトCCU技術の開発など、新技術創出への取り組みも推進する。

3位は電力トップとなった中部電力(532.5)。地元主要企業と環境啓発団体「環境パートナーシップ・ CLUB」を設立するなど、地域に根ざした取り組みを進める。以下、4位関西電力(527.7)、5位東京電力ホールディングス(517.7)、6位東北電力(517.5)と続く。

陸・海・空運/倉庫のトップは日本郵船

陸・海・空運/倉庫のトップは日本郵船(544.9)で前回2位から上昇。社長を委員長とするESG経営推進委員会を設置し、そこでの内容を経営会議・取締役会に報告するなど、全社的な方針を定めてESG経営を推進。22年度からは業績連動型株式報酬の一部に、独自のESG指標を反映している。指標の達成度は、報酬諮問委員会で協議のうえ取締役会で決議する。

2位は商船三井(536.1)でこちらも前回4位から上昇。IoTや船舶からのビッグデータ等を活用し、経済性・環境負荷の双方を考慮した運行を行っている。2035年までに輸送におけるGHG排出量原単位を2019年比で約45%削減することを目標に掲げる。

3位は東急(528.8)。育児休業の一部有給化、男性育児休業の取得目標100%を明文化した。21年度の男性育休取得率は88.9%と取り組みが結果に表れている。

以下、4位西日本旅客鉄道(JR西日本、522.8)、5位NIPPON EXPRESSホールディングス(522.6)、6位SGホールディングス(521.2)が僅差で続く。

情報・通信業は、トップ3の企業がいずれも総合順位10位以内と先進企業が多い業種だ。その中での1位は日本電信電話(NTT、572.9)。総合順位でも2位だ。環境、企業統治+社会性はいずれも100点でトップ。良好な財務評価も合わさり、総合ランキング上位の常連企業となっている。

2位はNTTドコモ(570.2点)。5Gサービスを活用した遠隔診療・手術支援による地域間医療格差の是正、ICTを活用した自転車シェアリング事業による環境負荷の低減など、事業を通じた社会課題解決に取り組む。

3位のKDDI(567.6点)は、RPAを全社的に導入して生産性向上を推進。フレックスタイム制の積極活用やタイムマネジメントの徹底等で働きやすい職場環境の実現に取り組む。

以下、4位NTTデータグループ(567.3)、5位NTT東日本(558.4)、6位NTT西日本(548.3)と続き、NTTグループの存在感が強い。

年間教育研修費用は46万円の三井物産

卸売業の1位は三井物産(568.9点)。同社の従業員1人当たりの年間教育研修費用は46万円で、ランキング対象企業トップ。同時間も35時間と高水準だ。人材育成に力を入れている様子がうかがえる。2022年4月から特定分野の高度な専門性を評価するExpertバンド(複線型人事制度)を導入するなど、評価制度の改革にも取り組んでいる。

2位は伊藤忠商事(556.5)。社外有識者を招いて議論を行う「サステナビリティアドバイザリーボード」の定期開催や、投資家向け「サステナビリティ説明会」など多様なステークホルダーとの対話を実施している。

3位は住友商事(549.5)で、前回4位から上昇。インドネシア・スマトラ島での地熱発電や、ベルギーでの洋上風力発電、国内バイオマス発電など、事業として多角的な再生可能エネルギーの創出に取り組む。

以下、4位豊田通商(548.3)、5位三菱商事(540.3)、6位双日(533.2)と大手総合商社が上位を占めている。

小売業の1位はセブン&アイ・ホールディングス(557.1点)。独自開発の販売設備付き軽トラックを活用し、高齢者が多い地域での移動式販売サービスを展開。店舗での食品ロスを堆肥化し、それを使用して栽培した農作物を店舗で販売する環境循環型農業の運営など、事業と一体化した社会課題解決に取り組む。

セブンと並ぶ業界の雄・イオン(548.0)は2位。同社は従業員とその家族・顧客・会社の満足を「ダイ満足」と名付けて、ダイバーシティを推進。女性管理職比率は29.1%とトップクラス。25年度までにグループ全体で同比率50%を達成という高い目標を掲げている。

3位はコンビニ大手のファミリーマート(533.3)。一部の弁当容器を紙製に変更するなど、容器包装の薄肉化や削減、代替素材への切り替えを進め、環境負荷の低減に取り組んでいる。

以下、4位ファーストリテイリング(531.9)、5位丸井グループ(531.8)、6位J.フロント リテイリング(519.9)と続く。

不動産業で上位の企業は?

不動産業トップは大東建託(536.2)。清掃活動や交通安全運動などの地域団体と連携した地域貢献活動に積極的に参画。また、各拠点の防災ステーション化を進め、地域住民との防災ワークショップを実施するなど、広い拠点網を生かした社会貢献活動を展開している。

僅差での2位はヒューリック(535.6)。前回3位から上昇。同社はほかのランキング上位企業と比較すると少人数ながら、女性管理職比率は22.4%、同部長比率は16.7%と業界トップクラス。長期スパンで女性管理職候補を育成するという取り組みの成果が数字にも表れている。

3位は三井不動産(535.4)。事業ごとに環境負荷低減・自然環境の保全などについて定性・定量目標を設定し、ESG推進委員会で進捗管理を行っている。

以下、4位三菱地所(532.7)、5位野村不動産ホールディングス(526.6)、6位住友不動産(509.8)と続く。

サービス業は日本郵政(552.3)がトップ。総合順位でも38位と、同業種内唯一の100位以内だ。高齢者宅を定期的に訪問して生活状況を家族に報告するサービスや、高齢者に毎日電話で体調確認をするサービスなどを展開。全国の郵便局ネットワークを生かして、超高齢社会で生じる社会課題の解決に取り組む。

2位は電通グループ(529.8)。同社は、事業が人権問題として社会に広く影響するという認識から、国内グループ各社に人権教育責任者を設置。研修や啓発活動のほか、美大生と人権ポスターを作成する「人権アートプロジェクト」等を実施している。

3位はリクルートホールディングス(524.6)。前回4位から上昇。出社を前提としない働き方を再構築し、理由・回数不問のリモートワークを全社に導入。取得日を自由に選択できる年間休日を増やすなど柔軟な働き方を実現している。好調な業績も財務評価を押し上げた。

以下、4位博報堂DYホールディングス(506.3)、5位ベネッセホールディングス(504.3)、6位H.U.グループホールディングス(502.9)と続く

気候変動対応に取り組む企業が増加


『CSR企業白書』2023年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

非製造業は、自社保有のオフィスや工場を持たない企業も多く、環境関連の取り組みでは製造業に見劣りする傾向があった。しかし、近年は再エネ電力や省エネソリューションの導入・提供などに取り組む企業が増えている。

実際に、『CSR企業白書』によると、非製造業で「気候変動対応の取り組み」を「行っている」と回答した企業は、2019年356社(41.9%)から2022年577社(61.6%)へと増加している。TCFD提言に基づく情報開示の要請などもあり、環境対応は業種に関係なく必要な取り組みだという認識が広まってきた結果だろう。

各業種のトップ企業の間でも、総合順位を見るとやや傾向に差がある。ただ、業種による取り組み範囲の差などを考慮すれば、本ランキングのトップ各社は業界を代表するCSR・サステナビリティの先進企業といえる。

水産・農林業/鉱業/建設業など3業種の上位10社




情報・通信業、卸売業、小売業の上位10社




不動産業、サービス業の上位10社



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(村山 颯志郎 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)