日々の通勤・通学や買い物、レジャーなど、さまざまな場面で活躍してくれる自転車。免許も必要なく手軽に利用できる交通手段ですが、近年、条例により自転車保険への加入を義務付ける自治体が増えています。

自転車保険とはどのような保険で、保険料はいくらくらいかかり、加入しなかった場合の罰則などはあるのでしょうか。自転車に乗る人なら知っておきたい自転車保険に関する情報を、詳しく解説します。



「自転車保険」の内容と義務化の背景

なぜ義務化されているの?

自転車保険の義務化が進む理由は、自転車事故による被害者を保護し、加害者の経済的負担を軽減するためです。

気軽に乗れるイメージのある自転車ですが、たとえ自転車であっても物を壊したり相手にケガを負わせたりした場合は、道路交通法上の交通事故にあたり、高額な賠償金額が発生することもあります。自転車による事故でも、賠償額の計算方法は自動車やバイクによる事故と変わらないのです。

たとえば、2013年には、夜間に自転車で走行していた男子小学生(11歳)が歩行中の女性(62歳)と正面衝突し、女性に頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ意識が戻らなくなった事故で、9,521万円もの賠償金の支払いが命じられました。

もし、自転車保険に入っていない状態で事故を起こし、物を壊したり人にケガを負わせたりすると、自分の資産から賠償金を支払わなければなりません。加害者が未成年の場合は、その保護者である親に支払いの責任が発生します。

賠償金が数千万円単位と高額なケースだけでなく、数十万円の賠償金であっても、経済的な負担は大きいでしょう。それに、加害者が自転車保険に未加入だと、被害者も困ることになります。加害者が自転車保険に入っておらず高額な賠償金額を支払えないと、被害者は充分な補償を受けることができないからです。

自転車保険の加入義務化はこのように、被害者と加害者、双方の経済的負担を軽減することを目的としているのです。

自転車保険とは

自転車保険(自転車損害賠償保険等)とは、自転車の交通事故により他人の生命または身体を害した場合において、生じた損害を賠償するための保険または共済のことをいいます。

各保険会社から多くの自転車保険が発売されており、補償内容もさまざまですが、自転車保険に欠かせないのは「相手への賠償の補償」と「自分のケガの補償」です。

賠償の補償とは、自転車の使用中にぶつかって相手の物を壊したりケガを負わせたりした際に発生した、相手に対する法律上の賠償の補償を指します。また、自転車でぶつかったことにより自分がケガを負う可能性もあるため、多くの自転車保険では「相手への賠償の補償」と「自分のケガの補償」の2つの補償がセットになっています。

なお、自転車保険で加入が義務化されているのは、事故相手への損害賠償に対する補償の部分です。そのため、必ずしも「自転車保険」という名前がついている保険に加入する必要はなく、「個人賠償責任保険」に入れば加入義務は果たしたといえます。

個人賠償責任保険は、自動車保険・火災保険・傷害保険の特約や、学校のPTAで加入する賠償責任保険、クレジットカードの付帯保険などで加入している可能性があります。まずは、すでに加入している保険の内容を確認してみましょう。

ただし、個人賠償責任保険だけですと、自分自身への補償はありません。自分のケガや死亡・高度障害などに備えたい場合は、自身への補償がついている自転車保険への加入を検討しましょう。

自転車保険に加入しないと罰則はある?

自転車保険への加入を義務付ける条例は2015年10月に兵庫県で初めて導入され、その後、多くの地方自治体に加入義務化の流れが広まりました。

2023年4月時点では、全国32都府県1政令市で自転車保険への加入が義務付けられています。また、10道県では「努力義務」が条例で定められています。

しかし、自転車保険に加入しなかった場合の罰則規定は、今のところどの自治体でも定められていません。自転車は自動車のように番号で管理されておらず、1台ずつ加入の有無を確認するのが難しいことなどがその理由です。

とはいえ、身近な乗り物である自転車でも、万が一重大な事故を起こしてしまえば大変です。お住まいの地域が自転車保険の加入を義務化しているか否かに関わらず、自転車に乗る人は自転車保険に加入して備えておくことを強くおすすめします。

自転車保険に加入する際のポイントと保険料の目安

ひと口に自転車保険といっても、保険会社やプランによって補償内容はさまざま。たとえば、自転車保険には「示談交渉サービス」や「弁護士費用の補償」「ロードサービス」などを付帯できるものもあります。

示談交渉サービスは、事故で法律上の損害賠償責任を負うことになった場合、保険会社が過失の割合や損害の額について相手方と交渉を行ってくれるサービスです。また、弁護士費用の補償は、相手に行う損害賠償請求を弁護士に委任する場合に役立ちます。

ロードサービスは、自転車の故障時などに駆けつけてくれるサービスで、タイヤのパンクや電動アシスト付自転車が動かなくなった時などにも利用できます。中でも、賠償請求をされたときに保険会社が代わりに交渉をしてくれる「示談交渉サービス」は、備えておくと安心でしょう。

また、一般的な自転車保険には個人賠償責任保険が含まれています。万が一高額賠償が発生する事態に備え、個人賠償責任保険の補償金額は最低でも1億円以上に設定されている保険を選びましょう。

では、自転車保険の保険料はどのくらいなのでしょうか。保険会社やプラン、付帯するサービスによって金額はまちまちですが、某損害保険会社の自転車保険を以下のような条件で見積もったところ、保険料は月々340円でした。

某損害保険会社の自転車保険の内容

ちなみに、このプランは被保険者本人のみに適用される「個人型」です。自転車保険には、このほかに家族全員を補償の対象とする「家族型」もあります。

自転車保険の保険料は手頃な金額のものが多いため、保険料の支払いで家計が圧迫される心配はさほど必要ないでしょう。まずは、すでに加入している保険の内容を確認したうえで、自転車保険への加入を検討してみましょう。

自転車事故に備えられているか保険の確認を

近場の移動手段として便利な自転車ですが、一歩間違えれば他人にケガを負わせたり死亡させたりする危険な乗り物になってしまう恐れもあります。安全運転を心がけるのはもちろんのこと、自転車保険が義務化されている地域でもそうでない地域でも、自転車事故に備える保険に加入できているかどうか、いま一度確認しておきましょう。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら