by Felipe Andrade

国民の肥満率が高いメキシコでは、2020年から食品や飲料の栄養成分表示ラベルに厳格な規制が設けられ、高カロリーであったり糖分が多かったりする食品はパッケージで警告することなどが義務づけられています。こうした規制に対し、シリアルや加工食品で有名なケロッグなどの大手食品メーカーがあの手この手で対抗していると海外メディアのSTATが報じています。

Kellogg’s is going to war over Mexico’s nutrition label rules

https://www.statnews.com/2023/08/21/kelloggs-mexico-nutrition-label/



メキシコ経済省と保健省は肥満率低下に向けた政策として、食品に含まれるカロリーや糖分、飽和脂肪酸などが一定の基準を超えたものはパッケージに警告を含めることを義務づけています。また、警告表示のある食品では、パッケージに子どもの購買意欲を高めるマスコットキャラクターをプリントすることが禁じられています。

これらのルールにより、ケロッグはフルーツループやコーンフロスティといったシリアルのパッケージに、トゥカン・サムやトニー・ザ・タイガーといったキャラクターをプリントすることができない状態となっています。



ケロッグはキャラクターの使用禁止を定めるポリシーが企業の権利を侵害しているとして、メキシコ政府に対する訴訟を起こしています。また、Spotifyでトニー・ザ・タイガーの名前でメキシコ人向けのプレイリストを作ったり、有名アナウンサーとトニー・ザ・タイガーが出演するCMを制作したり、メキシコシティの上空でドローンを飛ばして夜空にトニー・ザ・タイガーを写したりと、さまざまな手段で人々にトニー・ザ・タイガーの存在をアピールしています。

また、ケロッグは砂糖の代わりにプシコース(アルロース)という甘味料を用いた新しいバージョンのフルーツループとコーンフロスティを販売し、それらのパッケージにトゥカン・サムとトニー・ザ・タイガーを起用し続けています。メキシコ当局も砂糖を甘味料に置き換える食品メーカーの試みを予想しており、製品に人工甘味料が含まれている場合も警告表示を義務付ける条項をポリシーに盛り込みましたが、食品業界はアルロースを甘味料として分類しないロビー活動に成功したとのこと。

ケロッグは声明で、「私たちは規制要件を完全に順守すると共に、消費者向けにさまざまな新しい食品オプションを開発しました」「アルロースは明確にラベル付けされており、メキシコの規制要件を完全に満たしています」と述べました。



by Mike Mozart

メキシコの政策に対抗してあの手この手で抜け道を探っているのは、ケロッグだけではありません。コカ・コーラやクラフト・ハインツなどの飲料・食品メーカーは、警告表示が義務づけられているのがパッケージの片面だけであることを利用し、2つの面がほぼ同一の見た目になるようなラベルを設計し始めました。

これらのラベルが貼られた商品は、2つの面がほぼ同じ見た目であるのに対し、警告表示されているのは一方の面だけとなっています。そのため、スーパーマーケットは購買意欲をそぐ警告表示を棚の裏側にして、警告表示のない面を棚の表側に向ける傾向があるとのこと。

実際に、STATの記者がメキシコにある3つのスーパーマーケットを調査したところ、多くの炭酸飲料が警告表示が隠れる向きで商品を陳列していたそうです。あるウォルマートでは、コーラのペットボトルと缶のうち警告表示が見えているのは3分の1程度であり、別のスーパーマーケットでは陳列されている60本のファンタのうち警告表示が見えているのはわずか10本だったと報告されています。アメリカの非営利団体・公益科学センターの上級政策科学者であるエヴァ・グリーンタル氏は、「この戦術は、製品の陳列方法に関する小売業者へのガイダンスの必要があることを示しています」と述べました。

また、一部の食品企業ではパッケージにキャラクターをプリントできない代わりに、中身の食品にキャラクターをプリントするという戦術を採用しています。数多くのブランドを抱える菓子パンメーカーのBinboは、パッケージを透明にして中のパンケーキにキャラクターをプリントすることで、引き続き外からキャラクターが見えるようにしています。



STATによると、アメリカの食品医薬品局(FDA)も消費者がより健康的な決定を下すのをサポートするため、メキシコにならった警告表示ポリシー導入を検討しています。FDAの警告表示ポリシーはメキシコのものより控えめになるとみられており、マスコットキャラクターの使用禁止については言及されていませんが、食品メーカーから訴訟やロビー活動、抜け道の活用といったさまざまな抵抗を受けることが予想されます。

ジョージタウン大学オニール国際保健法研究所の研究者であるイザベル・バルボサ氏は、「業界が何かについて不快に思ったり怒ったりしていることは、一般的に物事がうまくいったことの兆候です」と述べ、食品メーカーからの反発は規制が効果的であることの証だと指摘。その上で、アメリカは商業的言論の規制についてメキシコよりはるかに保守的であるため、法廷では強制的な警告表示ポリシーの用語が難しい可能性があると認めています。

ネバダ大学リノ校で公衆衛生学准教授を務めるエリック・クロスビー氏は、「食品業界はポリシーの成功を妨害するために、地獄のように戦うでしょう」「産業界は何年も先を行っており、非常に狡猾です」と述べました。