韓国の人気女性DJ, DJ SODAさんが日本でのフェスで観客からセクハラ被害を受けたことは、韓国のメディアでも報道され大きな波紋が呼んでいる(写真:DJ SODAさんのYouTubeより)

韓国の人気女性DJ「DJ SODA」さんが、大阪で行われた「MUSIC CIRC US、23」でのパフォーマンス中に複数の男女の観客から胸を触られる性被害にあったことは韓国でも報じられ、大きな波紋を呼んでいる。

さらに、台湾の人気ユーチューバー、尼克さんの妹が大阪で「スカートをめくられて、おしりを触られた」と自身のYou Tubeチャンネルでその概要を詳しく配信していたことが伝わり、韓国では日本で相次ぐ性被害を、驚きを持って続報している。

事件そのものも醜かったが、目を疑い、耳を疑ったのは、性被害の原因が被害者にあるとする二次加害となる声が多く上がったことだろう。それは、5年前に#MeToo運動が起き、性に関する被害者への意識が高まったといわれた韓国でも同じだった。

被害の詳細をXで報告

DJ SODAさんは性被害に遭った翌日、「あまりにも大きな衝撃を受けて未だに怖くて手が震えています…」としながら、そのときの様子が収められた写真と共に自身のX(旧ツイッター)でこの事実をこう明かしていた。

「日本の大阪ミュージックサーカスフェスティバルで公演を終えましたが、その時に凄く悲しい出来事がありました。ファンの方々ともっと近くで楽しんでもらうために、私が公演の最後の部分でいつものようにファンの方々に近づいた時、数人が突然私の胸を触ってくるというセクハラを受けました」(原文ママ)

DJ SODAさんは韓国のみならず、アジアでも人気のDJで、Facebookでは1020万人、Instagramで516.7万人(8月18日現在)のフォロワーを持つインフルエンサーでもある。先の投稿はSNSを中心に大きな反響を呼び、韓国でも人気のコミュニティサイトの書き込みにはさらに1000個近い書き込みが並んだものもあった。

「露出が多い服を着ているからだ」などと彼女を非難する内容も多くあったが、それに対し、「露出の高い服を着ていたからと言って人を苦しめることは絶対に許されない」や、「女性の服装のせいにする前に男性の行動は犯罪だ」と反駁する書き込みも相当数、見られた。

自身を非難する内容へ、DJ SODAさんはこう一蹴している。

「私がどんな服を着いたとしても、私に対してのセクハラと性的暴行は正当化できない。私はいつかこの言葉を言いたかったです。当然のことだが、これを言うまで大きな勇気を出さなければならなかった」(原文ママ、DJ SODA さんのXより)

韓国でも根強い”被害者らしさ”を求める通念

メディアも、「DJ SODAセクハラ二次加害へ怒り 正当化できない」(韓国日報8月14日)、「私を触ってくれと露出のある服を着ているわけではない」(ソウル新聞、同)などとDJ SODAさんへの二次加害として取り上げていた。中道系紙の女性記者はこの二次加害についてこう話す。

「#MeTooもやって、性被害への意識も少しはかわっただろうかと思っていたのに、服装が悪かった、落ち度があったと被害者に責任があるように論じたり、"被害者らしさ"を求める通念や固定観念がまだまだ根強いのを実感します。ともかく重ねて声をあげて、認識を深めていくほかありません」

韓国で最近発表された「2022年性暴力安全実態調査研究」(女性家族省)では、46.1%の人が「性暴力は露出がひどい服装のため起こる」と回答しており、これは年齢が高くなるほど、そして同世代でも女性よりも男性にそう回答した傾向があったという。一方、性暴力が起きてしまった時にもっとも必要な政策としては、「被害者の二次被害防止のための政策を準備すること」が挙げられていた。

韓国でDJ SODAさんに続いて報じられたのは、台湾人観光客への日本人男性による性被害についてだった。8月12日、73万人の登録者がいる台湾の2人組のユーチューバーが自身のチャンネルに「大阪でセ●ハラに遭いました」というタイトルの動画をアップし、「これは国際#MeTooです」と訴えていた。

動画では、8月11日、大阪の通天閣の前で、ユーチューバーのひとり、尼克さんの妹が写真を撮ろうと少しかがんでいたところ、「近くの飲食店から出てきた男性が妹のスカートをめくり、手を入れてお尻を触った」と伝えている。

そして、「いちばん悔しかったのはこの場面をカメラに収めることができなかったこと。だからその男をカメラで撮った」と話し、その男性と一行の姿を映し出していた。警察にもすぐに通報しており、警察とのやりとりも動画にでてくるが、意思疎通がうまくいかず、防犯カメラの内容を確認することができなかったという。

尼克さんと共にチャンネルを運営しているASHLYさんは動画で、「信じられなかったのは彼らのグループの中には女性もいたのです。その女性は止めることもなく、ただ見ていました。女性同士なのに少しの思いやりもありませんでした。共犯といえると思います」と話していた。DJ SODAさんの性加害者の中にも女性がいたとされており、あらためて日本での性被害への認識の低さを痛感する。

被害に遭った尼克さんの妹は動画で、「私がスカートをはいていたから、ここの治安が悪いから被害に遭うんだと、そう思いたくないです。納得できません」と話していた。この動画は8月18日時点で147万回再生されている。

襲われた時、何を着ていたかは関係ない

DJ SODAさんが性被害について打ち明けた8月14日、国連広報センターはX(旧ツイッター)にこんなメッセージを出している。

「あなたは何を着ていたか?(What were you wearing?)」

この後には、「性的暴力のサバイバーが襲われた時、何を着ていたかは関係ありません」と続いている。こんな当たり前のことがなぜ共有されないのだろうか。

「MUSIC CIRCUS、23」を主催した「TryHard Japan」は、DJ SODAさんの投稿の翌15日には、事実関係を調査し、刑事告訴や賠償請求などの法的措置をとることを発表した。しかし、主催者側だけでなく、社会全体の問題として、性被害への意識、そして、二次加害について今一度、考える必要があるのではないだろうか。

(菅野 朋子 : ノンフィクションライター)