従来のスピーカーは、小型であれ大型であれ、いずれもコイルや磁石を使用する方法で音を作り上げています。こうした方法はスピーカー間の音量や位相のばらつきが大きく、イヤホンなどに搭載するときに求められる小型化の点で難がありました。こうしたスピーカーの作りを一変するかもしれない「ソリッドステート・スピーカー」への注目が集まっています。

Executive Insight: When Speakers Are Forged In Silicon - TWICE

https://www.twice.com/blog/executive-insight/when-speakers-are-forged-in-silicon



Exotic New Silicon-Based Speakers Are Coming to Next-Generation Earbuds - WSJ

https://www.wsj.com/articles/exotic-new-silicon-based-speakers-are-coming-to-next-generation-earbuds-ee99b76b

ソリッドステート・スピーカーは、コイルとマグネットの代わりに、電気信号を音波に変える部品であるサウンド・アクチュエータとして薄膜ピエゾ技術を使用しています。この技術で使われるフィルムは半導体製造プロセスと同様の手段でシリコンに層状に塗布され、空気を動かして音を出すスピーカーの振動板となります。

コイルがなく、作動部品と振動板部品がシリコンで作られているため、ソリッドステート・スピーカーは電圧に即座に反応し、共振部品による音の濁りや変色がない、高品質な音を提供することが可能です。これは、デジタル化されたロスレスオーディオや空間オーディオなど、より高品質なオーディオコンテンツが増加しつつある今日、非常に重要な技術となります。



ストレージの分野がHDDからSSDに移り変わりつつあるように、スピーカーも半導体による製造に変化しつつあり、ガラスやシリコンの基板1枚で閉塞(へいそく)感と開放感の両方を演出したり、既存のスピーカー技術よりも忠実度の高いサウンドを再生したりすることが期待されているのが現状。半導体製造工場はすでに大量に作られているため、スピーカーのために流用することへのハードルは低いといえます。

2014年に設立されたUSoundの最高技術責任者であるアンドレア・ルスコーニ・クレリチ氏は、「MEMS」と呼ばれる技術をベースにしたスピーカーは厚さ1ミリメートルにまで小型化が可能で、スマートフォンやイヤホンなどの機器に使用される一般的なスピーカーの4分の1の厚さにすることができると述べています。



スピーカーでMEMS技術を使った製品は記事作成時点で数えるほどしか出荷されていませんが、この技術を開発している企業のひとつであるxMEMSはスピーカーのプロトタイプを数十社に提供しており、そのうち30社以上がこの技術をベースにしたイヤホンやその他の製品に取り組んでいるとのこと。

ウォール・ストリート・ジャーナルは「この技術は、あらゆるスマートフォンやイヤホン、スマートグラス、その他さまざまなスピーカー搭載端末に使われるようになるかもしれません。しかし、オーディオ業界の大手企業がソリッドステート・スピーカーを採用するとしても、その移行には数年、あるいは数十年かかるでしょう。今のところ低音を出すのには既存のスピーカーの方が優れているので、2つの技術を合わせた製品が誕生するかもしれません」と述べました。