「露出度の高い服で歩く」「店のトイレを詰まらせる」も該当! 実は「法律違反」になり得る身近な行為6選【後編】
法律違反になり得る「身近な行為」と聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべますか。誰もが日常生活上で“無意識のうちに”、“知らない間に”行ってしまいかねない違反行為について、【前編】では「路上で嘔吐(おうと)する」「ゴルフクラブを持ち歩く」といった行為を紹介しましたが、実は、他にもまだまだあるようです。どんな行為が法律に触れてしまうのか、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
自宅の「鳥の巣」撤去も“違反”
Q.日常生活で、知らない間に行ってしまいかねない「法律違反になり得る行為」は、他にも存在するのですか。
牧野さん「まだまだあります。日常生活で何気なく行ってしまうことのある、法律違反に該当する可能性をはらむ行為の例は、次の通りです」
【受け取った釣り銭が多かったが、それを申告しない・返さない】
店員からお釣りを多く受け取った場合に、「お釣りが多い」と店員に告げて返金しないと、店員がお釣りを間違えている状況で、こちら側に「告知義務」がある場合に不作為(黙って何もしないこと)による詐欺罪が成立する可能性があります。
お釣りが多いと気付いていながらそのまま立ち去ると、詐欺罪(法定刑は10年以下の懲役)が成立する可能性が高いので、注意しましょう。
【自分に処方された薬を、家族や友人に渡す】
病気やけがで医師の診察を受けて処方された薬は、他人に譲渡してはいけません。「医薬品医療機器法(薬機法)」第24条は、業としての医薬品の販売・授与・授与目的の貯蔵・陳列について、薬局開設者または医薬品販売業の許可を受けた者でなければ認めていません。「業として」とは、「反復継続し、社会通念上、事業の遂行とみることができる程度のもの」と理解されています。
第24条により、有償・無償にかかわらず、他人に処方薬を譲渡すると違反になる可能性があるので注意が必要です。この規定に違反して、有償・無償にかかわらず、他人に処方薬を譲渡すると、84条9号の規定によって、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科が課される可能性があります。
なお、2019年に、千葉県野田市の病院関係者が、販売目的で許可なく処方薬を所持していたとして、薬機法違反容疑で事情聴取を受けたと報じられました。病院関係者ではなく、患者が自分に処方された薬を譲渡した場合にも、薬機法の適用を受ける可能性があるので注意が必要です。
【行列に割り込む】
軽犯罪法第1条13号では、「公共の場所で多数の人に対し、乱暴な言動で迷惑をかけたり、公共の乗り物や演劇などの切符を買うためにできている列に割り込んだりすること」を禁じています。違反すると、拘留(1日以上30日未満の拘留)、または科料(1000円以上1万円未満の罰金)に処される可能性があります。
【自宅の敷地内に作られた鳥の巣や卵を撤去する】
合法的に巣を撤去するには、「巣作りを始めたとき」に限られます。卵やヒナのいる状態の巣の撤去は、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」に違反する可能性があります。卵やヒナのいる巣の撤去を行う場合には、市町村の許可が必要です。
トイレを詰まらせたら「器物損壊罪」?
【露出度の高い服装で街を歩く】
どの程度の露出をすると犯罪になるかという、明確な法的基準はありません。刑法174条「公然わいせつ罪」(1カ月以上6カ月以下の懲役、もしくは1万円以上30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料)は、「公然と徒(いたずら)に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」が対象です。
公然わいせつ罪の典型例としては、一般道路など公共の空間で陰部を露出したり、性交や性交類似行為をしたりすることなどであり、どんな服装であっても、“裸同然”と見なされない限り、公然わいせつ罪に該当することはまれでしょう。
ただ、胸の谷間や臀部(でんぶ)、太ももを露出している場合、軽犯罪法第1条20号の「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方で尻、ももその他体の一部をみだりに露出した者」に該当する可能性があります。この場合には、拘留(1日以上30日未満)、または科料(1000円以上1万円未満)に処せられることがあるので要注意です。
なお、下着が透けて見える服装や、水着で街を歩く場合にも、肌の露出の程度によっては軽犯罪法違反となる可能性があります。実際に2017年7月、JR静岡駅前広場で衣服を脱ぎ、ブラジャーとパンツだけの姿になった女性が公然わいせつ罪の容疑で現行犯逮捕された例があります。女性は、「暑かったので服を脱いだ」と供述していたそうですが、公然わいせつ罪の容疑で現行犯逮捕されたということなので、おそらく汗で下着が透けてしまい、裸体同然の状況だったのではないかと思われます。
【公衆トイレや一般店舗のトイレを詰まらせる】
トイレを詰まらせた際に問われる可能性が高いのは、器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)です。意図的に(故意に)トイレを詰まらせて、機能を果たさないようにさせることが「損壊」にあたります。例えば、「詰まらせるためにいたずら目的で異物を流す」「大量のトイレットペーパーを詰まらせるために流す」などが該当するでしょう。
誤ってトイレを詰まらせてしまった(過失犯)場合は、器物損壊罪とならず処罰はされませんが、民事上の損害賠償責任を問われる恐れはあるでしょう。トイレが詰まってしまったことを申告せず、「その場から逃げた」場合も、民事上の「不法行為」(民法709条)の過失行為にあたり、損害賠償責任を問われる恐れがあると考えられます。
他方、店舗や施設などのトイレを意図的に詰まらせて、業務を妨害する結果を生じさせた場合には、偽計業務妨害(刑法233条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が課される可能性があります。例えば、「お酒に酔って正常な判断ができなくなり、トイレを意図的に詰まらせてしまった」「その店舗に恨みがあり、営業妨害をしようとして大量のトイレットペーパーを詰まらせた」などのケースが該当するでしょう。