『聖闘士星矢 The Beginning』に勝算はある!?知名度が著しく低い欧米にあえて勝負
日本のアニメが海外で人気といっても、国によって、作品によってその熱量というのは全く違っている。今作の原作となっている車田正美の代表作『聖闘士星矢』という作品は、ヨーロッパやアジア、中南米を中心に人気を博している。しかし欧米においてはそれほど人気があるというわけではない。というより知っている人自体が少ないかもしれない。
『ワンピース』や『僕のヒーローアカデミア』『NARUTO』などのようにリアルタイムに展開されているものや、近年の作品の方が一般的には人気が高く、『ドラゴンボール』のように長年愛されている一部例外作品はあっても、日本で人気のある『ジョジョの奇妙な冒険』や『スラムダンク』、『北斗の拳』などの80〜90年代を代表する少年ジャンプ漫画は流通形態の関係もあってか、欧米では全く知られていないというわけでもないが、それほど人気がない。
【写真】『聖闘士星矢 The Beginning』場面写真
日本をはじめ、アジアで爆発的人気漫画『スラムダンク』の映画『The First Slam Dunk』(2022)も欧米ではかなり温度差があって、最近になって2023年内公開予定となってはいるものの、公開に前のめりというわけではない。
そして『聖闘士星矢』の場合も、知られはじめたのは漫画やアニメというより、『聖闘士聖衣神話(セイントクロスマイス)』というフィギュアシリーズをバンダイがプレビュー誌(アメコミショップに配布する注文式のコミックやフィギュアのカタログ)や、ネット販売を通じて欧米でも展開させはじめたことがきっかけで、ここ5、6年と割と最近である。
サンディエゴやニューヨーク・コミコンなどでも『聖闘士星矢』のブースがあったりもするが、コミコンに行くのはアニメやコミックのファンがほとんど。一見、超絶的人気のような盛り上がりに感じるかもしれないが、一般ユーザーはコミコン自体にほとんど行かない。そこの盛り上がりを一般層と結びつけること自体に無理があるのだ。
今はNetflixやAmazonなどの配信サービスもあったり、インターネットを通じて海外の作品に簡単にアクセスできるようになったことで、多少その温度差に変化はあったのかもしれないし、Netflixアニメとして2019年から『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』が世界配信されてはいるものの、日本やヨーロッパのように20年以上愛されている作品というわけではない。
だからこそ今作をヨーロッパではなく、ハリウッドで映画化するというのは、なかなかチャレンジングなことであるし、逆に知名度を上げようと制作したのかもしれないが、かなりハードルが高いことに変わりはないだろう。
今作の監督を務めているトメック・バギンスキーはポーランドの監督であり、おそらく小さい頃から作品に触れていたのだろう。MAKE-UPによるアニメ版主題歌『ペガサス幻想』をアレンジした曲を採用していることなどからも原作愛があるのはなんとなく伝わってくる。制作されたのはハリウッドであっても、ターゲットとしては実は欧米以外なのかもしれない……。
かつてアメコミ映画も90年〜2000年代は一般的には『バットマン』や『スパイダーマン』シリーズしか知名度がなく、誕生譚を描くと全体の尺が圧迫されるため、結果的に描けることが少なくなり、上手くいかないことが多かった。そのため『デアデビル』(2003)や『ハルク』(2003)、『ゴーストライダー』(2007)なども興収的に沈没してきた。つまり欧米において『聖闘士星矢』はその逆バージョンだと思った方がいいだろう。
そういった事情もあって、原作人気、アニメ人気で観客を呼び込めるという期待が薄いからなのか、SF的アレンジが効いていて、ストリートファイトやガンアクションなども豊富で原作とはまた違った世界観の中に日本の漫画特有の修行シーンがあるという不思議な空間が展開されている。
他者のためにひとりを犠牲にするか、ひとりのために他者を犠牲にするかといった王道のテーマも盛り込まれていて、作品としては悪くはない。
ただこれをシリーズ化しようと思うのであればスタートが肝心であって、おそらく興収次第で……ということなのだろうが、それを目指して作ったファンタジーや漫画原作映画が1作目で沈没するケースが非常に多い。
それであれば、最初から最低限の主要5人の聖闘士を揃えての、2014年の3DCG映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』を実写にしたようなハイテンションのバトル映画にした方が幸先は良かったような気がしてならない。
新田真剣佑を若手のジャパニーズ・アイコンとして世界に売り出すことには大きく機能しているようにも感じられる。中間層としては真田広之や渡辺謙、浅野忠信などが活躍しているが、若手で知名度のある日本俳優がそれほど思い当たらないし、『ゴジラvsコング』(2021)に出演した小栗旬も出演シーンが大幅にカットされて、何がしたいキャラクターなのかわからなくなっていた。
真剣佑の場合は、父の千葉真一と共演したインディーズ作品『Take a Chance』(2015)や『パシフィック・リム: アップライジング』(2018)など、アメリカ映画に出演したことはあるものの、ハリウッドの主演というのは今回が初めて。
今作の欧米での公開は5月12日と日本よりも2週間遅く、比較的競合作品のない週を設定しているものの、まだまだ勢いのある『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や5月3日から公開の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』もあったりと、どこまで興収をあげられるか不安はあるものの、主演ということの影響力はそれなりにあるだろうし、続けてNetflixで年内に配信予定のドラマ版『ワンピース』ではゾロ役を演じていることもあって、今後、若手の日本人=新田真剣佑というイメージが定着することは大いにあり得るだろう。
【ストーリー】
自らの身体に“小宇宙”という力が宿っていることを知らない若者、星矢。
地下格闘技でその日暮らしをしながら生き別れた姉を探していた彼は、
ある日闘いの最中にその“小宇宙”を発したことで謎の集団から狙われることに。彼らは強い“小宇宙”の持ち主と、シエナと言う女性の命を狙っていた。
ペガサスの星のもとに生まれた星矢の使命は“知恵”と“戦い”の女神アテナの生まれ変わりであるシエナを守り、世界を救うこと。自らの秘めた力に気づいた時、彼はこの世界を救う“聖闘士(セイント)”となる。
【クレジット】
監督:トメック・バギンスキー
原作:車田正美『聖闘士星矢』
脚本:ジョシュ・キャンベル&マット・ストゥーケン AND キール・マーレイ
キャスト:新田真剣佑、ファムケ・ヤンセン、マディソン・アイズマン、ディエゴ・ティノコ、マーク・ダカスコス、ニック・スタール、ショーン・ビーンほか
製作:東映アニメーション
日本配給:東映
オフィシャルサイト:https://kotzmovie.jp/ Reserved.
(C)2023 TOEI ANIMATION CO., Ltd. All Rights Reserved
2023 年 4 月 21 日(金) 全国公開
【あわせて読む】『好きな漫画実写化作品は?』2000人に聞いた1位は『るろうに剣心』、原作への愛が伝わる
『ワンピース』や『僕のヒーローアカデミア』『NARUTO』などのようにリアルタイムに展開されているものや、近年の作品の方が一般的には人気が高く、『ドラゴンボール』のように長年愛されている一部例外作品はあっても、日本で人気のある『ジョジョの奇妙な冒険』や『スラムダンク』、『北斗の拳』などの80〜90年代を代表する少年ジャンプ漫画は流通形態の関係もあってか、欧米では全く知られていないというわけでもないが、それほど人気がない。
日本をはじめ、アジアで爆発的人気漫画『スラムダンク』の映画『The First Slam Dunk』(2022)も欧米ではかなり温度差があって、最近になって2023年内公開予定となってはいるものの、公開に前のめりというわけではない。
そして『聖闘士星矢』の場合も、知られはじめたのは漫画やアニメというより、『聖闘士聖衣神話(セイントクロスマイス)』というフィギュアシリーズをバンダイがプレビュー誌(アメコミショップに配布する注文式のコミックやフィギュアのカタログ)や、ネット販売を通じて欧米でも展開させはじめたことがきっかけで、ここ5、6年と割と最近である。
サンディエゴやニューヨーク・コミコンなどでも『聖闘士星矢』のブースがあったりもするが、コミコンに行くのはアニメやコミックのファンがほとんど。一見、超絶的人気のような盛り上がりに感じるかもしれないが、一般ユーザーはコミコン自体にほとんど行かない。そこの盛り上がりを一般層と結びつけること自体に無理があるのだ。
今はNetflixやAmazonなどの配信サービスもあったり、インターネットを通じて海外の作品に簡単にアクセスできるようになったことで、多少その温度差に変化はあったのかもしれないし、Netflixアニメとして2019年から『聖闘士星矢: Knights of the Zodiac』が世界配信されてはいるものの、日本やヨーロッパのように20年以上愛されている作品というわけではない。
だからこそ今作をヨーロッパではなく、ハリウッドで映画化するというのは、なかなかチャレンジングなことであるし、逆に知名度を上げようと制作したのかもしれないが、かなりハードルが高いことに変わりはないだろう。
今作の監督を務めているトメック・バギンスキーはポーランドの監督であり、おそらく小さい頃から作品に触れていたのだろう。MAKE-UPによるアニメ版主題歌『ペガサス幻想』をアレンジした曲を採用していることなどからも原作愛があるのはなんとなく伝わってくる。制作されたのはハリウッドであっても、ターゲットとしては実は欧米以外なのかもしれない……。
かつてアメコミ映画も90年〜2000年代は一般的には『バットマン』や『スパイダーマン』シリーズしか知名度がなく、誕生譚を描くと全体の尺が圧迫されるため、結果的に描けることが少なくなり、上手くいかないことが多かった。そのため『デアデビル』(2003)や『ハルク』(2003)、『ゴーストライダー』(2007)なども興収的に沈没してきた。つまり欧米において『聖闘士星矢』はその逆バージョンだと思った方がいいだろう。
そういった事情もあって、原作人気、アニメ人気で観客を呼び込めるという期待が薄いからなのか、SF的アレンジが効いていて、ストリートファイトやガンアクションなども豊富で原作とはまた違った世界観の中に日本の漫画特有の修行シーンがあるという不思議な空間が展開されている。
他者のためにひとりを犠牲にするか、ひとりのために他者を犠牲にするかといった王道のテーマも盛り込まれていて、作品としては悪くはない。
ただこれをシリーズ化しようと思うのであればスタートが肝心であって、おそらく興収次第で……ということなのだろうが、それを目指して作ったファンタジーや漫画原作映画が1作目で沈没するケースが非常に多い。
それであれば、最初から最低限の主要5人の聖闘士を揃えての、2014年の3DCG映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』を実写にしたようなハイテンションのバトル映画にした方が幸先は良かったような気がしてならない。
新田真剣佑を若手のジャパニーズ・アイコンとして世界に売り出すことには大きく機能しているようにも感じられる。中間層としては真田広之や渡辺謙、浅野忠信などが活躍しているが、若手で知名度のある日本俳優がそれほど思い当たらないし、『ゴジラvsコング』(2021)に出演した小栗旬も出演シーンが大幅にカットされて、何がしたいキャラクターなのかわからなくなっていた。
真剣佑の場合は、父の千葉真一と共演したインディーズ作品『Take a Chance』(2015)や『パシフィック・リム: アップライジング』(2018)など、アメリカ映画に出演したことはあるものの、ハリウッドの主演というのは今回が初めて。
今作の欧米での公開は5月12日と日本よりも2週間遅く、比較的競合作品のない週を設定しているものの、まだまだ勢いのある『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や5月3日から公開の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』もあったりと、どこまで興収をあげられるか不安はあるものの、主演ということの影響力はそれなりにあるだろうし、続けてNetflixで年内に配信予定のドラマ版『ワンピース』ではゾロ役を演じていることもあって、今後、若手の日本人=新田真剣佑というイメージが定着することは大いにあり得るだろう。
【ストーリー】
自らの身体に“小宇宙”という力が宿っていることを知らない若者、星矢。
地下格闘技でその日暮らしをしながら生き別れた姉を探していた彼は、
ある日闘いの最中にその“小宇宙”を発したことで謎の集団から狙われることに。彼らは強い“小宇宙”の持ち主と、シエナと言う女性の命を狙っていた。
ペガサスの星のもとに生まれた星矢の使命は“知恵”と“戦い”の女神アテナの生まれ変わりであるシエナを守り、世界を救うこと。自らの秘めた力に気づいた時、彼はこの世界を救う“聖闘士(セイント)”となる。
【クレジット】
監督:トメック・バギンスキー
原作:車田正美『聖闘士星矢』
脚本:ジョシュ・キャンベル&マット・ストゥーケン AND キール・マーレイ
キャスト:新田真剣佑、ファムケ・ヤンセン、マディソン・アイズマン、ディエゴ・ティノコ、マーク・ダカスコス、ニック・スタール、ショーン・ビーンほか
製作:東映アニメーション
日本配給:東映
オフィシャルサイト:https://kotzmovie.jp/ Reserved.
(C)2023 TOEI ANIMATION CO., Ltd. All Rights Reserved
2023 年 4 月 21 日(金) 全国公開
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