ミニバンの主流が7人乗りに移りつつあったなか、日産の新型セレナはあえて8人乗り推しでライバルに挑んでいます。2列目を豪華に、3列目も快適に――その結果としての7人乗りでしたが、再び8人乗りが見直されているようです。

「2列目も3列目も注力」結果としての7人乗り推し

 ミニバンのいちばんの魅力は、「多人数が乗れること」という時代から「どの席でも快適なこと」へと移行し、今再び、変革期に入っているようです。とくにトヨタの「ノア/ヴォクシー」、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」を御三家とする、3列シートのMクラスミニバンに大きな変化が見られます。


新型セレナの車内(画像:日産)。

 2022年にフルモデルチェンジしたノア/ヴォクシーは、超ロングスライドでオットマンやシートヒーター、大型テーブルなどが装備される豪華仕様の2列目シートが大きな目玉。リクライニングでくつろぐ様子は、もはや“プチアルファード”と注目を集めました。もちろん豪華仕様のメインで推しているのは2列目がキャプテンシートとなる7人乗り(前列から2人掛け+2人掛け+3人掛け)で、どちらかというと2列目ベンチシートの8人乗り(2人+3人+3人)はシートアレンジや大容量のラゲッジといった、使い勝手の良さで推している印象があります。

 同じく2022年にフルモデルチェンジしたステップワゴンともなると、2列目がキャプテンシートとなる7人乗りが全車標準。オプション選択で、ベンチシートとなる8人乗りを選ぶ設定となりましたが、トップグレードの「PREMIUM LINE」は7人乗りのみ。そして2列目のシートヒーターが標準装備となるなど、やはり豪華仕様が推しとなっています。

 そして、ノア/ヴォクシー、ステップワゴンに共通しているのが、3列目シートの居住性や快適性を重視している点です。これはセレナも含めて先代から、「エマージェンシー的な使い方」や「3列目は狭くても仕方ない」という考え方は消えており、両者ともさらに3列目シートのスペースをゆったりと確保しています。

 とくにステップワゴンは、クッションの厚みやドリンクホルダー、小物トレイ、USBといった使い勝手にまでこだわりを見せ、トリプルゾーン・コントロール・フルオートエアコンまで装備されて空調による快適性もアップしています。ノア/ヴォクシーの3列目シートは、ワンアクションで跳ね上げ格納が可能となった、発明級の機能を両立するために座面の薄さは気になりますが、実際に試乗してみるとそれほど乗り心地は悪くなく、足元スペースには余裕がありました。

セレナは8人乗りで“7人乗りに変身”もできます!

 では、2022年11月にいよいよフルモデルチェンジとなったセレナは、どんな戦略で挑んできたのでしょうか。

 先行して登場したガソリンモデルには、意外にも7人乗りの設定がなく、全車が8人乗り。インパネはスイッチ式シフトの採用などで未来的なデザインですが、シート周辺にはライバルのような豪華装備は見当たらず、シートヒーターも寒冷地仕様の4WD以外はパッケージオプションとなっています。

 ただ、8人乗りの設定しかなくても、セレナの2列目シートはセパレートで、キャプテンシートとして使えます。

 その秘密が、セレナ独自の「スマートマルチセンターシート」。レバー1つの操作だけで、1列目と2列目を自在にスライドさせることができ、8人乗りとして2列目をベンチシートのように使いたい時には、2列目の中央にセット。ロックを解除すれば背もたれが立ち上がり、ヘッドレストも装備されます。シートベルトは2列目の右側のシートに備えられていて、なんの違和感もなく中央に座ることができます。


新型セレナ。ガソリン車以外のグレードは2023年春の予定(画像:日産)。

 キャプテンシートで7人乗りのようにゆったりと使いたい時には、2列目のセンターシートを1列目の中央にセットすれば、ティッシュボックスの収納やコンビニフックがついた、便利なアームレストとして使えるようになっています。この機能が全車標準装備となっているセレナは、ユーザーのライフスタイルに合わせて、7人乗りでも8人乗りでも、1台でどちらでも使えるようにしたところがライバルとの最大の違いです。

豪華主義ミニバンも撃ち落とせ! セレナ逆襲のシナリオ

 1つ弱点を挙げると、セレナの2列目シートにはアームレストがついていません。スマートマルチセンターシートをスムースにスライドさせるためだったり、ベンチシートとして使う時にしっかりと両側のシートにフィットさせるためだったりすると考えられますが、座面や背もたれもあまりクッションの盛り上がりがなく、平らに近い形状となっています。

 これは関係者に確認したところ、ガチで狙っていたわけではないそうですが、そうしたシート形状や自在にアレンジできる機能が結果的に、アウトドアブームで需要が増えている「車中泊」にも便利に使えるようになったとのこと。3列目シートまでをフルフラットにしてみると、ライバルと比べてセレナは凹凸や傾斜が少なく、隙間もほとんどないため、そのままマットを敷けば快適に横になれそうです。こうした特徴は、日常では7人乗りとしてゆったり使い、休日にはアウトドアレジャーで活用したいというユーザーにも刺さるのではないかと思います。

 また、セレナはのちに最上級モデルとなる「LUXION」の投入が予定されていますが、LUXIONは7人乗りのみの設定。専用インテリアで、2列目シートもキャプテンタイプでアームレストも装備されます。ハンズオフ走行が可能となる安全運転支援システム「プロパイロット2.0」の搭載もアナウンスされているので、ノア/ヴォクシーの豪華仕様にはLUXIONで対抗してくるようです。


ライバルとなるステップワゴン(上段)、ノア/ヴォクシー(画像:ホンダ/トヨタ)。

 このように今、Mクラスミニバンは7人乗り豪華派か、8人乗りレジャー派か、二極化しはじめていると考えられます。今後、どちらがメインストリームになるのか、変革期に今後も注目していきたいと思います。