「鼻、短くしました」異例の進化を遂げた新・山形新幹線E8系 秋田E6系の“堅実派な弟”?
山形新幹線で2024年春にデビュー予定の新型「E8系」電車が、仙台近郊の車両基地で公開されました。秋田新幹線のE6系の設計が踏襲されていますが、細かい変化が随所に感じられます。
変わったようで変わってない?でも変わった「E8系」
ついに実際の姿が明らかになった、山形新幹線の新型車両「E8系」。2024年の春のデビューまで1年に迫っています。2月24日(金)に仙台近郊の新幹線総合車両センターにて報道公開され、これまでイメージ図だけだったそのフォルムが、ベールを脱ぎました。15編成が導入予定で、製造は川崎車両と日立製作所が担当します。
このE8系、基本的には秋田新幹線E6系を踏襲した設計です。しかし、E6系とはやはり何か違う印象があります。どう変わっているのか、車両技術センターのユニットリーダーである白石 仁史さんに尋ねてみました。
24日に公開された新型新幹線E8系電車(乗りものニュース編集部撮影)。
まず一番の変化が、「鼻の長さ」です。先頭の長さが13mから9mへ短くなったことで、「ずんぐりむっくり」の印象を受けます。
新幹線は歴史的に、高速性を追求し鼻が長くなっていった、というイメージがあるかもしれません。白石さんは「もともとロングノーズは、トンネルに入った瞬間の『バン!』という空気の衝撃を緩和するための設計。E8系の最高速度は300km/hで、『はやぶさ』の320km/hより低く、この速度域ならそこまでのロングノーズでなくてもいいのです。それよりも、鼻先を短くしたことで、座席数は秋田新幹線E6系よりも4列多く確保できているというメリットがあります」と話します。
秋田新幹線E6系の定員は330名でしたが、E8系では355名へ増加しているとのこと。しかしながら、現在のE3系はロングノーズ導入前なので定員394名です。そこから減るのは致し方ないですが、E6系からの設計変更によって減少が最低限になるよう工夫されています。
先頭形状はまた、E6系と比べ、腰回りや側面〜先端へ伸びるエッジがまろやかになって、どこか“つるん”とした印象があります。これについて白石さんに尋ねると「そうですか?」との反応が。
「エッジの立ち具合は、E6系とさほど変わっていません。おそらくカラーリングの違いによるものでしょう。またE8系はエッジの部分に黄色のラインが引かれているので、エッジが目立たなくなっているのかもしれません」(白石さん)
顔の印象の変化としては他に、運転席の三面張りの窓の正面部分が狭くなっているという印象を受けます。これについては「たしかに、若干横幅が狭くなっています。ただし、視界にピラーが来るということもなく、運転に影響はありません。そもそも窓は大きければいいというものではなく、大きすぎると直射日光のせいで運転席が灼熱になるというデメリットもあるのです」と白石さんは話します。
“ピンクのパンタグラフ”は却下されちゃった
側面を見ると、目につく違いが先頭車の客室ドアが「運転室ドアの真横」にあるということ。ドアが近い位置で2枚並んでいるのです。E6系は後ろの連結部近くにドアがあったのですが、この位置変更の理由は「火災など緊急時の逃げ道が確保しやすいということで、前に移動しました」とのこと。
E8系新幹線の先頭車。ドアが運転席側にあり、乗務員用と合わせて2枚連続している(乗りものニュース編集部撮影)。
その他、パンタグラフは鮮やかな赤色。これはE5系やE6系から受け継がれています。「状態がパッと見やすいという理由で、今回の新車E8系も赤を採用しました。設計段階で『今回は鮮やかなピンクにしよう!』と提案したのですが、却下されました」(白石さん)
車内設備で目につく大きな変化が、コンセントが「肘掛けの付け根」にあるということ。既存の新幹線車両では前の座席の足元や壁下にあったり、JR東海のN700Sでは肘掛けの先端に付いています。新機軸ともいえるE8系のコンセント位置については、「これまでのコンセント位置では、乗客がコードに足をひっかけるという課題がありました。そこで当初は肘掛けの下裏に設置しようとしたのですが、万が一の破損で感電のおそれがあると考え、付け根の位置に変更しました」と話します。
E6系の知見を踏襲 一方で採用しなかった“機構”も
E8系では、E6系にあった、カーブ通過時に車体を横へ傾ける「車体傾斜装置」が未採用です。この理由は、E6系よりも定員が増加するともに台車へかかる重量負担も増えるものの、車体傾斜装置が無いことで緩和されるのだとか。
一方で、E8系の営業運転が始まれば、東北新幹線内でE5系と併結されます。E5系には車体傾斜装置がありますが、「傾く車両と傾かない車両の連結部のねじれ」は、連結器が許容しているため特に問題ないといいます。
その他、着雪防止として台車ヒーターが採用。最新のバリアフリー基準に対応して車いすスペースも当初から確保されています。いっぽうでモーターを制御するVVVFインバーターは最新技術のSiC(炭化ケイ素)半導体ではなく、従来のIGBT素子を採用。車体断面も先頭以外はE6系と同じで、設計・製造コストを抑えています。
世界情勢で半導体などの輸入に影響があり、当初予定より後ろ倒しとなった今回のお披露目。今から1年で行われる試運転のスケジュールについては「今年と来年のふた冬で冬季環境の試験ができればベストでしたが、E6系での知見があるため、さほど大きな影響ではありません」と話します。
山形新幹線の新形式車両としては、1999(平成11)年のE3系からじつに25年ぶりの登場となる、新型E8系。山形県のシンボルである「オシドリ」の紫色を顔に大きくまとい、400系から数えて山形新幹線の「3世代目」を担います。