「機内マスク」ルール撤廃、新たな火種に? 心ない乗客への自衛策 航空関係者が語るポイント
国内航空会社19社が加盟する定期航空協会が「機内でのマスク着用」ルールを見直し、「個人の判断に委ねる」という方針を示しました。これにより新たなトラブルも予想されますが、乗客が講じられる自衛策はあるのでしょうか。
「機内空気は3分で入れ替わる」けども続けてきたマスク着用ルール
飛行機内でのマスク着用ルールが事実上、撤廃される見込みです。JAL(日本航空)やANA(全日空)をはじめとする国内航空会社19社が加盟し、航空運送事業に関する諸般の調査、研究などを行う定期航空協会が2023年3月13日より、政府方針を踏まえ、「航空機内および空港内における旅客、航空会社従業員のマスク着用については個人の判断に委ねる」という方針を示しました。
欧米をはじめとする海外の航空会社ではすでにルールが見直されていますが、日本の航空会社ではこれまで、定期航空協会の指示に基づき、マスク着用をルールとしてきました。今回はいわば業界全体の方針を転換する大きな契機となります。
とはいえ、今回のルール変更により、新たなトラブルも予想されます。そういった乗客に対し、どのような自衛策を講じればいいのでしょうか。
JALとANAの旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。
まず、旅客機はマスクなしでもリスクは小さい環境であるといえます。航空各社とも、機内の換気に優れ「短い時間で機内の空気はすべて入れ替わる」とアピールするほど。その根拠をANA整備センターの担当者は次のように説明しています。
「飛行機の設計基準に、1席あたり1分間に200L以上の空気量を供給できる換気システムを設置しなければならない、というルールがあります。この基準をもとに、供給する空気の総量を機体の体積で割ると、『およそ3分』という結果になります」
機内ではエンジンから取り込んだ外気と、客室の空気を循環したのち0.3ミクロンの微粒子を99.97%捕集できる「HEPAフィルター」でろ過した空気をまぜたものが、客室上部から機内の空気として提供されるとのこと。「病院の手術室にも相当する」とされる環境はこうして提供されているのです。また、機内の空気は上から下に流れるため、ほかの乗客がいるエリアに滞留する可能性は非常に低くなっています。
マスクルールに反発しトラブル ルール撤廃したらしたでトラブル?
それでも「念には念を入れる」意味も込めてか、「お客さま同士の不安解消のため」として、協会が設定していた「機内マスク」ルール。これに反発するトラブルも相次いで発生していました。
なかには再三にわたる乗務員の指示に従わないばかりか、乗務員に対し威嚇的な行動をとったことが航空法上の「安全阻害行為」に該当したとされ、降機を指示された乗客もいます。
ピーチ機。コロナ禍の「マスクトラブル」で大きな実害を被った航空会社のひとつ(乗りものニュース編集部撮影)。
今後「マスク着用」ルールが撤廃され「自己判断」となったゆえに、また新たなトラブルの火種となる可能性もあります。
たとえば、頻繁に咳き込み、まわりの乗客を不安がらせているなかでも、乗務員や他の乗客の指摘や勧告を無視し続け、「自己判断」を盾にノーマスクで搭乗を続けるケースも考えられます。
「自己判断」盾のトラブル予想…乗客はどうすればいい?
こういった今後発生しうるトラブルの種に対し、乗客が講じられる策はあるのでしょうか。航空会社と航空機メーカーは、次のような発言を過去にしています。
JALと理化学研究所は、世界最高水準というスーパーコンピュータ「富岳」を用いて、機内の空気循環システムの効果検証と、その効果を踏まえた機内での飛沫の予測を実施。その際、「飛沫の拡散は着席姿勢によって影響を受け、通常姿勢の場合は前列シートの背もたれがパーティションのような役割をすることで、大きい飛沫の拡散を抑えている」とし、「小さい飛沫は、リクライニング姿勢の場合、通常姿勢の場合よりも広範囲に拡散する」と発表しています。
JAL国内線の機内(乗りものニュース編集部撮影)。
また、世界を代表する航空機メーカーであるエアバス社の日本支社長、ステファン・ジヌー氏は過去に、機内の安全性をアピールしつつ、乗客が飛行機に乗る際の留意点を次のように話しています。
「飛行機から降りるとき、早く降りたいとの思いからすぐに立ち上がり、降機を待つお客さまがいらっしゃいますが、これは感染のリスクが高まります。前方から徐々に順序よく降りるようにすれば、より一層安全性が高まるでしょう」(ステファン・ジヌー氏)
なお、国内航空会社ではかつて、こういった降機時の混雑を避けるためブロックごと、こまめに降機順をわける取り組みを進めてきましたが、現在はそのルールもほとんど撤廃されています。
このように機内での立ち振る舞い方の比率において「自己責任」が多くなるなか、乗客側それぞれのモラルや自衛策の講じ方が試されそうです。