国旗と全然違う!「軍艦旗」なぜバラバラなのか なんだか強そうなガラガラヘビ柄も
海上自衛隊では日章旗と自衛艦旗の2種類を使っています。ただ、国旗=国籍旗で、別に軍艦旗があるのが万国共通というワケではなさそう。加えて歴史的につながりの深い国どうしで似たデザインの旗を採用していることもあるようです。
日米で真逆の国旗と軍艦旗の掲げ方
2022年11月6日(日)、海上自衛隊主催の国際観艦式が20年ぶりに開催されました。「国際」と銘打っているだけあって、常連のアメリカを含め、世界12か国から計18隻の外国艦が参加し、一般公開ではめったに来日することのない「レア艦」を見ようと多くの来場者が横須賀に駆けつけ賑わっていました。
自衛艦やアメリカ軍艦とは異なる船形や装備を持つ艦艇も集まりましたが、それらがどこの国に所属しているか表す旗「軍艦旗」についても、それぞれ個性があってとても興味深いポイントです。相模湾に集った各国艦船の軍艦旗について見ていきましょう。
桟橋に並んで停泊する海上自衛隊の護衛艦。艦首に掲げているのは日章旗(深水千翔撮影)。
まず海上自衛隊の自衛艦旗は、旧日本海軍と同じデザインの十六条旭日旗です。停泊時は国籍旗として艦首に国旗と同じ日章旗(日の丸)を、艦尾には自衛艦旗を掲揚しており、横須賀をはじめとする海上自衛隊の基地では馴染みのある風景といえるでしょう。なお、訓練や戦闘行動時には他国の海軍と同様に、戦闘旗(バトルエンサイン)として自衛艦旗(十六条旭日旗)がマストに掲げられます。
一方、アメリカの場合は日本とは逆になります。軍艦旗は国旗と同じ星条旗で、艦首には国籍旗として「ユニオン・ジャック」が掲げられます。ちなみに「ユニオン・ジャック」といってもイギリスのものとは全く異なっており、青地に合衆国を構成する州の数と同じ50個の星が描かれたデザインとなっています。
なお、アメリカ海軍で最も古い現役艦艇の揚陸指揮艦「ブルーリッジ」が使用する艦首旗はさらに異なっており、最古参艦という名誉から赤と白で組み合わされた13本のストライプにガラガラヘビと「DONT TREAD ON ME」というモットーが描かれた「ファースト・ネイビー・ジャック」と呼ばれる旗を用いています。
では、今回の国際観艦式を例に、アメリカと同じように軍艦旗と国旗が同一で、国籍旗が別デザインのものを採用している国はどこかというと、韓国、インドネシア、パキスタンの3か国です。
英連邦加盟国は似たデザインに
停泊している韓国海軍の補給艦「昭陽」(1万105トン)を観察すると、艦尾に韓国国旗である太極旗が、そして艦首には青地のカントン(左上)に太極と2本の錨を交差させた海軍旗が各々掲げられていました。
カナダ軍艦の軍艦旗。白をベースに国旗を配した「ホワイト・エンサイン」と呼ばれるデザイン(深水千翔撮影)。
インドネシア海軍の艦首旗は、かつてジャワ島に存在したマジャパヒト王国の旗をルーツとする、赤と白のストライプのデザイン。パキスタンは青地に海軍の紋章を中央に置いた旗を国籍旗として使用しています。
一方、オーストラリアやニュージーランド、カナダなどのイギリス連邦(コモンウェルス・レルム)構成国は、白をベースに、カントンに国旗を配置した、通称「ホワイト・エンサイン」が軍艦旗となっています。
オーストラリア海軍のホワイト・エンサインに描かれているコモンウェルス・スターと南十字星は、ブルー・エンサインを基にした国旗と同じ配置ですが、背景の青と星の白が反転しているのが特徴です。
ニュージーランド海軍のホワイト・エンサインも、国旗と同じ配置となっており、赤色の南十字星がフライ(右側)に描かれています。
カナダ海軍はホワイト・エンサインを基に、カントンにカナダ国旗、フライに錨、鷲、海軍の王冠(ネイヴァル・クラウン)が組み合わさったネイビーブルーのエンブレムを置いています。ちなみに同国は2013年に国籍旗と軍艦旗の役割を入れ替えており、それまでは国旗が軍艦旗として使用されていました。
軍艦旗に「白象」を描く国も
インドは長らく英国海軍に似通ったホワイト・エンサインにセント・ジョージ・クロスをあしらった軍艦旗を使用していました。一方で植民地時代のシンボルではなく独自のデザインの旗を導入することが求められていたため、何回かの変更を経て2022年9月に国産空母「ヴィクラント」の就役に合わせ、新しいデザインの軍艦旗を採用しました。
現在のインド海軍の軍艦旗は、カントンにはこれまでと同様、インド国旗を配置。フライ側には盾と錨、そして国章であるアショーカの獅子柱頭で構成された海軍のエンブレムを、八角形の金色の枠に囲まれたネイビーブルーの下地と組み合わせたシンボルを描いています。
インド海軍の軍艦旗。白地の部分に大きく描かれているのは同国海軍のエンブレム(深水千翔撮影)。
ちなみに、かつてイギリスの植民地であったマレーシアやシンガポール、イギリスの保護領であったブルネイも「ホワイト・エンサイン」を基調とした軍艦旗を使用しています。フライ側に描かれているのは、マレーシア海軍が2本の交差したクリス(伝統的な短剣)と錨が合わさったもの。シンガポール海軍が8方位の羅針図を意匠化したものです。ブルネイ海軍は近年、軍艦旗のデザインを変え、国旗と海軍のエンブレムが描かれるようになりました。
タイは国籍旗と軍艦旗の両方が国旗をベースとしつつも異なるデザインとなっています。国籍旗の中央にはタイ海軍のエンブレムを配置。軍艦旗の中央には仏教国である同国で神聖視されている白象が赤い円の中に描かれています。
こうして見てみると、艦艇に掲げられている旗には、その国の海軍が持つ文化と歴史が大きく影響していることがわかります。アメリカ海軍の国籍旗も「ファースト・ネイビー・ジャック」に変更された時期がありますし、日本も海上自衛隊の前身である警備隊時代は全く違うデザインの旗を使っていました。インドのように軍艦旗のデザインを大きく変える国もあります。
外国艦が日本にやって来た時は、軍艦旗にも注目してみると面白いでしょう。ひょっとしたら、たまたま撮影した写真が、その時代を象徴する記録になるかもしれません。