「ホームドア乗り越え事故」連日発生 万全ではないホームドア
鉄道駅において、旅客が線路内へ転落するのを防止する策としてホームドアは有効に機能していますが、事故を根絶できるかといえば「No」。ホームドアを乗り越えての事故が発生しています。
事故ゼロにはできない
2022年12月7日(水)、ホームドアが設置されている都営三田線の志村三丁目駅(東京都板橋区)で人身事故が発生。翌8日(木)には、JR京浜東北線の北浦和駅(埼玉県さいたま市)でも同様の事故が起きました。いずれも関係者によると、旅客は故意にホームドアを乗り越えて線路内へ飛び込んでおり、列車と衝突して死亡したとのことです。
鉄道駅のホームドア。写真はイメージ(2021年11月、大藤碩哉撮影)。
ホームドアは、駅ホームから線路へ旅客が転落するのを防ぐ設備であり、都市部を中心に設置が進んでいます。設置環境などに応じていくつか種類はあるものの、一般的なタイプは、高さ1.4mほどのドアが横にスライドするタイプでしょう。
ホームドアによる事故防止の効果は絶大で、例えば大手私鉄で初めて設置率100%(センサー付固定式ホーム柵を含む)を達成した東急電鉄では、設置率が42%だった2014(平成26)年度に131件の転落事故が発生していたのに対し、100%となった後の2020年度はわずか5件と、大幅に減少しています。しかしながら、裏を返せばホームドアが設置されていても事故は起きているのです。
先述の通り、ホームドアの役割は「線路内への転落防止」です。目の不自由な人や酔客が誤って転落することは防げますが、故意に乗り越えようとする人まで防ぐことはできません。東京メトロ南北線や新交通ゆりかもめのように、床から天井までを覆うフルスクリーンタイプのドアは存在しますが、耐荷重量による駅舎などの工事や設置費用を考慮すると、全ての駅で導入するのは非現実的です。
整備費、事業者だけでなく利用者も負担へ
そもそも日本でホームドアの設置が加速するきっかけとなったのも、JR山手線の目白駅(東京都豊島区)で2011(平成23)年1月に発生した、目の不自由な人の転落事故でした。翌2月からは国土交通省が「ホームドアの整備促進等に関する検討会」を開催し、8月には「1日の利用者数が10万人を超える駅には、ホームドアもしくは内方線付き点状ブロックの整備を優先して速やかに実施」するよう求めています。都市部を中心に、国や自治体の補助を得ながら少しずつホームドアは設置されていきました。
東京メトロ南北線の、フルスクリーン型のホームドア(2021年12月、大藤碩哉撮影)。
それから10年。国は利用者の負担を得ながら鉄道駅のバリアフリー化を進める「鉄道駅バリアフリー料金制度」を2021年12月に創設しました。運賃は値上げされるものの、その加算分はホームドア設置に活用できるというものです。2022年11月までに、JR東日本や西日本、東京メトロ、小田急電鉄、京阪電気鉄道、西日本鉄道など全国で16の鉄道事業者が適用申請をしています。
人身事故は、例え事業者側に非がなくとも、ひとたび列車が運休すれば社会に与える影響は大きいものです。利用者や沿線住民の信頼で成り立つ公共交通機関は、常に安定した輸送を実現するためにも、ホームドア設置により一層注力していくでしょう。