「エスカレーター歩くな条例」広がる 歩いちゃうのは低速だから? 意識は変わるのか
エスカレーターの歩行禁止を条例とする動きが広がっています。近年は鉄道会社などでも、「歩かないで」という態度を鮮明にしてきましたが、歩くのは「遅いから」という意見も。実際の速度はどれくらいなのでしょうか。
全国2例目「歩かず立ち止まる」義務化
名古屋市で2023年10月の施行を目指し、エスカレーターを歩かず立ち止まっての利用を義務化する条例を制定する動きがあります。実現すれば、2021年施行の埼玉県に続き2例目になります。
エスカレーター歩行中の事故が多発していることや、主に右側を空ける習慣によって、けがや障害などで右側の手すりしかつかまれない人が困っている、といった事情を受けてのこと。なお、埼玉県の条例に罰則はなく、名古屋も同様になりそうだと報じられており、条例化は周知の意味合いが強いといえます。
エスカレーターのイメージ(斎藤雅道撮影)。
また、日本エレベーター協会は安全性の観点から、そもそもエスカレーターを歩いて利用することを想定していない、という立場を取ります。鉄道会社などが共同で実施するエスカレーターの安全利用キャンペーンでも、「手すりにつかまろう」などの表現が、近年は「歩かないで」を明確に打ち出すようになるなど変化してきています。
とはいえ、長年あたりまえのことと思われてきただけに、「なぜ今更」「昔、片側を空けるように言われた」といった声や、「エスカレーターが遅すぎる」などといった声もネット上では見られます。実際、どれくらいのスピードなのでしょうか。
確かにエスカレーター「遅い!」
日本エレベーター協会によると、エスカレーターの速度は「通常は分速30m(1.8km/h)」とのこと。
通常歩くスピードは人によっても異なりますが、不動産業界で「駅から徒歩〇分」などと表す際は、分速80m(4.8km/h)とされています。「いくぶん速度が速くなっています」といった放送が流れるエスカレーターでも、その多くは分速40m(2.4km/h)だそう。やはり、日本では速いものでも歩く速度の半分以下のようです。
高齢者の多い施設などでは、これより遅いスピードのものもあります。速さの基準はメーカーにより異なり、たとえば三菱電機では、分速30m(1.8km/h)は「標準」ですが、JR西日本のグループ会社が展開している駅舎用エスカレーターの場合は「高速」モードに該当。ちなみに「低速」は分速10m(0.6km/h)です。
歩く人は、実はそんなに多くない?
確かに、エスカレーターは「遅い」といえるかもしれません。しかし、実際にエスカレーターを歩く人は、それほど多くないともいえそうです。
乗りものニュースが2021年に実施した読者アンケートでは、777人中、2人用エスカレーターを「片側を空けて立ち止まって」利用する人が66.8%、「歩くスペ―スは考慮せずに立ち止まって」利用する人が13.3%で、「歩いて」利用する人は19.9%でした。なお、立ち止まって乗る人が約8割、歩く人が約2割というのは、「1人分の幅しかないエスカレーター」でも、ほぼ同じ割合です。
全体の2割ほどの「急ぐ人」に対し、多くの人が「片側を空ける」などの配慮をしている――こう読み取ることもできますが、そのなかで困っている人もいる、というわけです。
仮にエスカレーターがもっと速かったら、状況は変わるでしょうか。また条例による立ち止まりの義務化で、2割の人の意識を変えることはできるのでしょうか。エスカレーターを利用する人のあいだに、意外と深い溝がありそうです。