空自が「航空宇宙自衛隊」に 世界では当たり前な「宇宙軍」の実態 宇宙戦の日は近い?
陸上、海上、航空という三種類の自衛隊組織が新設されて半世紀以上、このたび初めて見直され、航空自衛隊が「航空宇宙自衛隊」に改称される模様です。海外の動きにならったものといえますが、世界ではどうなのでしょうか。
自衛隊発足以降、初めての改称
日本政府が防衛力強化の一環として、航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改称する方針を固めたと、国内複数のメディアが2022年12月7日(水)に報じました。
これまでも、各国の軍では宇宙空間が作戦エリアになることは認識されており、航空自衛隊も宇宙領域を担当する専門部隊として2020年5月に「宇宙作戦隊」を東京都の府中基地に新設しています。その後、2022年3月には上級司令部となる「宇宙作戦群」が同地に新編され、従来の宇宙作戦隊はその隷下へと編入されています。
防衛省は、直近でも2023年3月に山口県の防府北基地へ第2宇宙作戦隊を新編するなど、宇宙作戦群の規模拡充を計画しており、今回の「航空宇宙自衛隊」への改称は、これらを踏まえたものといえるでしょう。
航空自衛隊の宇宙作戦群(画像:航空自衛隊)。
今回の航空自衛隊の改称について、SNSを始めとしたインターネット上では様々なコメントが飛び交っていましたが、諸外国を見渡すと「航空宇宙軍」を名乗る組織はすでに複数存在しており、世界的には珍しくなくなりつつあります。
そこで「宇宙軍」を組織している国とともに、海外の「航空宇宙軍」がどのようなスタンスで編制され、運用されているのか見てみましょう。
そもそも、「宇宙軍」や「航空宇宙軍」とひと口にいっても国ごとに違い、大きく分けると2種類あります。
ひとつは、統合司令部として設けられている場合、これはイギリスなどが当てはまります。この統合軍型は、既存の陸海空軍の軍人が集められ編制されているもので、独立した軍種ではなく、あくまでも宇宙分野を担当する司令部組織というスタンスです。
そしてもうひとつが、従来の陸軍や海軍などと同じ立ち位置で、独立した軍種として存在する場合です。今回の主題である「航空宇宙自衛隊」がこれに当てはまります。諸外国でいうと、ロシアやフランス、イスラエルなどで、これらの国々では「航空宇宙軍」になります。名称からわかるように、空軍能力もあり、地球表面、すなわち陸地や海洋以外の空以上のエリアを受け持つ軍隊として組織化しているといえます。
ただ、3か国とも一般的には「ロシア空軍」「イスラエル空軍」「フランス空軍」と呼ばれることがほとんどで、「航空宇宙軍」と正式名称で呼ばれるのはまれです。
一歩先行く米中の宇宙担当軍
アメリカは、さらに進んで空軍とは別の独立軍種として宇宙軍が組織されています。ゆえに陸海空3軍と海兵隊、沿岸警備隊に比肩する6番目の軍種といわれたりもします
ただ、アメリカの場合は、軍種としての宇宙軍とは別に地域別統合軍として「宇宙コマンド(宇宙軍)」も編成されているのがポイントといえるでしょう。
2022年12月現在、アメリカ宇宙軍のトップを務めるB.チャンス・サルツマン大将。宇宙軍の制服と制帽を着用している。独立軍種のため制服のデザインも空軍とは別(画像:アメリカ宇宙軍)。
地域別統合軍とは、ハワイに司令部を置く「インド太平洋軍」や、ドイツのシュトゥットガルトに司令部を置く「欧州軍」などのように、特定エリアを管轄するため設けられるアメリカ軍内の司令部組織で、いうなれば前出のイギリス宇宙軍と同じ性格の組織です。
「宇宙コマンド」は陸海空の3軍および海兵隊、そして新編されたばかりの「宇宙軍」、この5軍種の軍人が宇宙関連部門の運用や弾道ミサイルなどの早期警戒、宇宙戦などに共同してあたっており、建物内などを見ると制服や迷彩服がバラバラなのが特徴です。従来は日本語に訳す際、こちらが宇宙軍(Space Force)と呼ばれていました。ただ、陸海空軍に並ぶ軍種として宇宙軍が発足したため、現在では区別する意味で「宇宙コマンド(Space Commando)」と訳されるようになっています。
前出のアメリカ宇宙軍は、むしろ宇宙戦に対応する装備の調達や、マニュアルの策定、兵員の確保と教育訓練などをメインに行うため、役割的には宇宙コマンドが部隊を運用し(フォースユーザー)、そのために必要な人員や装備を宇宙軍が用意する(フォースプロバイダー)と表現できるかもしれません。
こうしたことからアメリカは、イギリス軍モデルと、ロシア・フランス軍モデルの両方を持っているといえるでしょう。
また前述したような「航空宇宙軍」や「宇宙軍」といった名称ではないものの、宇宙エリアを担う組織としては、中華人民共和国(中国)に「戦略支援部隊」があります。この組織は、陸海空軍に肩を並べる独立した軍種として設けられ、人工衛星の運用管理を担っているそう。ただ、それ以外にも電子戦やサイバー戦なども担当しているといわれており、その点ではアメリカ宇宙軍よりも扱うものの幅は広いようです。
このように国ごとに、役割や思惑の違いから宇宙を担当する組織は様々ありますが、どの国の組織も、現状では弾道ミサイル防衛やロケット発射、人工衛星の運用管理を見据えて宇宙の名を用いているに留まります。SFの世界に出てくるような地球の外、いわゆる宇宙空間での積極戦闘を想定したものではありません。
太陽系の外に出撃するような「宇宙軍」が設立されるのは、まだまだ先のようです。