激闘来たる!カタールW杯特集

 ワールドカップ優勝国が2カ国も混在する「死の組」グループEを見事に突破した日本代表。8強という「新しい景色」を目指した彼らの旅は、またしてもベスト16で終焉を迎えた。

 今大会、現地ドイツでは自国と同じグループということで、日本代表に関する報道はふだん以上に多かった。ドイツ代表が初戦で日本に敗れた際には、ほとんどすべてと言っていいほどの媒体がこの黒星を大々的に取り上げ、また敗因探しに明け暮れ、同時に日本を取り上げる記事も少なくなかった。


ベスト8進出を果たせず涙をこらえる吉田麻也

 彼らの目は、ブンデスリーガでプレーする選手にも向けられた。大衆紙『ビルト』の記者でボルシアMG担当のディルク・クリュンペルマンは、ドイツ戦後に『板倉が大活躍!』との見出しをつけた。板倉滉は昨年シャルケでブンデスリーガデビューを果たし、今シーズンからボルシアMGでプレーしている。

「ワールドカップ・カタール大会では、ボルシアMGのスター選手6人がそれぞれの代表チームで初戦を戦った。大本命は板倉滉だ。彼こそがグループ初戦の大勝利者である。

 9月上旬に左ひざ内側靭帯の部分断裂に見舞われ、大会出場が危ぶまれるほどだったが、2-1で勝ったドイツ戦でセンターバックとして日本のスターティングイレブンに入ったのだ。また浅野拓磨(ボーフム)へのロングパスで勝ち越しゴールをお膳立てしたのは、この板倉だった」と活躍を称えた。

 ワールドカップ期間中、ボルシアMGの同僚で元ドイツ代表MFクリストフ・クラマーはドイツの放送局『ZDF』でスタジオ解説を務めている。そこでクラマーは、板倉についてこのように語っていた。

「日本人はみんな、すごいフレンドリーでいい人ばかり。滉もそんな好青年のひとりだ。一般的に日本人選手に対して、タフなセンターバックができるというイメージはあまりないかもしれない。だが、滉は空中戦にとても強く、ビルドアップもすばらしい。私自身、滉の大ファン。

 ロッカーで彼は私のとなりに座っているが、滉の席はいつも綺麗に片づいている。以前はマティアス・ギンター(※2022年夏にボルシアMGからフライブルクへ移籍)がそこに座っていたんだが、いつもなにかしら物が倒れたりしていて少し厄介だったんだ(笑)。

 でも、滉はいつも、自分のところはもちろん、その横の私の場所まで綺麗にしてくれる。彼が隣人であることを、とても気に入っているよ」

【堂安を褒めるドイツ各紙】

 クロアチア戦が行なわれた12月5日の午前中、専門誌『キッカー』のオンライン版では堂安律(フライブルク)に関する記事が掲載された。タイトルはズバリ、『フライブルクはワールドカップの切り札・堂安をどのように釣り上げたのか』。

 同誌はそのなかで、堂安をベタ褒めしている。

「今季フライブルクで22試合に出場して、4ゴール4アシスト。(得点数とアシスト数は)まだ改善の余地があるものの、"172cmの俊敏な男"はほぼ常に右アウトサイドを任され、フライブルクの危険な攻撃の多くに関与している。1対1における彼のクオリティが、フライブルクの攻撃を新たな次元に引き上げているのだ。

 加えて堂安は、フライブルクの守備戦術を非常に早く身につけた。ワールドカップではドイツ戦とスペイン戦の2試合で"ジョーカー"として重要なゴールを決め、控え選手でありながら大活躍。フライブルクがPSVに支払った移籍金800万ユーロ(当時のレートで約11億3000万円)は、今になって考えればバーゲンプライスだ」

 クロアチア戦後のドイツメディアの報道をざっと眺めると、2010年に続きまたしてもPK戦で涙を飲んだ日本に対して、その論調はあまり抑揚がなく淡々としていた。まだ決勝トーナメント1回戦であること、すでにドイツが大会を去っていることなどが、その理由かもしれない。

ドイツに恐怖を与えた日本は、決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦で軟弱な神経を見せた。3本のPKを外した一方、クロアチアは4本のうち3本を決めた」(専門誌『フォーカス』)

「PK戦というドラマを経て、クロアチアが準々決勝へ。ドイツに恐れを与えた日本の旅は終わった。前回大会で準優勝だったクロアチアと激闘を繰り広げたが、最後は神経をすり減らした」(スポーツ専門チャンネル『Sport1』)

「グループステージでドイツとスペインに勝利した日本のワールドカップ物語は、ドラマチックな幕切れとなった。森保一監督率いるチームは、自分たちの緊張のせい、そしてGKドミニク・リヴァコヴィッチのせいで、クロアチアに敗れた」(スポーツ情報サイト『スポーツブザー』)

【元ドイツ代表も日本を絶賛】

 そんななか、フランクフルトの地元メディア『フランクフルター・ルントシャウ』は、日本代表について敬意を評した記事を掲載していた。

「森保一監督は、準々決勝を逃したことに対する落胆を隠そうとしなかった。しかし、ドイツとスペインに勝利したことを強調し、『今日の結果は、今大会における我々のパフォーマンスを否定するものではない。日本のサッカーは、このワールドカップから多くの力を作り出すことができるはず』と話した。

 ドイツを打ち負かした彼らは、ピッチ外でも常に模範的で礼儀正しい。その姿にふさわしく、森保監督はこのワールドカップに関わったすべての人々に、心からの感謝を込めて別れを告げ、(試合後にスタンドに向かって)最後のお辞儀をした。この丁寧な振る舞いに対し、チーム・ニッポンに対する今大会の最後の拍手が送られた」

 ドイツ西部のルール地方で大手の『WAZ』紙は、その地元にクラブを置くシャルケの吉田麻也をクロアチア戦後、このように取り上げた。

「彼は悲劇のヒーローのひとりだった。吉田はPKを外し、クロアチアが準々決勝に進出。シャルケのディフェンスリーダーであるこの日本人は涙した。

 試合後、ピッチに降りてきた子どもたちの目を、最初は見ることができなかった。彼はピッチにひざまずき、泣きながら、ただ、腕に抱くだけだった」

『ZDF』でクラマーとともにスタジオ解説を務める元ドイツ代表DFペア・メルテザッカーは、日本対クロアチアが終わったあと、番組内でこう締めくくった。

「前半の日本は本当にいいサッカーをしていたし、戦術面も技術面も大変すばらしいチームだった。ドイツを含め、いろんな国のトップリーグでプレーしている選手が多く、スペインとドイツがいるグループを首位で勝ち抜いたことには驚かされた。日本代表がもう一歩、先のステージに行けなくて、私も残念だ」

 日本人選手の多くが在籍するドイツのメディアは、初戦で負けたことを根に持つこともなく、総じて日本代表を温かい気持ちで報じていた。