右打席に入った渡部聖弥(わたなべ・せいや)が右へ左へとヒットを放つたびに、「それ見たことか」と言いたくなる衝動を抑えきれなかった。

 12月2日から3日間にわたり、松山・坊っちゃんスタジアムで開かれた大学日本代表候補合宿。全国から招集された44選手が出場した計20イニングにまたがる紅白戦で参加者最多の4安打を放ったのが、大阪商業大の渡部だった。


大学日本代表候補合宿で存在感を放った大阪商業大の渡部聖弥

2年後のドラフト上位候補

 今年の春から何度となく渡部のプレーを見るたびに、「この選手は大学日本代表に選ばれるだろう」と確信していた。打ってよし、守ってよし、走ってよし。春のオープン戦で皇子山球場の右中間フェンスを直撃する打球を目撃した際には、そのアマチュアとは思えない打撃に笑いすら込み上げた。

 広角にヒットゾーンを持つ打撃など、プレーヤータイプは大学の大先輩である谷佳知(元オリックスほか)と重なる。大きな故障さえなければ、間違いなく2年後のドラフト上位戦線を賑わせる存在になるだろう。

 ところが、今年6月に平塚で開かれた大学日本代表候補合宿に、渡部は呼ばれなかった。2年生で時期尚早と見られたのだろうか。すでに大学トップクラスの実力を身につけているだけに、残念でならなかった。

 そんな個人的な感想を6カ月の時を経て本人にぶつけてみると、渡部は「選ばれた選手はみんなレベルが高かったので、自分はまだ選ばれないだろうと思っていました」と苦笑しつつ、こう続けた。

「でも、『絶対に選ばれてやる』と思ってやってきました」

 今秋、渡部は大きな進化を見せつけていた。関西六大学リーグ新記録となる5本塁打をマーク。圧倒的な数字を残し、代表候補合宿への切符を手に入れた。

 代表候補合宿の紅白戦では、7打数4安打をマークした。合宿初日は最速149キロを計測した変則左腕の滝田一希(星槎道都大3年)からライト前ヒット、さらに大学の1学年先輩で今年の大学日本代表に選ばれた上田大河からショートへの内野安打。2日目は高い潜在能力を秘める速球派右腕の後藤凌寿(東北福祉大3年)からレフトへタイムリーヒット、同じく150キロ近い速球を武器にする坂元創(九州共立大3年)からレフト前ヒットを放った。

 対戦したのは、いずれも来年のドラフト候補に挙がる好投手たち。今回の代表候補合宿は投手のレベルが非常に高く、12月というのに150キロ台の球速を披露する投手が相次いだ。対照的に打者のバットは湿りがちだっただけに、渡部の快打は一層際立った。

高校の同級生・宗山塁へのライバル心

 渡部は紅白戦の結果を振り返り、「速い球に打ち負けることなく、自分のスイングができました」と手応えを口にした。

 渡部の大きな特長は、力強くスイングしながらもバットの芯でボールをとらえる能力がずば抜けていることだ。どうしてこんな芸当ができるのか尋ねると、渡部はこう答えた。

「僕は打つポイントをすごく体の近くに置いていて、そのためにはスイングスピードが必要なので、昨年の冬はもっと速くスイングできるように取り組んできました」

 ボールを自分の手元まで呼び込み、瞬時に正確にバットの芯でとらえる。そんな渡部の打撃スタイルを可能にしているのが、現在149キロに達する並外れたスイングスピードなのだ。

 肉体的にも大きな進化を遂げている。広陵高時代は75キロだった体重が、現在は87キロまで増えている。ビルドアップしつつも、代表候補合宿の50メートル走計測(光電管を使用)で全体5位の6秒15をマークしたようにスピードも損なわれていない。センターからの低い軌道で伸びてくるスローイングも大きな武器になっている。

 今回は同じく広陵高出身の宗山塁(明治大2年)とともに、代表候補合宿を過ごした。宗山は今や名門・明治大の顔として攻守にスター性を見せつけている。渡部は宗山に対して「負けたくないですけど、お互いに頑張りたい」とほのかなライバル心を口にした。

 いささか気が早いが、宗山と渡部の"広陵同級生コンビ"がおそらく今後2年間の大学日本代表を引っ張っていくはずだ。合宿最終日、鋭い腰のターンで強烈なライナーを連発する渡部の打撃練習を見て、日の丸のユニホームを着ている姿がはっきりとイメージできた。

 そして、その進化は近未来のプロ野球への希望へとつながっていく。渡部聖弥──その名前を覚えておいて決して損はないはずだ。