実は「陰謀論は増加していない」という意外な研究結果が発表される
新型コロナウイルス感染症のパンデミックと第5世代移動通信システム(5G)を結びつけるような陰謀論や、「ワクチンにはビル・ゲイツのマイクロチップが入っている」という主張を目にしたことがある人は多いはず。陰謀論に接する機会が増えたという印象とは裏腹に、陰謀論は近年急増しているわけではないとの研究結果が報告されています。
Have beliefs in conspiracy theories increased over time? | PLOS ONE
Beliefs in conspiracy theories may not be inc | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/958768
Belief in Conspiracy Theories Is Probably Not Getting Worse Over Time - McGill University
https://www.mcgill.ca/oss/article/critical-thinking/belief-conspiracy-theories-probably-not-getting-worse-over-time
Belief in Conspiracy Theories May Not Be Increasing After All, Surveys Suggest : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/belief-in-conspiracy-theories-may-not-actually-be-increasing-after-all
2020年から発生したパンデミックは偽情報の氾濫による「インフォデミック」でもあると指摘されているほか、ドナルド・トランプ元大統領の支持者が「2020年アメリカ大統領選挙に不正があった」と訴えて国会議事堂を襲撃した事件や、白人の地域が非白人に乗っ取られるという「グレート・リプレイスメント」に端を発する銃乱射事件など、陰謀論に関するニュースが頻繁に取り沙汰されています。
アメリカのルイビル大学の政治学者であるアダム・エンダース氏らの研究チームは、陰謀論が増加しているのかどうかを確かめるべく、対象者や陰謀論の内容が異なる4つの研究を実施しました。
1つ目の研究では、1966年〜2020年の間にアメリカで行われたさまざまな世論調査の結果を分析して、新型コロナウイルス感染症やQAnonなどにまつわる最近の陰謀論と、真珠湾攻撃を当時のアメリカ大統領が事前に察知していたという真珠湾攻撃陰謀説やロスチャイルド家にまつわる伝説のような古い陰謀論を信じている人の割合の推移を比較しました。
その結果、新旧合わせて37種類の陰謀論のうち4〜10ポイント以上の有意な増加を見せたのは6種類だけで、残りの16種類はほとんど変化がなく、さらに15種類は有意に減少していました。つまり、37種類の陰謀論のうち31種類は増加していなかったことになります。
この結果は、ドイツ・イギリス・イタリア・ポーランド・ポルトガル・スウェーデンに住む人々を対象とした2つ目の研究でも同様でした。GDPや人口が異なるヨーロッパの6カ国で調査された6種類の陰謀論のうち、2016年と2018年の調査で顕著な増加が見られたのはスウェーデンにおけるホロコースト否定の陰謀論だけだったとのこと。スウェーデンでホロコーストはなかったと信じている人は2016年の1%から、2018年には3%に増加していました。つまり、増加率は2ポイントだけでした。
また、アメリカ人に「フリーメイソン」や「大企業」など、しばしば陰謀論の黒幕とされる組織について2012年・2016年・2018年・2020年の4回に分けて尋ねた3つ目の研究や、特定の陰謀論ではなく「国を本当に動かしている人々を有権者は知らない」といった陰謀論的な信念が2012年〜2021年の間にどう変化しているかを調べた4つ目の研究でも、時間と共に陰謀論者が増えていることを示す証拠は見つかりませんでした。
こうした点からエンダース氏は「アメリカが陰謀論の世界に飲み込まれて『ポスト・トゥルース』の時代に突入したとよく主張されていますが、私たちの研究では陰謀論が時と共に増加しているという事実は見つかりませんでした」と結論付けました。
また、論文の筆頭著者であるマイアミ大学のジョセフ・ウシンスキー氏は「一部の陰謀論は人気を博していますが、大抵の陰謀論の人気は落ちています。いつの時代も、おそらく政治的な理由により特定の陰謀論が魅力的になる一方で、その他の多くの陰謀論は歴史の中に置き去りにされていくのでしょう」とコメントしました。