2022年8月14日、幕張メッセで開催される「DOWNLOAD JAPAN 2022」で堂々ヘッドライナーを務めるのがドリーム・シアターだ。超絶テクニックとヘヴィかつプログレッシブな曲展開で絶大な支持を集める彼らは最新アルバム『A View From The Top Of The World』から「The Ailen」がグラミー賞ベスト・メタル部門を奪取するなど、現代のメタル界を代表する存在になったといえる。2020年に予定されていたジャパン・ツアーが新型コロナウイルスの影響で延期〜中止となってから2年、日本のファンにとってはまさに待望のステージだ。今回は米ローリングストーン誌の2019年のアーカイブを掲載しつつ、彼らの魅力をあらためて探ってみる。

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ドリーム・シアターの歴史は30年を超えるもので、彼らは12枚を超えるスタジオ・アルバムを生んできた。だが、2019年2月22日に発売となる『Distance Over Time』においても、プログレッシブ・メタルの巨人たちは作曲とレコーディングの斬新かつ個性的な手法を見出し続けている。本作において、ニューヨークを拠点とするジョン・ペトルーシ(ギター)、ジェイムズ・ラブリエ(ボーカル)、ジョン・マイアング(ベース)、ジョーダン・ルーデス(キーボード)、マイク・マンジーニ(ドラムス)の5人組は都会を後にして、キャッツキルにある6千坪の家屋に向かった。彼らが通算14作目となるアルバムを制作したのは、”ヨンダーバーン”(向こうの方の納屋)といかにもの名前が付けられた、人里離れた場所にある納屋を改造したスタジオだった。ペトルーシが「どでかい窓の向こうに森が拡がっている」と表現するのどかな環境にかかわらず、このアルバムはバンド史上最も攻撃的な作品のひとつに仕上がっている。

「俺たちがすっかりユルくなってカントリーのアルバムでも作ると思ったかも知れないけどさ、」ペトルーシは笑いながら話す。「そうはならなかったんだ」

まったくその通りである。速射砲のようなリフから幕を開ける「Fall Into The Light」、分厚くグラインドするリズムに導かれる「Paralyzed」、高速急発進するインストゥルメンタルの応酬をフィーチュアした「At Wits End 」に至るまで、『Distance Over Time』は少なくとも数箇所においては、ドリーム・シアター・サウンドをヘヴィネスの極限へとプッシュしていく作品だ。

それと同時に、『Distance Over Time』はドリーム・シアターのサウンドを直接的かつ完結に表現したアルバムでもある。それは2016年の前作『THE ASTONISHING』がオーケストラや合唱を取り入れた全34曲のコンセプト・アルバムだったのと比較すれば明白だろう。ペトルーシによると、作風の違いは「アルバムごとに真っさらな状態から取り組み、異なった創造を行う精神」への欲求によるものだという。だが”ヨンダーバーン”での作業環境には、もうひとつ他にない要素があった。ローリングストーン誌独占インタビューで、ペトルーシは『Distance Over Time』がいかに作られたかを詳しく説明してくれた。

カントリー・ハウスと納屋を改造した最先端のスタジオで制作

ーこのアルバムのヘヴィなサウンドとシンプルな曲作りのアプローチは、何に起因しているでしょうか?

レコーディングでより肉体的なアプローチを取って、リハーサル・ルームで全員が同時に楽器をかき鳴らしているような雰囲気を出したかったことが大きいな。そうすることで、よりヘヴィな音楽が生まれる傾向があると思う。ギター・アンプから爆音が噴き出すのに部屋の反対側にいるマイク(マンジーニ)がドラミングで呼応して、それにまた誰かが自分のプレイで呼応する。1人1人が音楽的に反応していくんだ。そうすることでよりパワフルなアルバムが生まれるんだよ。それと同時に、俺たちはより簡潔な曲を収録した、短めのアルバムにしたかった。全3曲のアルバムにはしたくなかった。たくさんの曲を入れたかったんだ。それでタイトで焦点を絞った曲を書くようにしたよ。

ー新作のサウンドは『THE ASTONISHING』が大作主義だったことに対する反動でしょうか?

反動なのかは分からないな。確かに『THE ASTONISHING』はまったく異なったタイプのアルバムだった。2時間半におよぶコンセプト大作で、ストーリーを書いて曲を作るのに3年かかったんだ。それからレコーディングではオーケストラと合唱で570トラックぐらいを要した。さらに、さっき言ったみたくバンド全員がひとつの部屋でぶちかますのとは正反対で、ジョーダン(ルーデス)と俺の2人だけの環境で、ピアノとギターを前にして曲を書いたんだ。ただ、反動かというと、必ずしも正しくはないと思う。どちらかと言えば「それはもうやったから、違うことをやってみよう」というのに近かった。

−違うことをやったといえば、『Distance Over Time』では初めてバンド全員で合宿をして曲作りとレコーディングを行った作品でした。それはどのようなものでしたか?

最高だったよ。スタジオに入るときは2、3カ月のあいだ入り浸りになるものだけど、一緒に住むわけではない。みんなスタジオに通ったり、ホテルに泊まったりするんだ。「全員で一緒に集まろう」となったのは今回が初めてだった。まったく外界から遮られた環境に身を置いたんだ。モンティチェロの広大な敷地にあるカントリー・ハウスと納屋を改造した最先端のレコーディング・スタジオだった。庭にはそこいら中に鹿やアナグマがいたよ。一度スタジオに熊が来たこともある。とても興味深かったね(笑)。

ー何とも、のどかな感じですね。

その通りだよ。起きて、卵を料理して、朝ごはんを食べて、何人かジムに行った後にスタジオで合流するんだ。ただ集まっている感覚だったよ。みんなスタジオにいて、誰か1人が楽器で何かをし始めて、他の連中は晩ごはんを何にするか話したりしていた。バーベキューをやろうとか、リブを焼こうとかね。まあ実際にはやることがなかったけどね。

ーリブは焼かなかったのですか?

リブの話はしたけど、他の食材でバーベキューをやったよ。グリルがあって、マイクがチキンウィングを焼いたり、ジェイムズがハンバーグを焼いたりね。まあ、脱線はそこまでにして(笑)、絆を深める経験だったよ。毎日10時間から12時間を同じ納屋で過ごしていたし、共通の目標があった。さっきも言ったけど、外界から遮られていたんだ。アルバムの曲を書くのに、18日ぐらいしかかからなかったよ。あるとき自分がこう言ったのを覚えている。「ここであと数カ月やっていたら、あとアルバム5枚分の曲を書けるよ」ってね。とにかく音楽が溢れ出てきたんだ。

歌詞のインスピレーション源

ーアルバムの音楽について話しましょう。最初に私が聴いたのは「Fall Into The Light」でしたが、初っ端からかなりアグレッシブですね。オープニングのインストゥルメンタル・パートはメタリカ風だったりします。

「Fall Into The Light」はアルバムに何曲かある、ギター・リフ主導の曲だよ。この曲は3つのパートから成り立っているんだ。ひとつめ、オープニングのリフは”G3”ツアーのバックステージで書いたものだった。メサ・ブギーのシグネチャー・アンプ(JP-2C)を最高にヘヴィな設定にして、あのリフが浮かんだんだ。iPhoneに録音して、”Eのクールなリフ”とタイトルを付けたよ(笑)。そこからメタリカっぽい曲調がひらめいた。続いて右手のピッキングを重視した速いリフがあって、3つめのパートは中間部のメロウな、オーケストラ風でメロディックな部分だ。その箇所は俺がアコースティック・ギターで、うちの地下室で書いたんだ。西部劇っぽい雰囲気があったから、”カウボーイ・セクション”と名付けていたよ。「 Fall Into The Light」はそんな3つのパートを俺がスタジオに持ってきて、バンド全員で曲の形にまとめたんだ。リフ主体のメタル・ナンバーだし、特に俺にとってはプレイするのがすごく楽しい曲だよ。

ーそれに対して「Barstool Warrior」はとてもメロディックで明るい調子の曲ですね。プログレッシブ・ロック的で、ほとんどポンプ(大仰)ロックに近い感じがします。

この曲ではドリーム・シアターが多大な影響を受けた英国プログレッシブ・ロックに敬意を表しているんだ。バンドが結成したとき、俺たちはメタリカやアイアン・メイデンなどが好きだったけど、イエスやピンク・フロイドみたいなバンドにもハマっていた。それにジョーダンがジェネシスとかのバンドからの影響を持ち込んできた。よりメロディックなそんな影響を取り入れて、俺たちなりにアプローチしたのがこの曲なんだよ。

ー歌詞はどんなところからインスピレーションを受けましたか? ”バーストゥール(酒場の丸椅子)の戦士”とはどのような人ですか?

ああいうタイプの曲の場合、俺はピーター・ゲイブリエルのようにストーリーテリング的な手法で歌詞に取り組むんだ。まず曲が出来上がったところでボーカル・メロディに着手して、俺は酒場にいる男について歌い始めた。ギャグだったけど、「おっ、こういうのもアリじゃないか!」とも思えた。アルバムでこの歌詞だけはまったくのフィクションで、2人の無関係の人物を題材としている。1人は海沿いの小さな村に住むアルコール依存症で手に職のない男で、村から出ていかなかった言い訳を自分自身に対してし続けている。彼は同じ場所でくすぶっているけど、それが何故なのか判らないんだ。2人目は虐待を受けている女性で、やはり留まりながら、何故自分が出ていかないのか訝っている。この歌はそんな状況から抜け出ることの出来ない人たちを描いているんだ、そして最後に、そんな状況は一転することになる。イカレているみたいな言い方だけど、俺は仏教的な観点から物事を捉えているんだ。自分の考えること、感じること、信じること、夢見ることは、すべて現実たりえる。自分の置かれている環境に囚われる必要はないんだ。この歌の最後では、2人の主人公がそのことに気付くというポジティブなヒネリがある。数分しかない曲に詰め込むことが出来る歌詞には限界があるから、ほとんどソングライティングの挑戦といえるし、たまにこういう曲を書くのは楽しいよ。まあドリーム・シアターの場合、曲がかなり長いことも少なくないけどね。

ー『Distance Over Time』に伴うワールド・ツアーの最初の日程が発表されましたが、ドリーム・シアターの5作目のアルバム『Metropolis Part 2 : Scenes From A Memory』の20周年を記念するツアーでもあるそうですね。アルバムのライブ完全再現も行われるでしょうか?

ああ、そうするよ。「アン・イヴニング・ウイズ・ドリーム・シアター」と銘打って、新作からの曲と過去のアルバムからの曲を幾つかプレイして、それから『Scenes From A Memory』を全曲演奏するんだ。すごく楽しいライブになる。ストーリーテリングやいろんな面において、俺たちにとって重要なアルバムなんだ。俺たちの最初のコンセプト・アルバムということもあるしね。

プログレッシブ・メタルはコマーシャルな音楽ではない

ードリーム・シアターの作品はすべてコンセプト・アルバムだと思い込んでいる人もたくさんいるのでは?

ああ、そうだろうな(笑)。

ー『Metropolis Part 2 : Scenes From A Memory』はあなたにとってどんな意味を持つアルバムですか?

まずジョーダンが加わって作った最初のアルバムという点で重要だし、外部プロデューサーを使わずに作った初のアルバムということもある。当時マイク(ドリーム・シアターの初代ドラマーのマイク・ポートノイ)と「もうそういうのは止めて、プロデュースは自分たちでやろうぜ」と話したのを覚えているよ。それからずっとそうしている。さっきの話に戻るけど、そういう意味では『Scenes From A Memory』は前作に対する反動だったと言えるかもね。もうひとつ、それまでコンセプト・アルバムというものを作ったことがなかったし、そろそろやってみようと考えたんだ。俺たちなりの『オペレーション:マインドクライム』であり『トミー』、『ザ・ウォール』をね。意識して新しいこと、違ったことをやろうと決めたんだ。

ー『Metropolis Part 2 : Scenes From A Memory』のひとつ前の1997年のアルバム『Falling Into Infinity』ではよりコマーシャルな音作りでメインストリーム市場のリスナーに訴求しましたが、それは意識していたのですか?

いや、あのアルバムを聴くと、それほどコマーシャルな曲は入っていないんじゃないかな。でも覚えているのは、アルバムの全曲を書いた時点で、当時のレコード会社がもっとシングル向きの曲を求めてきたことだった。だから、よりコマーシャルな曲を入れようというレーベルからの一種の介入があったことは事実だ。プログレッシブ・メタルというものは本質的にコマーシャルな音楽ではないし、そうしようと試みるのはおかしいよね。意識してコマーシャルな曲を書こうとすると、本質を見失ってしまうんだ。リスナーはそんなものを期待していないし、求めてもいないんだよ。

ー今日ではあなた達はインストゥルメンタル面が強力な音楽をコアなリスナー層のためにプレイして、その支持を広げています。ラジオやMTVのことを気にする必要から解き放たれていますよね。

まったくその通りだ。ただ興味深いのは、プログレッシブ・メタルだか何だかと呼ばれる音楽のシーンがこれまでになく大きなものになっていることだ。俺たちが活動を始めた頃、そんなシーンすら存在しなかった。俺たちの友達のフェイツ・ウォーニングみたいなバンドは幾つかあったし、クイーンズライクもちょっと踏み入れていたけど、ほぼ皆無だった。俺たちは彼らよりインストゥルメンタルの比重が大きかったといえるだろう。とにかく大きなシーンはなかったんだよ。でも今ではプログレッシブ・メタルがさまざまなジャンルに枝分かれして、たくさんのバンドに素晴らしいミュージシャンがいて、とてつもなくクールな作品を作って音楽を異なった方向に持っていっている。もうラジオやMTVの手を借りずとも音楽は多くの人々に拡がって、人々は「これはクールだ。予測不能な方向に進んでいく展開とシリアスなプレイの曲はクールだよ」と言っているんだ。しかも20分の長さの曲だったりする(笑)。俺たちがやっている音楽は、今ではそれほど異端でもないんだ。それは素晴らしいことだと思うよ。

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from Rolling Stone US

<INFORMATION>

「DOWNLOAD JAPAN 2022」



2022年8月14日(日)千葉・幕張メッセ
時間:OPEN 9:30 / START 10:30
料金
VIP:35000円(入場チケット+VIP特典)
スタンディング:18000円(別途1ドリンク代)
【タイムテーブル】
OPEN 9:30
9:45-10:15:BAND-MAID(Opening Act)
10:30-11:20:The Halo Effect
11:50-12:40 :Code Orange
13:10-14:00:At The Gates
14:30-15:20:Soulfly
15:50-16:40 :Steel Panther
17:10-18:00:Mastodon
18:30-19:30 :Bullet For My Valentine
20:00-21:50:Dream Theater

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