近年では遺伝や幼少期の環境によってその後の人生が大きく左右されることがわかっており、さまざまな研究者が構造的な格差を減らすために研究を行っています。7200万人以上のFacebookユーザーを分析した新たな研究では、「子どもの頃に裕福な友人を持っていた人は将来の収入が高くなりやすい」という結果が示されました。

Social capital I: measurement and associations with economic mobility | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-022-04996-4

Vast New Study Shows a Key to Reducing Poverty: More Friendships Between Rich and Poor - The New York Times

https://www.nytimes.com/interactive/2022/08/01/upshot/rich-poor-friendships.html

Having Wealthy Friends in Childhood Can Boost Your Income in The Future

https://www.sciencealert.com/having-rich-friends-when-you-re-young-increases-your-income-later-in-life

研究者らは長い間、「社会的な関係が所得格差と経済的機会に影響を与えているのではないか?」と考えてきましたが、この仮説を裏付けられる大規模なデータセットを得ることは困難でした。

そこでハーバード大学・スタンフォード大学・ニューヨーク大学などの研究チームは、アメリカに住む25〜44歳の成人の84%をカバーする7200万人以上のFacebookユーザーを対象に、Facebookで確認できる210億件以上の友人同士のつながりを調査しました。研究にはFacebookを運営するMetaの研究者も加わっており、収集したデータには住所の郵便番号・出身大学・スマートフォンの機種・年齢・その他の特性が含まれていましたが、氏名は除外されていたとのこと。

研究チームは税務記録や国勢調査データなども参考にユーザーの収入を推定した上で、その人が現在どこに住んでいるのか、高所得の友人をどれほど持っているのかを調べました。また、約2000万人のユーザーについては、出身高校および両親とのリンクを見つけることもできたそうです。研究チームは、これらの人々が人生のどの段階でどのような友人とつながりを持っていたのか、住んでいた場所の社会経済的傾向はどうだったのかを分析しました。



分析の結果、「貧しい家庭に生まれた子どもが裕福な友人の多い環境で育った場合、将来の収入が高くなる」という相関関係が発見されました。研究チームは、貧しい家庭の子どもが「友人の70%が裕福な環境」で育った場合、成人になってからの所得が約20%上昇する傾向があったと報告しています。この相関関係は学校の質・家族構成・雇用機会・コミュニティの人種構成といった、一般的に将来の収入と関連があるとされている要因よりも強いものでした。

社会経済的な階級を乗り越えた友人のつながりを、研究チームは「economic connectedness(経済的連結性)」と呼んでいます。同じような社会経済状況の地域であっても、経済的連結性の強い地域の方が所得の流動性が大きかったとのこと。

経済的連結性が所得の増加と関連する理由については、「高所得家庭の子どもと友人関係になることで将来設計に影響が及び、友人がいなければ得られなかった情報や雇用機会へのアクセスが得られる」という仮説が挙げられています。論文の主要な著者でハーバード大学の経済学者であるRaj Chetty氏は、「社会的階級の境界線を越えてつながるコミュニティで育つことで、子どもたちの成果が向上し、貧困から抜け出すためのよい弾みが得られます」とコメントしています。

しかし、今回の研究では、アメリカではお金持ちの人々はお金持ちの友人を持ち、貧しい人々は貧しい友人を持つ傾向が根強いこともわかりました。アメリカでは同じ人種の友人関係を形成する人が多いことや、そもそも貧しい人々が多い地域では裕福な友人を作る機会が少ないことから、社会経済的格差を乗り越えた友人関係を構築することはかなり難しいそうです。

ハーバード大学の政治学者であるロバート・パットナム氏は、「今日のアメリカに欠けているもの、そして過去50年間で壊滅的に低下したものは、私が『ブリッジング・ソーシャル・キャピタル(社会資本の橋渡し)』と呼ぶ、自分と異なる人々とつながる非公式な結びつきです」と述べ、経済的連結性の構築はアメリカ社会にとって大きな課題だと指摘しています。



同じチームが行った別の研究では、収入格差を乗り越えて友人関係が生まれる程度は、自分と異なる経済状況の人々と接触する機会だけでなく、「自分と異なる相手と友人になりたい」という意欲にも依存していることが明らかになりました。つまり、単に住宅補助を出して地域人口の多様性を向上させたり、大学や高校が多様な経済状況の生徒を受け入れたりするだけでは、将来的な格差の解消につながらない可能性もあるというわけです。

論文の著者でニューヨーク大学の経済学者であるヨハネス・ストローベル教授は、「経済的連結性を作ることに関心がある人は、(スクールバスの充実やアファーマティブ・アクションによる多様性の向上だけでなく)所得の異なる人々を交流させることにも同じように力を入れるべきです」と述べました。