この夏、若き料理人のナンバーワンが決まる! その大会の名は「ザ・プレミアム・モルツ presents CHEF-1グランプリ2022」。全国461名のエントリーの中から95名が都道府県代表に選出され、全国大会に進んだのは8名。ここからさらに絞られ、1対1の決勝戦が行われました。テレビでのオンエアが終わったばかりの決勝戦の様子をお届けします。

料理人がガチンコ勝負! シェフ版「M-1グランプリ」

「CHEF-1グランプリ」は、冒頭でお伝えしたとおり、若手料理人のナンバーワンを決める大会。「M-1グランプリ」のように参加資格があり、年齢40歳未満(1982年8月1日以降生まれ)であること。プロアマ料理のジャンルを問わないため、基本年齢制限のみ!

2021年は「ドラゴンシェフ」という名前で開催されていましたが、さらなる発展を目指し、2022年より「CHEF-1グランプリ」とタイトル名を変えて、進化! 

全国で行われた予選ラウンド、サバイバルラウンドを経て勝ち抜いたのは、8名のシェフたち。

北海道・東北エリア:大原正雄さん(フレンチ/北海道代表)
地元愛あふれる、北の大地の実力派フレンチシェフ

関東・甲信越エリア:鄭大羽さん(韓国料理/神奈川代表)
韓国料理の魅力を伝えるフリーランスの料理人

関東・甲信越エリア:志田竜児さん(フレンチ/神奈川代表)
『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』4代目料理長

東海・北陸エリア:砂山利治さん(フレンチ/石川県代表)
フランスの星付きレストランでスーシェフを経験

近畿エリア:一之瀬愛衣さん(フレンチ/滋賀代表)
紅一点! 滋賀の魅力を伝えるストイックシェフ

近畿エリア:楠 修二さん(和食/京都代表)
祇園の日本料理店出身。発酵食品を愛する料理人

中国・四国エリア:長瀬大樹さん(イタリアン/高知代表)
負けたら引退! 勝負をかけるいごっそうシェフ

九州・沖縄エリア:山下泰史さん(ジャンルレス/福岡代表)
前回大会で準優勝、リベンジを目指す

ここまでの戦いは「TVer」で視聴可能。関東・甲信越エリアの予選ラウンドでは、僭越ながら編集部えびすが審査員を務めさせていただいている。よろしければ、ぜひ。

TVerはこちら!

決勝へ向け8名→4名→2名と絞られる!

今回の全国大会では、8名→4名→2名と絞られていく。

1回戦の対決は「農園タイマンバトル」。千葉県にある農園を舞台に、各シェフが地元で採れる魚介類と、畑で自らが収穫した野菜を組み合わせた“新たな料理”を作り上げていく。

8名のシェフが農園に集結

この対決で審査員を務めるのは、15年連続でミシュラン三つ星を獲得し日本人初のメンターシェフアワードを受賞した日本料理店『かんだ』の神田裕行さん、オープン1年目でミシュラン一つ星を獲得した『慈華itsuka』の料理長・田村亮介さん。

「農園タイマンバトル」の審査員を務めた田村亮介さん(左)、神田裕行さん(右)

味はもちろん、海と山の食材の“組み合わせの妙”が審査のポイントとなるこの一戦、くじ引きで2名ずつがA〜Dの4組に分かれて対決する。くじ引きの結果はご覧の通り。

Aブロック:志田竜児さん(神奈川)vs長瀬大樹さん(高知)
Bブロック:楠修二さん(京都)vs大原正雄さん(北海道)
Cブロック:一之瀬愛衣さん(滋賀)vs砂山利治さん(石川)
Dブロック:山下泰史さん(福岡)vs鄭大羽さん(神奈川)

自ら農園で収穫を行う

調理は、農園に設置された特設キッチンで行う。屋外用の小さなテーブルにカセットコンロが設置された簡易的なものに加え、屋外という不安定な環境下で、各シェフが苦心しながら料理を完成させていく。

特設キッチンでの調理に四苦八苦

うなぎとスパイスを合わせた料理が「農園だからこそ作り得た」と称賛された長瀬シェフや、滋賀県産のビワマスにナスの組み合わせで見目麗しいひと皿を作り審査員を唸らせた一之瀬シェフなど、それぞれの個性が炸裂した。

審査員が唸った長瀬シェフの調理の様子

京都の楠シェフは「ししとうの辛味が強すぎる」と再度農園へ行って収穫するなど、この対決ならではの場面も見られた。

審査員に加え、ゲストの森泉さんも試食に加わった

これまで同様、「最後の最後まで本当に悩みました……」という審査員おふたりによる審査の結果、準決勝に残ったのは、長瀬大樹シェフ、大原正雄シェフ、砂山利治シェフ、山下泰史シェフの4名となった。

その準決勝の対決は、キッチンスタジオで行う「スピードバトル」。「丸鶏を使ったスピード料理」をお題に、速さと技術を競った。

激戦の「スピードバトル」

ここで審査員を務めるのは、恵比寿の『ガストロノミー “ジョエル・ロブション”』総料理長・関谷健一朗さん、日本人初のイタリア版ミシュランで1つ星を獲得した『Ristorante i-lunga』オーナーシェフ・堀江純一郎さん、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの資格を持つ瀬川あずささんの3名。

「スピードバトル」の審査員を務めた関谷健一朗さん(左)、瀬川あずささん(中)、堀江純一郎さん(右)

4人のシェフが一斉に調理を開始し、料理が仕上がったシェフから審査員に試食できるというもの。3名全員が「○」をつければ決勝進出。×なら、また新たに料理を作ることになる厳しい戦いだ。

1品に賭けてストレートに○を狙ったシェフもいれば、×が出てもすぐに次の料理が提供できるよう3品同時に作ったシェフもいて、戦略も重要となった。

MCの山里亮太さんと共に料理の審査を待つ

その結果、決勝に駒を進めたのは、北海道代表の大原シェフと福岡代表の山下シェフ。このふたりの直接対決にて、いよいよ「CHEF-1グランプリ」の勝者が決まることとなる。

決勝は10名分のコース料理対決 制限時間は1時間!

決勝は10人分のコース料理対決。調理時間はなんと1時間。テーマは「地元食材を活かした大皿前菜とメインのコース料理」だ。

審査員はここまでにご紹介した方々5人が集結。ひとり100点満点で採点し、得点の高かった方が優勝となる。

さらに、会場には試食ゲストとして、今田耕司さん、森泉さん、トリンドル玲奈さんが登場。オブザーバーとして、肉のプロフェッショナル・中井松太郎さん(大阪・牛寶)、魚のプロフェッショナル・前田尚毅(静岡・サスエ 前田魚店)も勝負の行方を見守った。

決勝戦は私も現場で拝見したが、なんとも言えぬ緊張感。同じく現場で見た関東・甲信越のサバイバルラウンドとはまた違うムードが漂っていました。

決戦の会場には、「農園タイマンバトル」を戦ったシェフたちや、応援団としてそれぞれの家族も見守った。

今回の対決にあたって、営業の合間にレシピをコツコツ考えたという山下シェフに対して、大原シェフはお店を休んでレシピを考えることに集中。しかも店の厨房を決勝戦と同じキッチン仕様にしたという。「CHEF-1グランプリ」の頂きに立つことにすべてを捧げた。

今回のテーマにあった「地元食材」について、山下シェフは「夏野菜で美味しい」からということできゅうりと、クエをメインにチョイス。

山下シェフの食材

大原シェフは、今がまさに旬というトキシラズ(鮭)と、メスの蝦夷鹿を選択。トキシラズは、前回大会の優勝者が使用したものと同じところから仕入れたというゲンの良い食材だ。

大原シェフの食材

調理が進んでいくごとに、スタジオにはさまざまな美味しい香りが漂う。審査員や試食ゲストがその様子を見ながら話しているうちに気づけば、時間は刻々と過ぎていき、キッチンは慌ただしさを増していく。山下シェフは、残り3分になってもまだ皿に盛り付けられていないという状況に、会場は騒然。

そして、無情にも終了のブザーが鳴り響いた。アナウンサーから感想を聞かれた山下シェフは思わず「最悪」と口にすれば、大原シェフは「たくさん練習したんですけどね。時間よ、戻れ」とポツリ。対面式のキッチンながら、お互いは見えていなかったと答えるほどの集中力をもってしても満足のいく調理ができなかったようだ。

トリンドル玲奈さんから「人生で一番はやく感じた1時間だった」という言葉が飛び出すほどの激戦だった。

これまでにない料理に高評価が続出! 

ついに実食のとき。先行は山下シェフ。きゅうり2種類を使った前菜は、美しい盛り付けが目を引く一品。パッションフルーツが入ったフェンネルソースは、ナンプラーも加わってアジアンテイストに仕上げている。

手間ひまかけてきゅうりを調理する山下シェフ

審査員の田村さんは「この大舞台できゅうりを使った心意気に敬意を評します。生が一番美味しいかもしれない素材に、手をかけて昇華させた。ソースの独創性もいい。マイナスポイントはない」とコメント。

堀江さんは「見た目から爽やか。手間ひまかけたきゅうりとパッションフルーツの相性の良さを知れました」と唸った。

続いて、メイン料理。最後の仕上げは、提供前に行われるため、ここでの表現も重要だ。8.2kgある大きなクエを網に乗せ、皮目を焼いていく。バチバチと音を立てて、鼻孔をくすぐる香りの良さに一同が感嘆の声を挙げる。

そして、クエをカットした瞬間の断面は、今田耕司さんが思わず「うわ、きれい!」と身を乗り出すほどの美しさ。これにかけるのは、ご飯のソース。クエ鍋の最後に食べる雑炊をイメージしたというから驚きだ。青ゆずを絞って食べる刺身とともに、楽しむ贅沢な料理だ。

審査員の神田さんは「短い時間で切らずに塊で火入れし完璧の仕上がり」と太鼓判。関谷さんは「塊で焼いたからこその美味しさ。このクエでないとできなかったですよね。柚子胡椒のぴりっとした味と燻したナスを使ったソースがクエのしっとりした身質にあっていたと思います」と話した。

審査員からのコメントを聞いたあと、山下シェフのぐったりした表情が激闘を物語っていた。

実食が終わり、ホッとつく山下シェフ

後攻の大原シェフの前菜は、トキシラズのパテアンクルート仕立て。通常はお肉で作られるところを、トキシラズの背の部分を使って作られた意欲作だ。

パイ生地には「IH(アイラブ北海道)」の文字。大皿に盛ったときは五稜郭をイメージしたということで北海道への思いが込められている。

「素晴らしい料理でしたね。1時間の中で緻密に計算されてる。何度も何度も試作されたのが伝わってきました。アンクルートの形で水分を閉じ込め、繊細なトキシラズのテクスチャが活かされている」と神田さんは絶賛。

紅一点の審査員・瀬川さんは「大皿料理のテーマならではの大胆さを感じました。大原さんの料理は美しく優等生のようなイメージだったのが、IHでかわいく表現されていてワクワクしました」と、予選から見てきたからこそのコメント。

さらに味についても「トキシラズ、パイ生地の香ばしさ、ソースの旨味、完成された味わい。甘海老とホタテもメロンを使われていて甘味がきれいに引き出されていた」と称えた。

メインディッシュは蝦夷鹿を使った一品で挑む

メインディッシュは、蝦夷鹿を使った一品。森で得た白樺をしっかり消毒した上で燻し、香りをまとわせる。焼いた鹿の断面の鮮やかなロゼを見れば、完璧な火入れ具合なのがよくわかる。

お皿の上で、北海道の生き物をいただくことをイメージして表現。骨髄液でとったフォンや、カシスで炊いたゴボウが添えられた。

大原シェフのメッセージが伝わったのか、トリンドルさんは「元気なときの鹿と聞き、感謝の気持ちを持ちながらいただきました。口に入れると、涙が出そうになりました」とコメント。

「確かな技術と新しい視点が盛り込まれていました。白樺の香りをまとわせるストーリー性に、焦がしバターのプレゼンテーション。勉強になります。自分はこれを1時間で作れない。文句のつけようがありません」と神田さんは前菜に続いて高評価。

「肉の繊維がなめらか。個体を選ぶ目利きもそうですし、ハンターもストレスをかけずに撃っているのがよくわかる」(関谷)、「3歳メスの特長である柔らかさとしっかりした味を捉えていて、そのバランス感覚が実にいい。完璧に近いくらい美味しい」(堀江)と、蝦夷鹿自体に対するコメントも目立った。

優勝者決定! 激戦の先に見えたものとは

厳正なる審査が終わり、運命の結果発表。「M-1グランプリ」の得点発表のようにひとりずつ点が開いていく。その結果……。

山下:93 95 93 91 95=467
大原:99 96 98 98 98=489

結果が出た瞬間

優勝は北海道の大原シェフ。大勢が決した瞬間に目を覆う場面もあったが、優勝が決まった瞬間はガッツポーズを見せた。

優勝を祝う紙吹雪が舞った

開口一番「わかんないです」と言ったあと、「うれしいです。全国のシェフと戦えたことが感慨深いです」と笑みを浮かべた。

応援団で駆けつけたご両親は、「信じられない。よくやってくれた」とお父さんが話せば、「すごくうれしい。一生懸命がんばったもんね」とお母さんがやさしく語りかけた。

大原シェフは、お母さんへ「迷惑をかけていたので、やっと恩返しできた。自分の中でひとつピリオドが打てたかな」と語った。

神田さんが決勝戦の総評で「山下くんは、2度もここの舞台にやってきた。今回は大原くんの努力と技術と冷静さが勝ったんだと思います。山下くんは将来性がある人。また挑戦してほしい」と惜しくも2大会連続準優勝となった山下シェフを気遣った。

「461人が応募して、460人がただ単に負けたのではなく、経験を積んで持って帰ったと思う。いい戦いだった」とまとめた。

結果発表が終わって表彰式に移る前、大原シェフと山下シェフはどちらからでもなくハグをしてお互い健闘をたたえ合った。

「やられました」と話した山下シェフに対し、大原シェフは「もっとできると思ってたから優勝の実感がまだない。大会を背負ってふたりで戦ってきた中では、まだ足りないなと思いました」

最後は、ふたりが会場に来ていたシェフたちとも談笑していた姿が見られた。

優勝賞金はなんと1000万円!

家族への感謝や、一緒に戦ったシェフたちへの思い、それらが垣間見えてなんとも清々しい大会となった「CHEF-1グランプリ2022」。私自身、その審査に関われたことを誇りに思う。来年もこの大会が開催されることを切に願う。そのときはもっと多くのシェフがこの戦いに名乗りを挙げてほしい。

優勝した大原シェフはこんなことを話していた。

「来年もチャレンジできるんですか?」

打倒、大原! で集え、若きシェフたちよ!

全国の若き料理人よ、この頂を目指せ!

全国大会の模様は「TVer」で配信中。見逃した方はぜひそちらでチェックを。

TVerの視聴はこちら!

取材/編集部えびす 写真(C)CHEF-1グランプリ2022