「鎌倉殿の13人」頼家と御家人たちに早くも溝が…第27回放送「鎌倉殿と十三人」振り返り
源頼朝(演:大泉洋)が亡くなったとの報を受け、後鳥羽上皇(演:尾上松也)はその死因を飲水の病(糖尿病。やたら喉が渇くためそう呼ばれる)による落馬と見抜きました。
「急すぎるな。殺されたか……いや。今、頼朝が死んで得をする者は鎌倉におらぬ。事故。それも隠し通さねばならぬような。頼朝は武家の棟梁。武士にあるまじきこと……馬から落ちたか」
「あぁ。あの時、よう水を飲んでいた。飲水の病と言えば、御堂関白藤原道長。水が足りぬとめまいを起こす……繋がった」
「頼朝の跡目(を継ぐ荷は)、さぞ重かろう」
不敵に笑い、蹴っていた鞠を放りだす後鳥羽上皇。ラスボス感たっぷりの貫禄に、鎌倉政権の前途に不安を覚えてしまいます。
一方、鎌倉では「頼朝の跡目」を継ぐこととなった源頼家(演:金子大地)。鎌倉殿としての初仕事を前に意気込んではみたのですが……。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」1週間をあけて新章がスタート。ここからがいわば本番となります。
第27回放送は、若き頼家のやる気をそがぬよう適切な補佐を入れようと苦心する江間義時(演:小栗旬)に対して、比企能員(演:佐藤二朗)と北条時政(演:坂東彌十郎)が派閥争いを展開。
最初は5人だけだった補佐役が、比企派だ北条派だあれよあれよと13人。ただでさえ無力感に葛藤していた頼家は完全に怒り、御家人たちと溝を作ってしまいました。
確かに頼朝も御家人たちを心底信じてはいませんでしたが、それを口にしてしまったらおいまいというもの。この辺りに苦労知らずで育った二代目らしさが垣間見えます。
源頼家。御家人たちを信用こそしなくても、利用しなくては鎌倉殿ではいられない。その辺りを分かっていなかったか。
サブタイトルは「鎌倉殿と十三人」。鎌倉殿「の」ではなく「と」としたのは、鎌倉殿と十三人≒御家人たちの溝を示しているようです。
従来の単純な暴君キャラではないものの、独りで鎌倉の難局を乗り切れるほどの英邁さはなく、また御家人たちと協調する度量もない頼家。果たしてどうなっていくのか、今回も振り返っていきましょう。
十三人と鎌倉殿の6人
若き頼家を補佐するために集められた宿老13名。しかしその内情は比企と北条の派閥争いで、結成当初から波乱含みの様相を呈しています。
頼家の乳父であり舅として権力の座を狙う比企能員。
【比企派】
比企能員安達盛長(演:野添義弘)中原親能(演:川島潤哉)二階堂行政(演:野仲イサオ)三善康信(演:小林隆)【北条派】
北条時政江間義時三浦義澄(演:佐藤B作)和田義盛(演:横田栄司)足立遠元(演:大野泰広)【中立?】
梶原景時大江広元(演:栗原英雄)八田知家(演:市原隼人)数の上では比企派5名と北条派5名で互角。しかし義時はなるべく中立を保とうとしていること、また武蔵国に所領を持ち比企の影響が強いはずの足立遠元がちゃっかり北条派に入っていることなど、不安要素が見られます。
不毛な権力争いから一線を引いた畠山重忠。劇中では「北条の婿ではあるが、武蔵国で比企に逆らえない」と描写されているものの、比企は武蔵国内では比較的新参勢力。むしろ畠山の方が力を持っていたと考えられる。菊池容斎筆
一方の比企派も姻戚関係で引き込んだ安達盛長があまり乗り気でないこと、そして接待して引き込んだ文官3名がどこまで比企に義理立てするかは不確実ですから、こちらも一枚岩ではありません。
最初から我こそが鎌倉殿にとって一の郎党であると確信している景時、そして比企の接待にも仏頂面を貫いた広元は終始中立(あるいは別派)を保つものと思われます。
そうなると気になるのが八田知家。賄賂の砂金はしっかりもらいつつ(何ならその香りも堪能しつつ)「俺は俺だ」と啖呵を切った彼が、どのように立ち回るのかが派閥争いの行く末を大きく左右することでしょう。
しかし、集結した13人の大半が単なる頭数合わせとなった本作の展開は新鮮でした。残念ながら、実際もそんな感じだったものと想像できます。
ちなみに「とっくに死んだ」佐々木秀義(演:康すおん)と「もうすぐ死ぬ」千葉介常胤(演:岡本信人)に少しでも言及があったのは、よかったのかどうでしょうか。
土肥実平。『吾妻鏡』では建久6年(1195年)にその妻が「後家尼」とされていることから、既に亡くなっているものと思われる。菊池容斎筆
また、誰からも声をかけてもらえなかった土肥実平(演:阿南健治)。「死ぬ前にもう一度だけでも鎌倉殿のお役に立ちたい」と義時にすがったものの、軽くあしらわれてしまう姿は、何とも悲しいものでした。
暗に「もうお前らの時代は終わりだ」と引導を渡されたような思いがします。が、選ばれたメンバーだって結構な御高齢。まだ30代の義時が例外中の例外で、後はほとんど老人会の様相を呈しています。
一方、そんな宿老たちに対して頼家が結成した若武者たちがこちら。
小笠原弥太郎長経(演:西村成忠)比企三郎宗朝(演:Kaito)比企弥四郎時員(演:成田瑛基)中野五郎能成(演:歩夢)北条五郎時連(演:瀬戸康史)江間太郎頼時(演:坂口健太郎)「信じられるのは、こやつらだけ」そう言い放つ頼家。しかし6名中2名は比企派、もう2名は北条派の息がかかっており、詰めの甘さを否めません。
※ただし『吾妻鏡』では時連・頼時の代わりに和田朝盛(わだ とももり。義盛の孫)と細野四郎(ほその しろう)が入っており、頼家が北条よりも比企の影響をより強く受けていたことが判ります。
果たして狼藉御免とされた若者たちを引き連れ、頼家はどのように暴走していくのでしょうか。
どうなる、文覚!?土御門通親の暗殺未遂「三左衛門事件」
頼朝が亡くなって間もない建久10年(1199年)2月、亡き一条高能(演:木戸邑弥)の遺臣が土御門通親(演:関智一)の襲撃を企んだ疑いにより逮捕。
首謀者の後藤基清(ごとう もときよ)・中原政経(なかはら まさつね)・小野義成(おの よしなり)の三人とも左衛門尉(さゑもんのじょう)の官職であったため「三左衛門(さんざゑもん)事件」と呼ばれます。
どこまでも悪運の強い文覚。歌川国芳筆
この謀議にかの迷僧・文覚(演:市川猿之助)が加担しておりました。しかし捕らわれても悪びれないのは、きっと鎌倉殿が(源氏の恩人である)自分を助けてくれると確信していたから。
と思っていたら頼家はこれをアッサリ見捨ててしまい、それを知った時のショックが、実にテンポよく描写されていました。
でもご安心下さい。悪運の強い文覚は佐渡へ流罪となったものの、建仁2年(1202年)に赦されて帰京します。
それでも懲りずに建仁3年(1203年)、今度は後鳥羽上皇に対する謀叛に加担。対馬へ流罪となる道中、九州で亡くなったということです。
大河ドラマではこれでフェイドアウトとなるのでしょうが、文覚はもうちょっとだけ生きるのでした。
山積みの政務、御家人同士のいさかい、女のバトルにうんざり
鎌倉殿となった頼家は、最初こそ学問や蹴鞠に励んでいましたが、いざ溜まりに溜まった政務(特に訴訟問題)を前にうんざりしてしまいます。
「下らぬもめごとが多くて、うんざりします」
しかし当人たちにとっては大事なこと。昔から一所懸命(ひとところに命を懸ける)と言う通り、土地や権利こそが彼らの生命線でした。
だからしっかり耳を傾けるように諭す母・政子(演:小池栄子)は、すでに尼将軍となる貫禄を身に着けつつあるようです。
景時に侍所別当を取って代わられ不満な和田義盛。しかし頼朝にとっても、その方が都合がよかった模様。歌川貞秀筆
また侍所別当の座を巡って和田義盛と梶原景時が口論を起こし、寵愛する正室・つつじ(演:北香那。辻殿)の元へ逃げ込んでみれば、側室のせつ(演:山谷花純。若狭局)がやってきて女のバトルを繰り広げる始末。
つつじ「私と鎌倉殿の子は、きっと源氏の血筋を引く鼻筋の通った子になることでしょうね」
せつ「産んでからおっしゃい」
子供を産んだマウント、自分の方が寵愛されているマウント……まだ若い頼家には少しばかり手に余るようです。
「鎌倉殿は経験がない分、何をどうすればいいか分からないんだと思います」
「何をしても頼朝様と比べられますしね」
頼家よりも年下ながら、随分と大人びた頼時のセリフが、頼家の葛藤を解説してくれました。
それにしても義時はもう少し上手く、と言うより言葉すなわち誠意を尽くして頼家を説得できなかったのでしょうか。
「すみません。本当は5人で行きたかったんですが、ウチの父と比企殿が下らない張り合いを始めてしまって……実務的なことは文官がたにお願いして、私と梶原殿であの年寄りたちを何とかしますから」……とか何とか。
決してバカではない頼家ですから、板挟みな義時の事情を察して、もう少し理解・協力してくれそうなものです(ドラマとしてはそれじゃ面白くないから、どんどんすれ違わせるのですが、やはりそう思わずにはいられませんでした)。
終わりに
ともあれ始まった十三人の合議制。しかしのっけからバラバラで、今にも崩壊してしまいそうです。事実すぐに崩壊が始まるのですが、早くも脱落していくその一人目は梶原景時。
第28回放送のサブタイトルは「名刀の主」。かつて第7回放送「敵か、あるいは」で景時が放ったセリフに、こんなのがありました。
梶原景時。彼という名刀を使いこなせるのは、頼朝だけだったのかも知れない。歌川国芳筆
「刀は切り手によって名刀にもなれば、なまくらにもなる(大意)」
これは自身を刀にたとえ、それを主君がどう使いこなすかで切れ味が変わることを示しています。果たして頼家がどっちの切り手であるかは、何となく想像がつくのではないでしょうか。
りく「まずは梶原を引きずり下ろしましょう」
頼朝が使いこなした懐刀・梶原景時。果たして彼がどのように引きずり下ろされていくのか、次週放送も目が離せませんね。
※参考文献:
『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 続・完全読本』産経新聞出版、2022年5月