なぜ次期セレソン監督候補が日本の2部へ…ブラジル人記者も驚いた長崎のカリーレ招聘「国内3クラブのオファーを蹴って…」
現在48歳のカリーレはブラジルの次代を築く監督と言われている。彼ほど若くしてブラジルのビッグチームを率いた者はいないし(43歳)、彼ほど若くして全国タイトルを征した者もいない(44歳)。いや、そればかりか次期ブラジル代表監督候補として名前が挙がっており、しかも候補者の中で最も若い。長崎は本当に素晴らしい監督を手に入れた。
2007年に引退し、指導者の道に進んだが、それは大きく2つの時代に分けられる。07〜16年までのアシスタントコーチ時代、それ以降の監督時代。カリーレにとって特に重要だったのはこのアシスタントコーチ時代だ。彼はこの時期に多くのことを学び吸収している。
コリンチャンスでは勝ち取れるすべてのタイトルを手に入れ(カンピオナート・パウリスタ、カンピオナート・ブラジレイロ、コパ・ブラジル、コパ・リベルタドーレス、そして2012年にはチェルシーを下してのクラブワールドカップ)、その後代表監督となるマノ・メネーゼスとチッチという2人の名将の下でアシスタントコーチを務めた。
それは彼にとって素晴らしい学校だった。いや、反対に彼が名将たちに影響を与えたことさえある。アシスタントコーチ時代、カリーレは若い選手のスカウトや育成も任されていたが、その際科学的な手法で選手を分析、把握した。
彼は選手一人ひとりのカルテを作成し、テクニック、フィジカル、健康状態、メンタル、性格など、多岐にわたる項目に分類して書きこみ、選手の状態を知るのに役立てた。チッチはこのやり方を高く評価し、現在ブラジル代表でもその手法を導入している。
2016年9月、解任された指揮官の代役としてカリーレはコリンチャンスの暫定監督となる。そしてそれ以降、アシスタントコーチに戻ることはなく、12月には正式に監督としてサンパウロ州で最も人気で強いチームを率いることとなった。
監督となって3か月でサンパウロ州で優勝を果たし、2017年のカンピオナート・ブラジレイロでも2位以下を8ポイントも引き離して全国優勝を果たした。彼のコリンチャンスは14試合連勝、19試合連続無敗という記録も打ち立てた。ちなみにこの時の得点王が元名古屋にいたジョーである。
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こうしてカリーレは1年目にして一躍名監督の仲間入りを果たした。ブラジルの多くの名門からもオファーが寄せられる中、彼は突如サウジアラビアのアル・ヴェハダの監督となる。思えばこの頃から彼はサプライズ移籍が得意だったようだ。一説によるとこの移籍は家族の意向だったとも言われてる。
しかし1年後、彼は請われて再びでコリンチャンスに戻ってくる。この時チームが提示した報酬は以前の倍だった。
2019年、彼は再びサウジアラビアに飛ぶ。多くのブラジルのクラブに望まれ、サウジアラビア代表監督の話もあったが、彼が選んだのはアル・イティハドだった。
1年半後、サンパオリの後任としてサントスの監督に就任。後任を誰に任すか、サントス幹部や元選手たちが会議を開いたが、そこでカリーレの名前を出したのがペレだったという。しかし残念ながら良い結果を出せず、22年2月に解任を告げられた。
しかし若く優秀な監督は引く手あまたで、その2か月後には彼はすでにアトレティコ・パラナエンセのベンチに座っていた。だが21日間、7試合を率いただけで、ここも解任されてしまう。コパ・リベルタドーレスでボリビアのストロンゲストに0-5の大敗をしてしまったことが引き金だった。
南米ではボリビアは最弱のイメージがある。サポーターは彼を激しく非難し、カリーレ自身もチーム離れることを望んだ。短期間に2つのチームで首を切られ、カリーレにとっては難しい時期だったろう。
そんなところに来たのが長崎からのオファーだった。彼は新たな世界に興味を感じたのか、話が来てから一週間もしないうちに契約を結んだ。
いずれにしても、こうして長崎は首尾よく最高レベルの指揮官を手に入れた。多分ここ20年間に日本のチームがブラジル相手に行ったオペレーションの中で、最もクレバーな買い物だったのではないだろうか。彼は聡明で、まじめで、冷静で、若い選手を育てるのがうまい。彼のサッカーは守備的すぎると言う者もあるが、私はそうは感じない。
それにしても、どこの国においても2部のチームを率いたことのなく、次期代表監督とまで言われる智将が、なぜ日本の2部チームを引き受けたのかは、我々ブラジル人にとっては大きな謎である。しかも、同じタイミングで3つのブラジルのチーム(セアラ、フォルタレサ、フラメンゴ)もからオファーを受けていたにもかかわらずだ。
長崎はなにか我々が知らないとてつもないビッグプロジェクトを計画しているのか? そんな声も聞こえてくる。とにかく、長崎とカリーレにとってこのエンゲージメントが幸せであることを祈ってやまない。
文●リカルド・セティオン(text by Ricardo SETYON)
翻訳●利根川晶子
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。
