社員にも“ムジラー”が多い良品計画。外部人材の採用を本格化させ、組織改革を進めている(撮影:今井康一)

外からの風は、独特の世界観を持つ無印にどんな化学反応をもたらすのか。

「無印良品」を運営する良品計画が今年2月以降、セブン-イレブン・ジャパンやZOZOなど外部から、6月14日時点で5人の執行役員を採用していたことがわかった。

新たに役員に就いたのは、セブン-イレブン・ジャパンで商品本部長などを務めた高橋広隆氏、ゼネラル・エレクトリック日本法人などでの勤務経歴がある辻祥雅氏、コンサルや民泊サイト「Airbnb」日本法人での経歴を持つ長田英知氏、「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの元執行役員の久保田竜弥氏と宮澤高浩氏。

5人が加わったことにより、良品計画の執行役員は取締役兼務者も含めて30人体制となった。

役員の3割近くが外部出身組に

良品計画では2021年9月、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで過去に副社長などを歴任した堂前宣夫氏が、同社初の外部出身社長に就任。その新体制発足時にも、堂前氏と同じファストリで上席執行役員を務めた横濱潤氏ら3人の外部出身者を役員に迎えている。

高橋氏ら新役員に託す担当業務もすでに決まっており、30人の執行役員のうち、3割近くが直近1年の間に外部から採用してきた人材だ。

西友のPB(プライベートブランド)から派生した良品計画では従来、西友出身者や良品計画の生え抜き社員が順当に役員に就くケースが多かった。それが今、外部人材の登用にここまで力を入れるのはなぜなのか。

今回の役員人事の意図について、良品計画は「人材のプロフェッショナル化を進めるため、外部人材の積極的な採用を行っている。内部人材と外部人材が密度濃く一緒に仕事をして、相乗効果を生んでいきたい」と説明する。


2021年7月、同社は堂前社長が中心となって策定した中期経営計画を公表している。無印の店舗で実現したい具体的な事業イメージとともに、「2030年に売上高3兆円」などの数値目標を設定。それらを達成するうえで土台となる組織のあり方に関しては、「自律」や「プロ化」といった言葉をたびたび用いて、人材育成を強化する方針を掲げていた。

中計では、各店舗が地域の特産品を商品化したり、地域住民の困りごとを解決したりする、“地域密着型の個店経営”を目標に据える。自分事として地域の課題を考え、率先して行動に移せるような店長やスタッフで構成された店舗を目指す、ということだ。

その実現に当たっては、常日頃からインフラ整備や商品の開発・投入などの面で的確な支援を行えるよう、本部側の体制強化も不可欠となる。商品計画やデジタルなど各分野の専門性をいっそう高めるため、中計では本部人員の約3割に当たる200人を順次社外から採用する方針を明記している。

ZOZO出身役員の下でEC強化へ

外部人材の採用強化は、社員の意識改革を促す狙いもある。2021年10月に東洋経済が行ったインタビューで堂前社長は次のように語っていた。「(2019年に)無印に入社したとき、思った以上にトップダウン型の組織風土で、自律型の組織に変えなければと思った。力がある人に(外部から)入ってもらい、切磋琢磨してチームを強くすることが必要だ」。

長年小売業界をウォッチしている市場関係者も「無印は会社の世界観が好きで入社する社員が多い。一枚岩になれる強さはある半面、草食系の“仲良しクラブ”になりがちで、激しい競争に勝ち残ることは難しい」と、同社固有の課題を指摘する。社外からプロ人材を多数登用することにより、組織風土も一気に変革が進みそうだ。

今後は新たに就任した役員らの知見を取り入れ、事業課題や成長領域のテコ入れを一段と進める構えだ。

ZOZO出身の役員のうち、久保田氏はITサービス部門を、宮澤氏はEC(ネット通販)・デジタルサービス部門を担当する。両者はともにZOZOで子会社社長を長年務めるなど、急拡大するECビジネスの最前線においてサービス運営や技術開発に携わった実績を持つ。

無印はほかの小売企業と同様、自社サイトを軸にECへ注力してきたが、サイトの利便性などが課題で成長が遅れていた。コロナ禍が始まった当初、巣ごもりで自社ECへの注文が殺到した際には、出荷作業が間に合わず配送の大幅な遅延が発生。物流インフラの面でも体制の脆弱さが露呈していた。


ZOZO時代の宮澤高浩氏。古着専門モールの子会社社長などを務めた(編集部撮影)

今年4月に行われた決算会見で堂前社長は「懸念はデジタルだが、(自社ECの)売り場としての整備も進み、これから売り上げが増えていくと思う。人材の体制も十分になりつつある」と言及している。

久保田氏と宮澤氏がZOZOで培ったノウハウも注入しながら、サイトの購買利便性を高めるための機能強化やシステム改修などを急ぐとみられる。

セブンプレミアムでの知見を食品に

セブン-イレブン・ジャパン出身の高橋氏は、食品部門を担当する。同氏は商品本部長として、国内最大のPB(プライベートブランド)である「セブンプレミアム」の開発などで陣頭指揮を執った経験も持つ人物だ。


セブン時代の高橋氏。商品本部長として、セブンプレミアムの商品開発などに携わった(編集部撮影)

良品計画の売り上げの約1割を占める食品は、顧客の来店頻度を高める効果も期待でき、同社が近年とくに力を注ぐ分野。実際、この3年で食品カテゴリの売り上げは2倍近くに跳ね上がっている。

堂前社長も「今まではレトルトカレーやバウムクーヘンが食品の中心になっていたが、これ以外で柱となる商品を増やしたい」と意気込んでいた。

セブンプレミアムと言えば、製造元の食品メーカーなどとの密な協業体制で知られ、価格よりも品質に重点を置いた商品戦略で他社のPBと一線を画す。その開発を率いた高橋氏の知見を取り入れることで、食品の売り上げ拡大へ弾みをつける狙いだろう。

足元の業績に目を向けると、堂前社長にとって就任1年目の今2022年8月期は、厳しい情勢を強いられている。売上高の4割近くを占める衣服では商品施策が外れたことで値引き処分が増え、利益率が悪化。中国事業も上海ロックダウンなどの打撃を受けた。4月には期初に出した通期の業績予想を下方修正し、前期比で増収減益となる見込みだ。

外部からの新しい風で社内に変化を起こせるか。人材交流の成果が本格的に現れてくる来期以降、堂前体制の真価が問われることになる。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)