『ジョジョ』出演という“人生の夢”を叶えたファイルーズあいは、これからどこへ向かうのか? 「やりたいことが多すぎて時間が足りない!」と語った彼女の“次なる目標”【人生における3つの分岐点】

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 いまから3年前。
 ニコニコニュースオリジナルは、2019年夏に放送されたアニメ『ダンベル何キロ持てる?』で自身初となる主人公を演じた、声優・ファイルーズあいさんにインタビューを実施した。

 そこで彼女は、高校生の頃に出会ったマンガ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』に出会ったことが声優になったきっかけで、『ストーンオーシャン』の主人公・空条徐倫に何度も勇気づけられてきたと語った。
 「『ストーンオーシャン』がアニメ化したら、徐倫役のオファーがあるかもしれませんね」なんて話にもなった。

『ダンベル』主演声優「ファイルーズあい」とは何者だ? 心にジョジョ「空条徐倫」を住まわせる彼女の素顔に迫ったロングインタビュー

 『ダンベル何キロ持てる?』出演以降、ファイルーズあいさんは『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など数々のアニメでメインキャストを務め、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』では、主人公・キュアサマーを演じた。
 そして今年の4月から放送されているアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』では、空条徐倫を演じている。

 スター街道を爆走し、「徐倫を演じる」という、彼女の人生にとってこれ以上ないほどの「憧れ」に手が届いてしまったように見えるファイルーズあいさん。
 彼女はいま、自身のこれまでの歩み、そしてこれから進む道をどのように考えているのだろうか?

 ニコニコニュースオリジナルで連載中の、人気声優たちが辿ってきたターニング・ポイントを掘り下げる連載企画、人生における「3つの分岐点」。
 大塚明夫さん三森すずこさん中田譲治さん小倉唯さん堀江由衣さんに続き、第6回となる今回はファイルーズあいさんにインタビューを実施した。

 3年ぶりにインタビューの場でお会いしたファイルーズあいさん。
 インタビュー室でお会いするなり「3年前はありがとうございました!あのインタビューのおかげでたくさん注目していただけたんです」と言ってくださった。
 どこまでも明るく前向きで、太陽のようにその場にいる人全員を巻き込んでいく、このパワーの秘訣はどこにあるのか。このインタビューで、少しは迫れたのではないかと思う。
 人生を振り返るロングインタビュー、ぜひ味わってほしい。
 

文/前田久(前Q)
編集/金沢俊吾
撮影:金澤正平

分岐点1:小学生5年生でエジプト留学

──ファイルーズさんには、3年前にもニコニコニュースオリジナルのインタビュー記事にご登場いただきました。

ファイルーズあい:
 もちろん、覚えてます! インタビューしていただいた部屋も、前回と同じですよね?

──そこまで覚えていてくださるなんて、うれしいです! 今日はあらためて、人生における3つの分岐点」というテーマでお話をうかがわせてください。事前に挙げていただいた3つの分岐点は、「エジプト留学」「『ジョジョの奇妙な冒険』との出会い」「テレビアニメ『ダンベル何キロ持てる?』への出演」とのことでした。さっそくですが、最初の「エジプト留学」はどのような意味で、ファイルーズさんの人生の「分岐点」だったのでしょうか?

ファイルーズ:
 私はエジプト人の父と日本人の母から生まれたミックスなんです。
 ミックスであるというアイデンティティーに誇りを持っていたものの、日本生まれ日本育ちで、心からその事実を自分の中で祝福することができなかったんですね。 

 たとえば、「ファイルーズあい」というのは本名なんですけど、病院で名前を呼ばれる度に恥ずかしく感じてしまったり、ヒーローショーで司会のお姉さんに「お名前は?」と聞かれるのが苦手だったりしたんです。
 ミックスであることを誇りに思いたい気持ちと、コンプレックスに感じる気持ちが同時に存在していて、自分を上手くコントロールできなかった時期すらありました。

──それはつらい状態だったでしょうね……。 

ファイルーズ:
 「エジプトのことをもっと深く知れば、何かが変わるんじゃないか
 そう思い始めた時期に、エジプトのカイロに日本人学校があると教えてもらったんです。日本とエジプトのミックスの子たちが多く通っていて、楽しそうに学校行事に取り組んでいたり、エジプトならではの文化に触れて和気藹々としている様子を捉えた写真を見て、「これだ!」と。それで親にエジプト行きをお願いしたんです。

 両親は共働きだったので、小学校5年生の途中から、エジプトに住んでいるおばあちゃんとふたり暮らしをしていました。

意志の強さは母譲り

──小学5年生にして、大きな決断をしたんですね。 

ファイルーズ:
 振り返って自分でも、「すごいな、小学生の私!」って思います(笑)。エネルギッシュで行動力の塊でした。

 でも、エジプトに行ってからも、大変なことはたくさんありました。給食がないので、毎朝自分でお弁当を作らなきゃいけなかったんです。朝の6時前にはスクールバスが来て、そこから1時間半くらい掛けて学校に行くという暮らしをしていました。

──その暮らしを年単位で続けるのは、本当に意志が強くないとできませんね。 

ファイルーズ:
 意志の強さは母から受け継いだのかなと思います。母は私になんでもやらせてくれた。行きたいところも、どこへでも連れて行ってくれた。さらに毎朝お仕事に行きながら、お弁当も作ってくれていた。
 どれも強い意志がないと続かないことです。エジプトでお弁当を作っていたとき、母の偉大さをあらためて感じたのも、いい経験でした。

──お話を聞いていると、いろいろご苦労があって、ずいぶん大人びたお子さんになられていた印象を受けます。

ファイルーズ: 
 いやいや、そんなことをいいつつ、寂しくて夜に泣いちゃうことも沢山あったんですよ。
 エジプトの人たちって「親切」なんですよ。社交性が高くて、「隣にいる人は友達だ」くらいの感覚で、街中でも話しかけてくれる。私の感覚だとフレンドリーすぎるだろ!? と感じるときもあるくらい(笑)。
 でも自分の中の日本人的な部分……食文化だとか、対人関係の距離感をわかってくれる人が、エジプトでは親戚ですらいないわけですよ。

──想像するだけでツラいです。私なら1週間で帰りたくなると思います。 

ファイルーズ: 
 でも、そうしたいろいろなことを全部ひっくるめて、結果的には行ってよかったと思っています。弱い私が、約1年半のエジプト生活でいなくなった気がしました。
 自立した、強い女の子になれたんですよ……少しだけ(笑)。 

──少しだけ?(笑)完全に変われたわけではなかったんですか。

ファイルーズ:
 大きく踏み出すきっかけにはなったんですけど、中学入学と同時に日本に戻って、そこでまた新たな「壁」に出会ってしまったんです。そして、これが第二の分岐点に繋がって行くんですよ。

分岐点2:『ジョジョ』との出会い

──第二の分岐点は、『ジョジョの奇妙な冒険』との出会いですね。

ファイルーズ:
 はい。エジプトで伸び伸びと学んだ成果を発揮して、社交的に、自分の好きなものをどんどん発信しようと思って日本に戻ってきたんです。
 だけど、日本で流行っているものに追いつけなくて。 

──インターネットが本格的に普及する前ですもんね。国内と国外の情報の差が激しい。 

ファイルーズ:
 そうなんです。私だけが知らない話題で、他のみんなが盛り上がったりして、本当に悔しい毎日でした。

──聞いているだけでつらいです……。

ファイルーズ:
 「やっぱり私、日本には馴染めないのかな……」って。
 大好きなイラストを描いても、エジプトの日本人学校では、「上手だね! 私にも描いて!」だったのが、日本だと年頃なのもあってか、「こいつ、オタクなんだけど。キモ〜い!」みたいなことを言われてしまうのが、悲しくて、悲しくて。

──趣味ですらそんな扱いを。

ファイルーズ:
 でも、好きなものは私の宝。誰がなんと言おうと、好きであり続けようと思って。
 学校では暗かったのですが、家では好きなゲームをやったり、それこそニコニコ動画を観たりして(笑)、好きなものをインプットして世界を広げていったんですね。

──ニコニコがお役に立ててうれしいです。 

ファイルーズ: 
 それこそ、ニコニコ動画をきっかけに知ったもののひとつが、『ジョジョの奇妙な冒険』でした。なんだか面白そうなマンガだなと思って、本屋さんに行ったんですよ。『ジョジョの奇妙な冒険』って、第6部の『ストーンオーシャン』で単行本の巻数がリセットされたじゃないですか。
 それで「これが『ジョジョ』なんだ!」と勘違いして、『ストーンオーシャン』の1巻から5巻をいきなり買って帰ったんです。そうしたらもう、わからないワードが多くてびっくりして(笑)。

ジョジョの奇妙な冒険 第6部 モノクロ版 1。Amazon.co.jpより引用。

──「父親は空条承太郎? 誰? スタンド? なにそれ?」みたいな感じですよね(笑)。

ファイルーズ:
 そうなんです。でも、そんな状態であっても、1・2巻を読んだ段階で私の固定観念がぶっ壊されたんです。
 空条徐倫という主人公を見て、「こんな女の子、見たことない!」と。

空条徐倫のことをもっと知りたい!

──ファイルーズさんの『ジョジョ』との出会いは、前回のインタビューでも、他メディアでも語られていますが、ほんとうに何度聞いても熱い展開です。

ファイルーズ:
 当時の私の固定観念だと、女の子のキャラクターって、守られたり、戦うにしても回復の能力の使い手だったりしました。
 そんなときに、自分の足で蹴って、自分の腕で殴って、誰になんと言われようと意志の強い瞳を燃やして戦う徐倫の姿を見て、「なんてカッコいいんだ!」と。

 「私もこんな強さを持てたら、中学校で嫌な思いをしなくて済んだのかな? もっとこの子のことを知りたい!」と思ったんです。
 それから、あらためて第1部からきちんと、ちょっとずつ単行本を揃えて、高校1年の終わりには当時連載中だった第7部『スティール・ボール・ラン』の最新巻まで追いついていました。

──どハマリですね。

ファイルーズ:
 そうやってハマっていく過程で、インターネットで『ジョジョ』好きな人たちと友達になりました。
 そこで、ファンのみんなで、声に出して『ジョジョ』を読むことが流行っていたんです。それを見て、「私もやってみたい」と。

──そこで「キャラクターを演じる」ということをはじめてやったわけですね。

ファイルーズ:
 そうですね。中学生の頃からアニメが大好きだったので、声優になりたいなと、漠然とは思っていたんです。でもそれまでは、特に具体的な目標ではなかったんですよ。
 当時のアニメ好きな子って、大体「声優になりたい」とうっすら思っていた子が多かったんですけど、あくまでその一員だっただけというか。 

──なるほど。 

ファイルーズ:
 でも『ジョジョ』の朗読会に参加して、初めて人前でお芝居したとき、めちゃめちゃ褒めてもらえて。
 そこで「私、得意なことができた!」って思えたことが、生きる自信に繋がったんです。そこからはもう、ずっとワクワクキラキラするような毎日が続いて。
 「明日は何部のどのシーンを朗読しようかなぁ」と考えることも、毎日の生き甲斐に繋がったんです。

「いつか徐倫と一緒に戦いたい」という夢が叶った

──「演じる」ことが、救いになったんですね。

ファイルーズ:
 そんな日々を過ごすうちに、こう考えるようになったんですよ。
 私、本当に徐倫のことが大好きで、徐倫のおかげで人生の辛い時期を乗り越えられた。比喩じゃなく、つらいときは心の中に徐倫を思い浮かべて、「徐倫だったらここで泣かないッ!」と思って生きていた。
 だから、徐倫にはとても感謝しているんです。

 だから声優になって、『ジョジョ』がいつかアニメ化したときには、徐倫のことを助ける役がやりたい……と。
 こうして、漠然とした夢から、声優になる強い意志が芽生えたんです。

──何度聞いてもハートのふるえる話ですが、そんなファイルーズさんが今や本当にアニメの『ストーンオーシャン』に徐倫役で出演されているというのは、驚異的な出来事だと思います。

ファイルーズ:
 声優としてお仕事ができているだけでもありがたいのに、いつか徐倫と一緒に戦いたい、傍にいたいと思っていた夢まで叶いました。
 助ける役ではないですけど、徐倫の声というのは、ある意味では、徐倫の一番近くにいる立場ですからね。あと、幽波紋(スタンド)のストーン・フリーの声も担当してますし(笑)。

分岐点3:『ダンベル何キロ持てる?』に出演

──話を今日のテーマに戻すと、『ジョジョ』と出会い、声優になる夢を持ったのが2つ目の分岐点。そして最後の3つ目が、『ダンベル何キロ持てる?』にご出演されたことでした。2つ目の分岐点から、『ダンベル何キロ持てる?』に辿り着くまでにも、いろいろあったんじゃないですか?

ファイルーズ:
 そうなんです。「徐倫のために声優になるぞ!」と決心しても、なかなか上手くはいかないわけですよね(笑)。

 さきほど親がなんでもやらせてくれたと言いましたけど、習い事のたぐいはどれも長続きしなくて。親に「声優になりたい」と言っても、「また勢いで言ってるな」と思われてしまったんです。
 しかも仕事となると、習い事とはレベルが違って、人生を左右されるじゃないですか。だからとても反対されたんです。

──ここまでうかがってきた話だと優しくて素敵な親御さんですけど、そこは厳しさがあったのですね。

ファイルーズ:
 だから高校を卒業したあと、グラフィックデザイナーの専門学校に行って、絵の仕事に就こうとしました。絵を描くのは楽しかったので。でも「趣味で描いている方が楽しいな」と思ってしまったんですよね。
 それで専門学校の三年生になったとき、改めて母親に「本気で声優になりたい」と言ったら、「あなたは就活したくないから言ってるんでしょ? 就活して、正社員として一年間の職務経歴を作りなさい。それで貯めたお金で養成所に行くならいい」と返されたんです。

──うーむ……厳しいですけど、正論ですね。

ファイルーズ:
 それで、言われた通りに頑張ったんですよ。
 もうね、就活を体験された方なら絶対に気持ちがわかると思うのですが、「『お祈り』するなら、内定くれよ!!」って感じの毎日でした……(笑)。

──お祈りメールは心を削られますよね。

ファイルーズ:
 だからこそ頑張りました。

 それに、声優って顔を出さずに、声だけでお芝居をするからこそ、女性が男性にもなれるし、男性が女性にもなれるし、もっと飛躍して犬にも宇宙人にもなれる。それが声優という仕事の魅力だと思ってたので、実力のある人間になろうと思いました。

──頭の切り替えが素敵ですね。そのためにどうされたんですか?

ファイルーズ:
 養成所に入ってからは、誰よりも努力しました。そうやって、自信を持って言えるくらい努力しましたね。
 『ジョジョ』に出たいという黄金のような夢があるし、『ジョジョ』をきっかけに出会った友達にとって「誇れるような自分」でありたいという、強い気持ちにも支えられて。

 おかげで無事、養成所を卒業してから事務所に所属できたんですが、そこからがもう、さらに大変で。

声優としての「ファイルーズあい」を形作った『ダンベル』

──事務所に所属してから、本当に大変な日々がはじまったと。 

ファイルーズ:
 とにかくオーディションに受からないんですよ。
 当然、他にも上手く行かないこともたくさんあって、そうすると自信がなくなりますよね。

──就活がエンドレスで続くような感じでしょうか。ツラいでしょうね。

ファイルーズ:
 そんなときに、気にしないようにしようと思いながらも色々と考えてしまったりもして…。例えば、自分のファッションがダメなのかな、とか……。

──ファッションとは、どういうことですか? 

ファイルーズ:
 新人の女性声優は大体、髪色だったり、メイクや服に関して控えめな方が多いと思うんです。 
 でも私はもともとそうした格好をして来なかったので、それを選ぶと、私が私じゃなくなってしまいそうな気がしていました。
 鏡を見たときに、自分らしい自分がそこにいる。それだけはどうしても曲げたくなくて。

 そんな悩みを抱えたままがんばり続けていて、初めてオーディションで合格をもらったのが、『ダンベル何キロ持てる?』の紗倉ひびき役でした。奇跡だったと、今でも思います。

Nアニメ「ダンベル何キロ持てる?」より引用。

──だから3つ目の分岐点がそこになるんですね。

ファイルーズ:
 受かっただけでも本当にうれしかったですし、それまで趣味でやっていた筋トレの知識も活かせる内容でしたし、イベントで筋肉自体も活かすことができた(笑)。

 やっぱり、「好きなことは得意なことなんだな」って、改めて思えた作品でしたね。
 ニコニコニュースオリジナルさんで以前取材していただけたのも、『ダンベル』がきっかけでしたし、いろんなご縁がここから一気に繋がった。この作品には、感謝してもしきれないです。打ち上げの最後の挨拶で、壇上で号泣してしまったくらい、思い入れのあるタイトルなんです。

──それまでの人生が全部つながって、肯定されたような作品だったわけですね。 

ファイルーズ:
 本当にひびきに出会えて良かったです。役柄としても、好きなタイプでしたし。私、実はひびきに出会うまで、あんまり元気っ子を演じるのが得意だと思っていなかったんですよ。どちらかというと、ふわふわしたロリータ系のキャラが得意だと思っていたんです。

 でもお仕事をコンスタントにいただけるようになってから、元気っ子やギャルをやらせていただくことが多くて。自分がそうした役柄が得意なこと、演じていて楽しいことが見つかった作品でもあるんです。
 声優としての「ファイルーズあい」を形作ってくれたのは、ひびきとの出会いだったと思います。

「筋トレ」と「メイク」

──そんな『ダンベル』から3年。『ジョジョ』もそうですし、それ以外の活動でも、怒涛の勢いで夢を叶え続けている印象です。

ファイルーズ:
 本当に人に恵まれました。自分で言うのもなんですが、生い立ちのせいで人より辛い幼少期とかを過ごしてきたのもあって、「明日が来なきゃいいのにな……」と考えることもあったんですよ。
 そんな幼少期の私に、今の私の姿を見てほしいですね。

──やってきたことが報われたと伝えたいですよね。 

ファイルーズ:
 はい、勇気を出して行動すれば、必ず結果になるよって。結果にならなかったとしても、努力した過程は別の場所で絶対に活きてくるよ。って。

──そんな数々の経験を乗り越えてきた現在のファイルーズさんが、いま大切にしていることはなんですか?

ファイルーズ:
 「自分を愛すること」です。自分を愛していないと、他人にもきつく当たってしまう。鏡を見る度に、どんどん負のループに入ってしまう。昔の私がそうだったので、わかるんです。そして私は、もうあの頃には戻りたくない。
 でも自分を愛するって、簡単なようで難しいんですね。自分に対する理解も深めていかないといけないし。

──自分を愛するために、どんなことを心がけています?

ファイルーズ:
 小さなことからでいいので、自分が好きな人に対して、自分が持っているイメージに近づけるように努力することですね。そうすれば、自分の好きなところがだんだん増えていくじゃないですか。そういう風にひとつずつ、何かを積み重ねることです。

──養成所時代のお話を思い返しても、努力を積み重ねることで自信をつけてきたと仰ってましたよね。 

ファイルーズ:
 そのときもですし、筋トレもそうでしたね。
 筋肉っていきなりはつかないじゃないですか。でも、続けることで確実に変わっていく。
 昔も今も自分の体型を完璧だとは思っていないんですが、努力すると体型が変わることも、それだけ自分が努力できる人間なんだってことも、自分の体が証明してくれているんです。
 そういう、変えられる自分のことを愛しています。 

──まさに『ダンベル』の紗倉ひびきのような。 

ファイルーズ: 
 それからメイク。これも誰かのためにやるんじゃなくて、自分のためにメイクすることで、どんどん自分のことが好きになっていく。
 これは私が出させていただいた、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』のテーマでもありました。誰かのためのメイクじゃなくて、自分に気合いを入れるためのメイク。とても共感できて、大好きな作品でした。

 そうやって自分を愛していれば、他人から何を言われようが、「でも、自分は自分のことを好きだしな」って思えるんです。

「トロピカル〜ジュ!プリキュア」公式サイトより引用。

──筋トレとメイク。ファイルーズさんが仰ると、すごく説得力があります。 

ファイルーズ:
 「自分を愛する」という単語を反芻するようになったきっかけが、Netflixで配信している『ル・ポールのドラァグ・レース』っていう、アメリカのリアリティ番組なんです。
 ホストを務めるドラァグ・クイーンのル・ポールさんが、必ず番組の最後で「自分自信を愛せなければ、他の人も愛せない。OK?」みたいに締めるんですね。ルーさんはこの「自分を愛しなさい」というメッセージを、20年くらい前からずっと発してるんです。

 それを聞いたとき、私はお尻に肉がついてるとか、瞼の幅が右と左で違うとか、髪の毛がボサボサとか、そんなのどうでもいいんだなって思えたんです。
 不完全な自分ごと愛して、強くなって、ほかの人にも愛を与えることが人間なんだって思えるようになった。めちゃめちゃ感謝しています。
 ル・ポールさんは、いつかお会いしてみたい方ですね。

『ル・ポールのドラァグ・レース』NETFLIX公式サイトより引用。

死ぬまでに終わらないんじゃないかってくらい、夢がたくさんある

──最後にこれからの未来のお話も伺いたいです。今のファイルーズさんの目標はなんですか?

ファイルーズ:
 原作者になることです!

──わ、即答ですね。しかも意外なお答えです。

ファイルーズ:
 今、12年来のオタク友達と一緒にアイデアをまとめているんです。最初は軽い気持ちで始めたことだったんですけど、形になってきたら、これ、いいんじゃない? と。
 いつかちゃんと発表できたらいいなと思っています。

──夢がありますね! 3年前におっしゃっていた「忙しくなりたい」とか「徐倫を支える役をやりたい」両方叶えてしまわれたので、正直なところ、燃え尽き症候群のようになられているかもしれないと勝手に危惧していたんです。でもそんな想像は浅はかでした。

ファイルーズ:
 いやいや、燃え尽きなんて全然ないですね。常に目標がいっぱいあるんです。
 「原作者になりたい」以外にも、「個展を開きたい」とか、「アメリカに旅行したい」とか、死ぬまでに終わらないんじゃないかってくらい、夢がたくさんあるので、燃え尽きることはないと思います。

 もちろん、声優のお仕事はいちばん大事。
 それは当然で、徐倫はもちろん、演じさせていただく役のことはこれまでも、これからも、ずっと大切にします。その上で、声優としての枠に縛られず、常に新たな道を切り開いていきたいんです。 

──ファイルーズさんは表現者なんですね。

ファイルーズ:
 そうあれたらいいなと思います。いろんな作品、人との出会いで「ファイルーズあい」はできていると思っていて。
 影響与えてくれた全てのものに感謝しながら、自分もそうやって人に影響を与えるものを生み出し続けていく存在になりたいです。

──最後の最後のまで素敵なお言葉、ありがとうございます。……じゃあ、今日の取材はそんなところですかね?

ファイルーズ:
 そうですね……あ! やりたいこと、具体的にもう一個ありました! ファッションです。
 ファッションブックを作ったり、アパレルブランドができたらいいなとも思っているんです。柄は私がデザインしたりして……。着てくれる子たちの、心の「鎧」になれるような服を、送り出せたらいいですね。
 ああ〜、もう、やっぱり時間が足りない!!

 当たり前のことをいうようだが、声優さんの声はよく通る。実際に演技をする際には、声が部屋全体に反響し、体にビリビリと音が響いてくるような感覚になる。
 その反動からか、インタビュー時など普段の声優さんは、声のトーンを落として話されるかたが多いように思う。

 一方で、この日のファイルーズさんは、ハキハキと、背筋がピンと張ったような、よく通る声で終始お話しされていた。「声にパワーがある」というと陳腐に聞こえるかもしれないが、とにかく聞いているだけでパワーをもらえそうな声なのだ。
 そんなファイルーズさんが「自分を愛することが大切」だと言うと、なんだか私も自分を愛してみようかなと思わせる、そんな影響力のある声だった。

 このパワーはきっと、本インタビューで語られたような苦労と努力の果てに身に付けたものなのだと思う。改めて、ファイルーズさんがいま数々の作品で重要なキャラクターを演じていている理由がわかった気がした。
 これからも「声優・ファイルーズあい」は、きっと作品を通して多くの人々に勇気とパワーを与えてくれるはずだ。

ファイルーズあいさん直筆サインをプレゼント!

 インタビュー後、ファイルーズあいさんに直筆サインを書いていただきました。今回はこの直筆サインを1名様にプレゼントします!
 プレゼント企画の参加方法はニコニコニュースTwitterアカウント(@nico_nico_news)をフォロー&該当ツイートをRT。ご応募をお待ちしています。

ファイルーズあいさん撮りおろしフォトギャラリー

 インタビュー後、ファイルーズあいさんのフォト撮影を行いました。
 記事とあわせて、ぜひお楽しみください。