元テレ東の佐久間プロデューサーだけじゃない!退社するテレビマンが抱えるメディアへの本音 - 放送作家の徹夜は2日まで
※この記事は2021年05月03日にBLOGOSで公開されたものです
放送作家の深田憲作です。年度替わりのタイミングということで時事的なテーマでお送りします。
芸能界やテレビ界を取り巻く環境に大きな変化が起きています。オリエンタルラジオ、キングコング西野亮廣さん、極楽とんぼ加藤浩次さんが吉本を退所。佐藤健さん、神木隆之介さん、ONE OK ROCKが独立して新事務所を設立。
『メレンゲの気持ち』『とくダネ!』『噂の東京マガジン』といった長寿番組が終了。ハリセンボン近藤春菜さん、福澤朗さんが長らく出演してきた番組を卒業。渡辺直美さんが日本を離れてアメリカを拠点に活動、などなど。
「今、テレビに何が起きているのか?」
これに関する考察は多くのメディアで述べられているため、僕は放送作家という立場から「今、テレビマンに何が起きているのか?」について述べてみます。
元テレビ東京の佐久間プロデューサーがフリーになった本音
3月初旬、「佐久間Pがテレ東を退社」というニュースがYahoo!ニュースのトップを飾りました。佐久間Pとは『ゴッドタン』『あちこちオードリー ~春日の店あいてますよ?~』などを手掛け、『オールナイトニッポン0』でメインパーソナリティーを務めるなど、テレビ東京を代表する名物社員でした。
自身のラジオ内で「サラリーマンの退社がニュースになる⁉︎」と驚かれていましたが、まさに今という時代を象徴する出来事だなと思いました。
実は佐久間さんに限らず、この1年でテレビ局員が放送局を退社する流れは加速しています。この春、僕が知っているだけでも3人がテレビ局を退社しました。
テレビ制作を志す者なら誰しもが憧れるキー局の社員という地位を自ら捨てる。
この行為は普通に考えると「もったいない」と思ってしまいますが、事情を聞くと至極納得できます。佐久間さんはテレビ東京を退社する理由を「管理職になるよりもディレクターであり続けたい」と語っていましたが、これは多くのテレビ局員の本音だと思います。
テレビ局員は40歳を超えると管理職に就き、制作の現場からは離れざるを得ない状況になっていきます。テレビ番組が作りたくて入社して、まだその力が残っている自負があるにも関わらず、制作現場を退かなければいけない。これは耐え難い苦痛であり、人生の幸福度を大きく左右してしまう状況でしょう。
一昔前であればそれを受け入れるしかなかったのかもしれませんが、コンテンツ制作者として活躍できる場は近年劇的に増えました。YouTube、ABEMA、Amazon Prime Video、U-NEXTなど、規模の大小はあれどフリーの立場でもコンテンツ制作に携われる機会は増えています。
SNSで自ら営業をかけることも可能ですし、逆にSNSで企業から仕事のオファーを受けることもあります。そんな事情もあり、テレビ局員の退社も相次いでいるようです。
しかも、佐久間さんのように40歳を過ぎた世代だけでなく、現役バリバリの30代のテレビ局員の退社も増えています。さきほど話した、この春でテレビ局を退社した3人は全員が30代前半です。退社理由は全員が「もっと自由に自分のやりたいことをするため」。
これがどういうことかというと、テレビ局員とはいえ制作局で働き続けられる人はごくわずか。編成、営業といった他部署に異動となることもあり、制作に居続けることが出来たとしても番組のトップである総合演出になれるのはほんの一握り。総合演出になれたとしても上司からあれこれと口出しされてしまい、番組作りで自分の色を出すことが出来ないことも少なくありません。
20代の頃は1つのコーナーを任され、自分が編集した映像が全国に放送されるだけで嬉しかったのが、年齢を重ねるごとに「演出の決定権が自分にはない」ことに息苦しさを感じるようになります。
自分が望まない番組に配属され、最終的な意思決定が出来ない立場でディレクターとして過酷な労働をするくらいなら、テレビより小規模なメディアでもいいので自分が裁量権を持てて、自由に働ける場を求めるというのは自明の理と言えるかもしれません。
テレビとYouTube、ギャラが高いのはどっち?
テレビ局を辞める人たちに対して僕が気になるのはお金の部分。余計なお世話ですが「妻子持ちでフリーになってお金は大丈夫なの?」「テレビ局員って高収入だよね?それを失うのは怖くないの?」と聞いてみたところ「それほど収入は下がらない」との回答でした。「ディレクターは高望みしなければ仕事の需要はいくらでもあると思う」とのこと。
これを聞く限り、今後もテレビ局員が退社する流れは加速していくでしょう。芸能プロダクション同様、テレビ局にとっては長年にわたって育成してきた優秀な人材が次々と流出してしまうのは由々しき事態。副業を解禁するだけでは防げる問題ではない気がします。人材流出の対策についてテレビ局の上層部に聞いてみたいところです。
では、テレビ局員以外のテレビマンは現在どんな状況か?これは想像通りかと思いますが、フリーのディレクターや放送作家はテレビ以外の仕事に着々と触手を伸ばしています。先ほど述べた「裁量権」「自由」という部分ではテレビ以外のメディアの方がそれらを強く感じられるのは放送作家も同じです。ただし、金銭面に関していうとテレビには劣ります。
1つのコンテンツにかけられる制作費やギャラは様々なメディアの中でテレビが最も高いです。あくまで僕個人の見解ですが、ギャラの相場でいうと…地上波テレビ>BSテレビ>ABEMA>YouTubeといったイメージ。あくまで関わる番組によりますが。
改めてテレビというメディアの巨大さには恐れ入る思いです。視聴率1%の番組でも100万人近くの人に見られるわけですから、メディアの王様であることは変わりません。テレビ局を退社した元局員も「テレビはやっぱり凄い」「テレビは面白い」と話しています。
動画編集を覚える放送作家が増えた3つの理由
放送作家に最近起こっている小さな変化としては「編集を覚える放送作家が増えた」ということが挙げられます。僕もそのうちの1人です。これは人によって理由が異なるかもしれませんが、大きく3つあると思います。
1つは、放送作家という職業の需要減少を危惧したため。放送作家はテレビに潤沢なお金があったから生まれた職業だと個人的には思っています。
放送作家の主な役割である「企画を考える」「台本を書く」という2つの仕事はディレクターでも出来ることですし、実際にやっています。この2つにはテクニカルなスキルは必要ありません。パソコンさえあれば放送作家には誰でもなれてしまいます。
制作費が潤沢にあるから「企画を考える」「台本を書く」という2つに特化したスペシャリストである放送作家を1つの番組で5~6人も雇ってきましたが、今後制作費が減っていく中で放送作家にかけるコストが削られていくのは間違いないでしょう。そこで放送作家も編集を覚えることでディレクターのお手伝いが出来れば将来的に仕事がもらえるのではないかという目論みはあると思います。
そして2つ目は、YouTubeの仕事が増えたことが挙げられます。動画コンテンツを作るにあたって最も時間がかかるのが編集作業。ディレクター1人で週に2~3本の動画を編集するのは大変です。それでもテレビのようにディレクターを何人も雇うほどの資金的な余裕は人気チャンネルでない限りありません。
そこでチャンネルを担当する放送作家が編集も担うことが増えているわけです。放送作家の仕事を始めた時からYouTubeが存在した今の20代前半の放送作家は編集も出来て当たり前という空気があるようです。
そして3つ目。多くの放送作家にとってのコンプレックスが自分の作品と呼べるものがないということ。自分が発案した企画ですら、テレビではディレクターの作品となってしまいます。
ただ、放送作家としてそこに文句を言うつもりはありません。事実、テレビ番組の面白さはディレクターの力による部分が大きいと思います。
それを認めながらも、自分の作品が作りたいという忸怩たる思いを抱えながら生きてきたところ、時代の変化がやってきたわけです。
どういうことかというと、YouTubeなどの出現で作品を発信するハードルが下がってきた今、放送作家も自分で企画を考え、現場を演出して、それを編集した自分の作品を発信することが出来ます。
収益を生むかどうかは別として、どこかに企画を通さなくても自分がやりたい企画を具現化して発信することが出来るようになりました。実際にYouTubeでヒットチャンネルを作っているテレビマンが何人もいます。「あの企画、おれも思いついていたのに通らなかったんだよ」「テレビ局員じゃないとなかなか演出になれない」といった言い訳が出来ない時代になりました。
5年後には放送作家兼ディレクターという肩書も珍しくない気がします。それどころか放送作家兼ナレーター、放送作家兼デザイナー、放送作家兼MC、放送作家兼YouTuberといった人たちも増えてくるでしょう。
10年前までは放送作家がテレビ以外のジャンルの仕事をすると「あいつ何やってんの?」「テレビの仕事をちゃんとやれよ」「都落ちした奴ね」などとヒソヒソ言われていたのが、むしろジャンルを越境していることでの知識や経験がその人の価値を上げる材料となっています。
そう考えると今の自分と価値観の違う働き方に出くわしても皮肉は言わないようにした方が得策でしょうね。10年前に他人のことをヒソヒソ言っていた人は、過去の自分の発言を忘れたフリをしてYouTubeとかやっていると思います(笑)。
僕から見た最近のテレビマンはこのような感じですが、数年後にこの記事を見た時に自分で何を思うのか?「あ~、あの時はそういう時代の変わり目だったね~」「あそこから色々変わったよね~」などと言っているのでしょうか。今後、テレビ界やテレビマンがどうなっていくのか?時代の波に身をゆだねながら楽しんでいきたいと思います。
深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
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