※この記事は2020年04月17日にBLOGOSで公開されたものです

滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、入院患者の男性(当時72)の人工呼吸器を外して死亡させたとして、殺人罪で懲役12年が確定し服役した元看護師の女性(40)が再審請求を申し立て、大津地裁は今年3月、女性に対して無罪判決を言い渡した。判決は、滋賀県警による不当な捜査によって女性が自白した疑いなど、県警側の落ち度を指摘した。

この判決までの過程など今回の“冤罪”事案について、滝澤依子本部長に対し17日の定例会見で謝罪の方針などについて見解を示すよう、県警の記者クラブが事前通告したところ、一切の質問を受け付けないと回答したことを地元紙・京都新聞などが報じた。(『再審無罪の湖東病院患者死亡、滋賀県警が質問一切拒否 17日の本部長会見、記者クラブに通告』)

ネット上などで閉鎖的などと批判が上がる記者クラブ内部の出来事を盛り込み、真正面から取材対象の警察の姿勢に疑問を呈した内容で、「県警は記事を出されないと高をくくっていたのだろう」「罪を誰かに被せてしまえば一件落着なのだろうか」などと県警の姿勢を批判する声が高まっている。

無罪判決で裁判長は滋賀県警の不当捜査を指摘

報道によると、再審判決は、男性の死亡について事件性が証明されていない上、西山さんの自白も不当な捜査で引出された疑いなどその任意性を否定した。大西直樹裁判長は説諭で「警察、検察、弁護士、裁判官を含め全ての関係者が自分のこととして、(逮捕からの)15年を決して無駄にしてはならない」と述べたという。

今月2日の無罪確定により、広く社会に冤罪が証明された格好だが、これまでに県警は女性に謝罪せず、県警本部長も無罪判決などに関する見解を示していないという。

京都新聞によると、記者クラブの幹事社は女性への謝罪や、取り調べをした捜査員への恋愛感情を利用して“自白誘導”した捜査手法について、17日の定例会見で質問することを事前に通告。ところが、「会見では個別事案についてコメントしない」と断り、質問を変えるよう求め、防犯活動や交通安全などといった施策に限定するなどしたという。

定例会見は17日に予定されているものの、午後5時現在で、会見が予定通り行われたかどうかや、無罪判決に関する言及があったかなどは確認できていない。

「都合いいことだけ話すのか」 高まる滋賀県警批判

Twitter上では、一連の報道を受け、「捜査を担った滋賀県警は公の場できちんと答える義務がある」「記者会見は自分に都合のいいことだけを話す場ではありません」など批判の声が相次いだ。

弁護士やジャーナリストらからも、「滋賀県警のこの対応では、組織の中で高い志を持って仕事をしている人たちがあまりにもかわいそうだ」「ひどすぎる。取り調べした刑事を昇進させているし」などの指摘が上がっている。1999年に埼玉県で起きた桶川ストーカー殺人事件で、埼玉県警による不当捜査を暴いたジャーナリストの清水潔さんも次のようにツイートした。

一方、これまでの報道側の姿勢を問うツイートもあり、女性の逮捕時の記事を紹介しながら報道姿勢を疑問視するものもあった。

根強いマスコミ不信も記事は滋賀県警を真っ向から批判

記者クラブをめぐっては、主に官邸記者クラブでの質疑の実態や、フリーランスの記者の参加が難しい現状など様々な点から批判が上がり、“マスコミ不信”の一因ともなっている。

警察や官庁などとの距離間の近さから“仲良しクラブ”との揶揄もあり、「癒着しているから取材対象の都合の悪い記事が出ない」との指摘も根強いが、今回の報道はそうした指摘を真っ向から反する内容となっている。

スクープ記事を書くため取材対象に“好かれる”ことに執着し、取材対象に不都合なことを書くことをためらう記者もいるという。ツイッターではそうした記者を引き合いに「こういうときにいるんだよ。『うちは書きませんでしたよ?今度はネタお願いしますね』って奴。」とのツイートも見られた。

今回の県警の質問拒否については、17日午後5時現在、ネット上で確認できるだけで、共同通信(『滋賀県警、再審無罪の質問を拒否 本部長の会見、病院患者死亡巡り』)、毎日新聞(『湖東記念病院事件再審無罪 滋賀県警が質問拒否通告 17日定例記者会見』)が京都新聞と同種の内容を報じている。