※この記事は2020年04月10日にBLOGOSで公開されたものです

4月7日、新型コロナウイルス感染者の増加にともない、日本政府も7都府県に限ってだが、ようやく緊急事態宣言を発令した。

これに先立つこと1ヶ月、ニューヨーク州では3月7日に、ニューヨーク市では同12日にそれぞれ非常事態宣言が出ていた。ただし、これは行政が物流などをコントロールするためのもので、一般市民にはほとんど直接の影響が出ない法令だ。

市民の生活を制限するロックダウン(都市封鎖)がニューヨークで発令されたのは3月22日。以後、食料品店、薬局、銀行など「必須業務」と呼ばれる業種以外の店舗はすべて閉鎖されている。オフィスワーカーは自宅勤務だ。学校も閉鎖されているため、親が必須業務勤務者でない家庭では親子揃って24時間、いわば自宅に軟禁状態となっている。

以後、ニューヨーク市民がどのように自宅での生活を送っているかリポートする。

Zoomでパーティ ビデオ通話はカウンセリングなどにも普及

ロックダウンによって全米にくまなく普及したアプリが Zoom だ。複数人数によるミーティングやセミナー用であり、ロックダウンによるリモートワーク、学校閉鎖によるリモートスタディに存分に活用されている。

その Zoom の新たな使い道が、やはりロックダウンによって広まった「ズーム・パーティ」だ。

コロナ禍が最初に広まった中国、その後のヨーロッパではアパートのベランダにお酒や食事を持ち出し、近隣住人と会話しながらディナーを楽しむ風景がSNSによって流された。それはそれで楽しいが、親しい友人とは行えない。そこでズーム・パーティの流行となった。

「何飲んでるの?」「それ、美味しそう」の会話から始まることが多いが、実際のパーティと違い、同じものを飲んで食べることは出来ない。それでも日々の極度に緊張した生活に疲れ果てた人々は、親しい友人とのズーム・パーティを心から楽しんでいる。

ちなみに、セラピーやカウンセリングにも Zoom が使われ、テレ・ヘルスと呼ばれている。

布マスク作りがアメリカでも流行?

アメリカには一般人がマスクを着ける習慣がなかった。そのためコロナ感染が始まった後も医療従事者以外がマスクを着けることは稀だった。アジア系アメリカ人には祖国での習慣から着ける人も見られたが、「コロナを持ち込んだ」としてヘイトの対象になることがあった。2月の段階で、ニューヨークの地下鉄駅でマスクを着けた若いアジア系の女性が行きずりの男に殴られる事件が起きている。

だが、WHO(世界保険機関)がマスク着用を勧め、ついにアメリカ連邦政府も国民にマスク着用を推奨する事態となった(もっとも、トランプ自身は会見の場で「自分は着けないと思うが」と発言)。続いてニューヨーク市行政も市民に着用を強く勧める声明を発した。

ただし医療現場ではマスクが圧倒的に不足し、医師や看護師の命にかかわる事態となっている。そこで行政は一般市民は医療用マスクは使わないこと、マスクがなければハンカチやバンダナでも構わないとした。

これにより始まったのが手作りマスクのブームだ。裁縫や手芸に心得のある人たちがカラフルな布で作り、ネット・ショップで販売している。

多くの小売業種の売り上げが激減している中、裁縫/手芸用品のオンラインショップは起死回生のチャンスと、マスク材料だけでなく、その他の手芸用品、クラフト用品の販売にも注力している。

SNSに続々投稿 パン作りで気分転換する人が増加

パン作りがブームとなっている。SNSには自家製のパン、クッキー、ケーキの写真がどんどんアップされている。

そもそもはロックダウンが始まった時、食品の供給が滞ってパンが手に入らなくなることを心配し、長期保存できるパスタ、まさかの時には自分でパンを焼くための小麦粉が売れた。

しばらくすると、スーパーマーケットは店内に入れる客数を制限するために長蛇の列となるものの、食材は比較的安定して供給されることがわかった。同時にロックダウンが長引き、フラストレーションを溜める人が増えた。そこで気晴らしのためのホーム・ベーキングが始まったのだった。一日中、家にいる子供が寝静まった夜に焼く人もいるという。

ヘアサロンもクローズ 伸びてくる髪は自分でカット

スポーツジムと同じく、理容店、ヘアサロン、ネイルサロン、タトゥ・パーラーも濃厚接触の場であることから3月16日の段階でクローズとなった。それから3週間以上が経つ。ネイル、タトゥは我慢できても伸びてくる髪はなんとかしたい。

そこで登場したのが、自宅で髪をカットする方法を伝授する記事やYouTubeビデオだ。黒人女性の髪をブレイズ(細かい三つ編み)にする方法が学べるサイトも登場した。こちらは5ドルの課金があり、ビジネスとして成り立っている模様だ。

髪の手入れは「しなくてはならないこと」ではあるが、時間のある今、気晴らしのアクティヴィティともなっている。「どんな色に染めてもOK、どうせ誰にも会えないから」とするサイトもあった。

ヘアサロンが閉鎖されたため、セルフカットも気晴らしのひとつに

ネトフリだけじゃない 新型ストリーミング・サービスに注目集まる

新たなストリーミング・アプリ「Quibi(クイビー)」が4月6日に始動した。

ドラマやバラエティ番組などすべて1エピソード10分未満、かつモバイル専用のストリーミング・サービスだ。Netflixが連続ドラマの全エピソードを一挙に公開し、それをひたすら見続ける binge(ビンジ)と呼ばれる現象を巻き起こしたが、全く逆の発想と言える。

好スタートを切ったQuibi

4月始動はコロナ禍以前から予定されていた日程だが、奇しくもロックダウン中となった。そのためか否かは判断できないが、初日に30万のアプリ・ダウンロードが行われた。

こうした娯楽のためだけでなく、リモートワーク、リモートスタディ、コロナ関連ニュースの視聴、実店舗クローズによるインターネット・ショッピングなど、インターネット・アクセスが爆発的に増えている。そのためYouTubeは全世界で画質を下げている。ネットフリックス、アップル、アマゾン、フェイスブックは現在のところ、ヨーロッパでのみ画質を下げていると報じられている。

運動不足解消に自宅でエクササイズ  オンラインのクラスが人気に

州知事、市長ともに、心身の健康維持のための適度な運動を市民に勧めており、散歩やジョギングは可とされている。ただし感染予防のために「他者との距離6フィート(180cm)」の徹底を繰り返している。

ニューヨークはあちこちの公園にバスケットボールのフープがあるが、対戦相手との身体接触を避けられないスポーツにつき、禁止令が出されている。

スポーツジムは濃厚接触の場としてロックダウンの一週間前にすでに閉鎖となっていた。閉鎖発表と共に自宅用のフィットネス・バイク(室内自転車)の売り上げが急増した。中でもPELOTON社の製品が人気を博した。理由はインストラクターとモバイルで繋がりながらエクササイズできる「ライヴ・ビデオ・クラス」だった。

オンラインクラスが人気となったPELOTON

ところが同社の従業員が新型コロナウイルスに感染。同社はいったんクラスを閉鎖したものの、すぐに再開すると告知。すると「人気インストラクターを感染させたくない」という抗議の声が多数上がり、同社は4月いっぱいの閉鎖を余儀なくされた。コロナ禍の自宅待機は健康管理すら決して容易ではないことを思い知らされた件だ。

先日、ニューヨーク州知事はロックダウンを4月29日まで延長すると発表した。皆、うんざりはしても、驚きはしなかった。日々伝わるコロナ禍の凄まじさを思えば、5月からかつての生活に戻れるとさえ思えないのだ。

4月8日現在、ニューヨーク市内だけで死者はすでに4,500人を超えている。救急車のサイレンはひっきりなしに聞こえる。とてもではないが、まともではいられない。だからこそ、自宅での生活をなんとしてでも「エンジョイ」し、正気を保たねばならないのだ。