【赤木智弘の眼光紙背】業務を増やすのであれば、十分な待遇を - 赤木智弘
※この記事は2009年12月24日にBLOGOSで公開されたものです
セブン-イレブン・ジャパンが、店内のマルチコピー機を利用した住民票の写しと印鑑証明を発行できるサービスを2月から順次開始するという。(*1)平日の昼間に役所になかなか行けない人は多く、そうした人たちにとっては単純に「これで便利になる」という感想を持つのだろうが、元コンビニ店員としては「店員レベルで責任をとりようの無い仕事を一方的に増やすな!」と文句をしっかり表明しておく必要があるだろう。
公共料金の払い込みや郵便物や宅急便の取り扱い、イベントチケット発券に銀行ATM。そして今回の住民票と、コンビニで扱う商品は増える一方である。
もちろん、そうしたシステムが全て何の問題もなくお客さんが思う通りに動作してくれるのなら構わない。しかし、トラブルの起きないシステムなどありえないし、システムが正常に動いてたとしても、お客さんが勘違いしている事もある。
そうした時に、マニュアル通りに全てを「先方にお問い合わせください」で済ますことができればいいのだが、トラブルに直面したお客さんは、たいてい焦ったり怒ったりしており、それを放置するわけにも行かず、結局はそこにいる店員がロクな知識も権限も与えられないままに、うまいこと対処しなければならない。
払い込みであれば、額も数千円の事が多く、払い込むその場でトラブルになることは少ない。たまに料金未払いで携帯電話を止められたお客様が「振り込んですぐ使えるようにならない」と言ってくることがあるが、その程度である。
ATMは利用金額が多く、ATM自体は24時間動いているとしても実際は銀行によって取り扱いの時間が異なるなど複雑で、トラブルの元になりがちではあるが、ATMに設置されている受話器で連絡をとってもらえれば、最終的には解決できるという安心感がある。
では、役所はどうなのだろうか?
金額は少ないが、住民票や印鑑証明はかなり重要な個人情報である。トラブルに対しては慎重な対応が求められる。
ニュース記事には「利用時間は午前6時半から午後11時まで」なる記述があるが、その時間内になにか問題が発生した時に、ちゃんとしたサポートが受けられる体制を整備できているのだろうか?
確かに、こうした業務をコンビニで行おうとする気持ちは理解できる。
今でも住民票や印鑑証明の自動交付機は役所に置いてあるが、それを24時間誰にも使えるようにするには、役所のロビーの一部を24時間開放できるように改築する必要がある。
さらに、より広範囲の人に利用してもらおうとすれば、出張所などにも自動交付機を置かなければならず、費用も馬鹿にならない。
ならば、コンビニにあらかじめ存在するネットワークとマルチコピー機を利用すれば、広範囲の住民に24時間、費用をかけずに利用してもらうことができる。それはその通りである。
しかし、その中で働いている店員は、コンビニの付属物として「便利に一方的に利用していい人間」ではない。業務が増えるのであれば、当然、業務に対する十分な説明と、業務に対するサポートなどのハッキリとしたバックアップ。そして業務の多様さに報いることができるだけの、十分な待遇を与えるべきなのである。
今のコンビニ業界には、そうした真摯な姿勢がまったく足りない。私はそう実感している。
*1:証明書:コンビニで住民票など交付 セブン-イレブン、5月から全国で(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091222ddm001040012000c.html
*2:【赤木智弘の眼光紙背】やりがいの搾取(livedoorニュース)http://news.livedoor.com/article/detail/4455927/
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。