44歳、発達障害でも働き続ける「6つのコツ」。転職を繰り返しても安定できた
発達障害「ADHD」。その中でも、多動性が目立たず不注意が優勢の「ADD」は「静かに混乱する」ゆえに、見逃されがちな側面もあるといいます。そんなADDの診断を受け、子育てをしながらフリーランスのライター・編集者として活動するちはるさんに、1日1日を乗りきるための「仕事のコツ」を伺いました。
発達障害「ADD」とは?38歳で診断を受けるまで
注意欠如・多動症(ADHD)は、「年齢あるいは発達に不相応に、不注意、落ちつきのなさ、衝動性などの問題が、生活や学業に悪影響を及ぼしており、その状態が6ヵ月以上持続していること」と定義されています。(出典:国立精神・神経医療研究センター)
ADDは、ADHDの中でも多動性が目立たたず、「不注意優勢型」に分類されています。
●不注意や不器用さが目立ち、発達障害を疑った子ども時代
44歳、小学1年生の子どもを持つ編集ライターのちはるさん。会社員の夫と3人暮らしで、在宅で編集およびライターの仕事を請け負っています。ADD(注意欠陥障害)の治療のため、3か月に1度、心療内科に通院をしているそうです。
「自分が“少し周りと違っている”と思い始めたのは、小学校5年生くらいからです。部屋が汚い、忘れ物が多い、習字をすると墨だらけになる、整理整頓ができない、プリントのファイルが破れてぐちゃぐちゃになる…。困っていることは無数にありましたが、いちばん問題なのは、“充分に反省して、治したいと意識しても治らない”ことでした」とちはるさん。
成人して、不注意が大事故につながり、大ケガをして手術をすることになり、ADHD・ADDを疑い始めたそうです。
とはいえ当時はADHD・ADDを専門とする病院も少なく、電話をしてみたものの「診察にいたるまで年単位で待つ」と言われたことも。
「本当に困ったら病院に行こう」と、「ADHD・ADD」という言葉を最後の切り札のように頭の片隅に入れつつ時が経ち、実際に診断と投薬を受けるのは、産後鬱になった38歳のときです。
44歳、「ADD」とつき合いながら働き続けるコツ
ちはるさんが長年仕事をする中で実感した、「ADD」とつき合いながら無理をせずに働くための6つのコツをご紹介します。
●コツ1:苦手なことと得意なことを把握する
ちはるさんはIT企業で派遣社員として約15年。その後、フリーランスのライターとして8年働いています。
最初の7年は不注意や不器用さ、メンタルの弱さなどの影響で職場を転々としていましたが、30歳前後にウェブの編集やライティングの仕事につき、8年は同じ会社で働いていました。
「社会人生活を送るうちに、自分が“できない”業務の把握できてきたので、あらかじめ避けることができました。膨大な求人情報の中から、まず消去法で“絶対できない”業務を除外し、残った中から得意分野に近い職種を割り出すと効率的です」
じつは、8年続いた職場は、派遣会社から紹介を受けて2回落ちているそうです。
「とはいえ、直感で“合う”気がしたので、別の部署の求人で再度受験して、3回目まで食い下がりようやく採用されました。その際に、当初は正社員になれる紹介予定派遣や契約社員希望でしたが、派遣社員の求人にきり替えました。結果、その職場で8年働き、今でもフリーランスで仕事をもらっているので、“居心地の良い場所”を確保するためには、条件を見直すこともアリだなと実感しました」
ちはるさんは得意なこと、苦手なことを紙に書き出した上で、転職先を紹介してくれる担当者に率直に伝えると、スムーズに事が運んだそうです。
「最近では、発達障害者の就労支援などもあるので、利用してみるのも手だと思います」
●コツ2:“どんなことでもメモすること”
ちはるさんの場合、まず大きな問題として、“短期記憶が弱い”という特徴があるとのこと。
「人が言っていることを、言っているそばから忘れていく。ひどいときには、『あ、忘れる忘れる』と意識しているうちに、脳内で溶けていくことすらあります」
そのためちはるさんが取った対策としては、“慣れるまでどんなに汚い字でもいいので、メモすること”。
「自分の記憶力をゼロと思って、レクチャーされたことは重要なこともどうでもいいことも、箇条書きでメモします。レクチャーのあと、一息ついたら、自分の書いたメモをもう一度ワードに打ち直します。既存のマニュアルがある場合には、無駄な二度手間に思われますが、自分で打ち直して「長期記憶」にねじ込むことが大事でした」
できた「マニュアルのようなもの」をその都度更新したり、プリントアウトすることで、「繰り返し脳に働きかける」ことがポイントです。
●コツ3:「できる人」に外注する代わりに対価も払う
どれだけ対策をしても欠けていることすべては埋まらないので、やはり「人に頼る」ことも大切です。
「私の場合は、派遣社員時代は、ウェブサイトの更新や素材づくり、ライティングなどの業務に携わっていたので、“ディレクター”と呼ばれる進捗管理をする担当者がいました。そういった役割の方にあらかじめ、“うっかりしやすい”“抜けている”ことを使えて、社内メッセンジャーで締め切りなどのアラートを送ってもらいました」
日によっては、17時に業務終了で、お昼すぎまで気分がのらずだらだらしていて、15時頃に「終わりそう?」とアラートを受けて、過集中モードで仕事をこなすことも。
「もちろん、頼ってばかりではいけないので、お菓子を配ったり、得意分野の仕事を請け負ったり、なにかトラブルがあったときに土日対応も快くするなど、お礼をすることも心がけました」
●コツ4:転職したくなったときに踏みとどまる方法
そうして整えた職場環境でも、仕事がつらくなったり、転職したくなったら…?
「基本的には、“うつ状態に陥るよりは仕事を辞めたほうがいい”とも思っています」とちはるさん。
「それでも仕事を続けるコツは、休むこと、気晴らしをすること、悩み相談できるメンターを持つことです」
ちはるさんは、うつ状態でなくとも定期的に通える心療内科をキープ。行きつけの美容院感覚で、マイ心療内科、マイカウンセラーを見つけておけば「風邪程度の不調」で飛び込み、メンテナンスができるといいます。
「友人に話すのもアリですが、『いつも愚痴ばかり』と関係が壊れるとお互いのストレスになるので、有料のサービスを使っています」
仕事のストレスでうつ状態になりそうだと感じたら、「体調不良で休みます」と休みをとって、カウンセラーに相談。
「頭を整理してガス抜きした上で、『あと3か月だけがんばろう』と短めにゴールを設定。繰り返すうちに“慣れ親しんだ環境”になり、結果的に8年間続きました」
●コツ5:ADDにおすすめのアプリやツール
ちはるさんが働き続ける際に、とても役立っているというアプリやツールも教えてもらいました。
・NAGON
国家資格・公認心理師の心理カウンセリングをスマートフォンアプリで予約でき、自宅で動画カウンセリングを受けられる『NAGON』というアプリを愛用しています。
コロナ禍でオンラインカウンセリングサービスが増えているので、お気に入りを見つけてキープしておくと便利です。
・Google ToDoリスト
スケジュール管理も、最近は便利なアプリが多くリリースされており、忘れっぽい性質をカバーしてくれます。
Google ToDoリストは手書きのメモ並にシンプルで使いやすく、GoogleカレンダーやGmailと連携させることで、メモを確認するだけでなくダメ押しでアラートを出すこともできます。
●コツ6:ADHD・ADD特性を生かした得意分野を見つける
働くことが大変そうなちはるさん。でも働き続けることで経済的にも安定し、自分の自信にもつながります。同じようにADHD・ADD特性をもちながら働くコツとは?
「ADHD・ADDは一般的に“得意なことはとことん突き詰められるタイプが多い”と言われているので、得意分野はどんどんアピールして損はないです」とちはるさん。
「資格をとったり、公募、コンテスト、コンペなどに積極的に応募して、履歴書に書くことができる受賞歴を増やすことも、ハマると楽しいのでおすすめです。資格や受賞歴は、就職に有利なだけでなく、低くなりがちな自己肯定感を支える軸になってくれます」
自分の特性を知り、働きやすい環境を整えていくことで、働くことが楽しくなり、もっと楽しい毎日につながります。ちはるさんの働くコツ、ぜひ参考にしてみてください。