バブル期のダイヤは二束三文でしか売れない…実物資産となる「ダイヤモンド・ルース」の見分け方
※本稿は、川端敬子著・鹿子木健監修『資産防衛のための ダイヤモンド投資』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■コロナ禍のなかで広がるインフレ懸念
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が世界的に広がり、多くの国でパンデミックが発生するようになって、米国では大粒のダイヤモンドが売れに売れています。米国だけでなく、中国や欧州でも、ダイヤモンド購入額の増加が加速しています。
しかし日本に住んでいると、世界的にダイヤモンドが売れているというニュースはほとんど流れてきません。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、2020年の政府や企業、家計を合わせた世界の債務残高が過去最高の226兆ドル(約2京5700兆円。京は兆の1万倍)に達したそうです。新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化を受け、各国が実施した財政支出などで通貨発行残高が急激に膨張したことがわかります。
新型コロナウイルス感染症による景気悪化を受け、各国が競うように行った財政出動による「カネ余り」が、インフレを引き起こしています。インフレになれば実物資産が買われる傾向があります。金が買われ、不動産が買われ、車も家も買われます。
その中で、世界的には、良質のダイヤモンドも買われているのです。
■なぜか認知されていない「ダイヤモンド投資」
日本においても、株式投資、投資信託、不動産投資などの一般的な投資、そして、富裕層のアンティークコインや絵画などへの投資、スーパーカーや航空機への投資、最近では暗号資産への投資など、様々な投資が知られています。
しかし、「ダイヤモンド投資」はほとんど認知されていません。なぜなのでしょうか? そこには明確な理由が存在します。そして、この理由を考えるときに、資産防衛とは何なのかを私たちは知ることになると考えています。
■バブル時代に買ったダイヤモンドが二束三文でしか売れないわけ
日本では、ダイヤモンドは「消費物」でした。
日本で最もダイヤモンドが消費されていたのは、バブル全盛期(1980年代後半〜1990年代前半)です。主な購入層としては、団塊の世代から1960年代生まれまでが目立っていました。なぜそれがわかるかというと、売却のために持ち込まれるジュエリーの量が、他の世代とは比較にならないほど多く、購入時期もバブル期のものが多数を占めるからです。
バブル時代に購入されていたダイヤモンドは、高級品ではありましたが、上級品ではありませんでした。資産価値としては大いに疑問のある、単に豪華できらびやかな、所有欲を満足させるような代物が多く出回っていました。
私も、バブル時代に購入されたダイヤモンドの買取をよく依頼されるのですが、残念ながら、購入価格の数分の1程度、もしくは10分の1以下の価格提示しかできない場合も少なくありません。上級品ではなく、派手で高そうに見える高級品は、資産価値がないというのが理由です。ランクが下のダイヤモンドを、高い値段で買わされていたということです。
■全世界共通の「相場」がある
デザインが好みだったり、知名度の高い店で買ったものだったり、また、有名なブランドのものなど、本人が満足している消費であれば問題ないのですが、投資となると話は別です。投資では資産価値があるかないかですべてが決まります。ダイヤモンドは消費物にもなり得るし、投資対象にもなり得るということです。
宝石や貴金属の中でも価値がはっきりと見えるものが、金、プラチナ、ダイヤモンドでしょう。金やプラチナは価値がはっきりとわかるというのは、すぐに理解できると思います。金価格は変動相場ではありますが、マーケットが全世界共通であり、外国為替相場の変動によって国によりいくらか価格が違うことはあっても、大きな乖離(かいり)があるわけではない、というのは周知の事実です。プラチナも金と同様です。
そして、相場が全世界共通なのは、ダイヤモンドの世界にも当てはまります。日本ではあまり知られていませんが、ダイヤモンドにも全世界共通の相場があり、そこではダイヤモンドに一定の価値をはっきりと見出すことが可能です。購入先、売却先も世界中にあり、おそらく一般的な日本人が想像している以上に市場の門戸が広いです。
■資産として評価されるダイヤモンドは「裸石」である
資産としてのダイヤモンドは、「ダイヤモンド・ルース」に絞られます。「ルース」とは日本語で「裸石」のことです。
裸石は、原石とは違います。地中から掘り出されたままの石が「原石」です。その原石にカットや研磨などの加工を施して、美しい光を放つ状態にした石が「裸石」、つまり「ルース」です。指輪などの宝飾品は、金やプラチナなどの地金で枠を作り、そこにルースをはめ込んでできあがります。
ルースという言葉は、ダイヤモンドに限らず、他のどんな石にでも使います。ルビーやエメラルドなどの色石も、同じ状態のものは「ルース」と呼びます。一般的に販売されている指輪などのジュエリーにはめられたダイヤモンドは、ルースではありません。もちろん、「実物資産」としてのダイヤモンド・ルースをジュエリーに加工することは可能です。
ダイヤモンドは、工業用、アクセサリークオリティ、ジュエリークオリティ、そして資産用レベルの「ジェムクオリティ」と、ランク分けされています。天然石の分類としては同じ「ダイヤモンド」ですが、GIA(米国宝石学会)が開発したダイヤモンドの評価基準である4C(カラット=重さ、カット、カラー=色、クラリティ=透明度、の判定)がつくレベルとつかないレベルに分けられ、そして、4Cのつく中でも希少なものが「資産用ダイヤモンド」となるのです(詳細は『資産防衛のための ダイヤモンド投資』の第5章を参照してください)。
■「投資」と「資産防衛」の違いとは何か
ダイヤモンド投資は、投資でもありますが、資産防衛としての性格が強いと言えます。では、「投資」と「資産防衛」の違いとは、何でしょうか?
投資の最大の目的は、お金を増やすことです。お金を増やすためには、価値増殖、つまり「利回り」が必要です。利回りがあることで、元本プラスアルファの価値となり、収益を得ることが可能になります。
それに対して、資産防衛の目的は、お金を守ることです。お金を守るためには、投資と同じように価値増殖が必要です。そうでないなら、お金を守ることにはなりません。
資本主義経済である限り、時間の経過とともに経済が成長し、規模を拡大するような仕組みにならざるを得ません。成長しなければ、その経済の構成員が資本主義の恩恵を享受できないようになっているからです。経済全体が成長している中で、資産が増えなければ、実際には相対的に目減りをしていることになります。価値増殖できなければ、資産防衛にはならないということです。
そして資産防衛には、投資以上のハードルが課されます。それは、価値増殖と同時に、減らしてはならないからです。
■銀行預金の利子はインフレ率に追いつけない
増やさなければならない。同時に減らしてはならない。これがいかに難しいことか。ただ増やすことを競うだけなら、多少リスクが高くても高利回りの新興国ファンドを買ったり、企業の将来の成長性に賭けたエンジェル投資をしたり、暗号資産投資をしたりと、投機的になればいい。しかし、ただ増やすだけでなく、より安全に増やすという条件が課されると、難易度が上がります。
かつては、資産を守るためには銀行の定期預金で十分だという時代もありましたが、今は銀行預金の資産棄損リスクが高まっています。銀行に預けておけば、元本は減りません。しかし、経済成長に追い付けないので、物価上昇(インフレ)に負けることになります。投資でも資産防衛でも、元本を基準に考えてはいけないのです。もちろん、投資収支が赤字では資産を守れていることにはなりませんが、インフレ率よりも低い利回りでも、資産を守れていることになりません。
■分散投資の選択肢の一つに
ダイヤモンド投資は、すぐには儲かりません。買って半年や1年で大儲けできるものではありません。また、不動産のように賃料収入はありません。
しかし、ランクの高いダイヤモンドは、価値の下落がほとんどありません。大きな損失の可能性が極めて低い。それがダイヤモンド投資の特徴です。ダイヤモンド「投資」とは書いていますが、儲けるためではなく、資産防衛のためのものなのです。
もし、ちょこちょこと儲けたいなら、別の投資が必要です。分散投資の一つとして、ダイヤモンド投資も組み入れればいいのです。ダイヤモンドか、株か、どちらが優れているか、ということではありません。
多くの富裕層は不動産を当然のように保有しています。配分先として、金融資産だけでなく実物資産も必要だと考える。実物資産でも、不動産だけではなく、金だけでもなく、ダイヤモンドも選択肢に入れていく、という考え方が求められていると思います。
----------
川端 敬子(かわばた・けいこ)
ダイヤモンドコンサルタント
株式会社デュナミス代表取締役。台湾の東海大学に留学し、台湾・香港・中国大陸など中華圏の人々と交流したことで、日本人には馴染みの薄い「ダイヤモンドによる資産防衛」について学ぶ。同大学で中国語を習得後、中華圏での貿易業務に就く。ダイヤモンドをメインに取り扱いつつ、日本と中華圏の懸け橋となるコンサルタント業務も行っている。台日友好交流協会常務理事。
----------
(ダイヤモンドコンサルタント 川端 敬子)