「ウクライナ危機」が続くなど、市場には不透明感が充満している。にもかかわらず、株価は当面上昇する可能性が出てきたのかもしれない(写真:ブルームバーグ)

「ウクライナ情勢」「アメリカの金融引き締め」、そして「オミクロン株」。株式市場はこの3大リスクを織り込みにかかり、代表的な指標である日経平均株価は、3月9日に2万5000円を割れたことで、いったん底を打った。

だが、ウクライナはさらなる激戦も懸念されている。また、アメリカの金融引き締めについては「FOMC(連邦公開市場委員会)ごとに利上げが0.5%になりそうだ」というのがメインシナリオとなり、さらに資産縮小のペースも速まっている。オミクロン株は現在主力のBA.2型よりも感染力が強いといわれるXE型が登場して、ますます不透明感を増している。

日経平均は「2万5000円台再突入」を免れた可能性

あらためて3月9日以降の相場を振り替えると、日経平均はいったん悪環境を織り込んだと思われたものの、実際は上記の3つのリスクがなかなか好転しなかった。

市場はそれを再度織り込む形となり、4月12日には、当面の押し目の限界と思われていた25日移動平均線を割り込んだことで、損切りの動きが加速。同日は2万6334円まで下落した。

当初は2万6000円割れや、一番底と見られる2万5000円割れを予想する投資家は多くはなかった。だが、同日発表予定のアメリカ3月CPI(消費者物価指数)の発表を控えて下値が見えない状態となり、一時はかなり悲観的な見方が増えた。

しかし、発表されたCPIのうち、エネルギーと食料品を除いたコアCPIは前年比で+6.5%と、予想を下回った。また前月からの伸びも+0.3%と、2月の+0.5%を下回った。このため、アメリカにおいて過度なインフレ懸念が薄れた。

また、日本の3月マネーストックM3(現金、銀行などの預金)の月中平均残高が前年同月比3.1%増の1536兆2000億円と、過去最高を更新した。

こうしたことが重なり、日経平均は13日に前日比508円高、14日も同328円高の連続反発となり、ようやく、3月9日に続いて二番底をつけたと思える展開になった。二番底確認となれば、2万5000円割れの一番底、2万6300円台の二番底と、下値切り上げの形のよい反転型になる。

よい流れが継続するには?

もちろん、そのためには3月25日の高値2万8149円を抜いて初めて、二番底が成立するといえるわけだ。15日現在の日経平均は2万7093円なので、その高値までは約1000円程度であり、さほど難しいことではない。

強気の思惑が台頭したのか、先週末15日の日経平均は、アメリカのナスダック市場の下落を受け、朝方は前日比387円安まであった。だが、10時過ぎには一時プラス圏に浮上した。

結局のところ、引けは同78円安の2万7093円だったが、25日移動平均線をわずかながら上回った。この日はアメリカ市場が休場ということで閑散・低調な相場だったとはいえ、25日移動平均のレベルを維持したことで投資家に好印象を与えた。しかも19日には、この25日移動平均線と75日移動平均線がゴールデンクロスを形成し、チャートの形は一気によくなるのだ。

さて、このあとの5月の株高を支援するのは、やはり企業業績だ。当初、日本企業については「2022年度も2桁増益」とかなり期待されていたが、最近のウクライナ情勢からくる資材高や中国の低迷で、1桁台後半(5%〜10%)に下がったといわれる。

仮に、日経平均の最新の予想EPS(1株当たり純利益)である約2080円(11〜15日の平均値)にそのまま5%〜10%増の「ゾーン」を当てはめて計算すると、増益後の日経平均予想EPSは2184円(5%)〜2288円(10%)となる。

同じく、先週1週間の予想PER(株価収益率)の平均値約12.9倍をかけて計算してみると、日経平均は2万8174〜2万9515円程度となり、決算発表後の5月相場は十分高値を取れる態勢だ。

日本市場に大きな影響を与えるアメリカの情勢はどうか。休場だったアメリカの週末15日に出た4月のNY連銀製造業景況指数は24.6だった。これは3月の−11.8を大きく上回った。また3月鉱工業生産も前月比+0.9%と、3カ月連続の上昇だった。設備稼働率も78.3%と、2月の77.7%を上回り、実に3年ぶりの高水準だ。

こうした高い数値は金融引き締め強化につながる可能性はあるものの、18日以降佳境に入るアメリカ企業の決算は今のところ悪くない。

さて、今週はどんな材料があるか。まず18日の材料では、午前11時に中国の経済指標がどっと出る。3月の鉱工業生産については、1〜2月分が前年同期比7.5%増と2021年6月以来の高い伸びだったこともあり、今回はさすがにスローダウンすると思われる。

また、3月の小売売上高もあまり期待できない。1〜2月は前年同期比6.7%増と予想を大きく上回り、やはり2021年6月以来の高い伸びを示していた。だが、春節連休に消費需要が高まった2月に比べると、3月は上海のロックダウンなどの影響でどれだけ落ち込んだのか不透明だ。

同国の1〜3月期GDP(国内総生産)はどう出るか。2021年10〜12月については前年同期比4.0%増と、2021年7〜9月の4.9%増から減速し、2020年4〜6月(3.1%)以来の低さとなった。日本株に影響を及ぼす可能性があるので、注意が必要だ。

需給は好転、あとは日米の決算を見極め

実は18日はアメリカの納税期限だ。昨年1年間の所得に対して、納税は2022年2月中旬から4月中旬の間にインターネットで申告し、納税も同様に済ますというのがアメリカでは一般的だ。

だが、周知のとおり、ジョー・バイデン大統領の2023年度予算教書には富裕層のキャピタルゲイン増税案が盛り込まれていた。もし、富裕層が増税前の益出し売りをしていたとしたら、18日をもって納税期限が過ぎることになり、関連する売りもひとまず峠を越えることになりそうだ。

富裕層がこれまでどれだけ売って、どれだけ相場に影響していたかは定かでない。だが、ざっくり考えても、需給が好転することは間違いないと思われる。その意味で、18日はこれらのマーケットの材料がぶつかる興味深い1日となりそうだ。

さらに今週は、IMF(国際通貨基金)の最新の世界経済見通しが出る。また、20日にはG20財務大臣・中央銀行総裁会議もある。主な企業決算も、バンク・オブ・アメリカ、IBM、ネットフリックス、テスラ、P&G、AT&Tなど、そうそうたるアメリカのメンバーに交じって、日本では21日に日本電産の決算発表がある。

役者はそろった。5月相場を決める1週間を期待して楽しみたい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)