女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でもあるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第12回は、現在50代の川上さんが経験してきた「引っ越し」について。新生活をスタートさせた方も多いこの時季、川上さんもまた引っ越しする予定のようで…。

50代・川上麻衣子さんが12回の引っ越し経験で得たもの
<川上麻衣子の猫とフィーカ>

18歳でひとり暮らしを始めた私は現在までになんと、12回ほど引っ越しを繰り返してきました。もう自他ともに認める完全なる「引越し魔」。そして「引越し貧乏」でもあります。

今までずっと賃貸暮らしで自分の家をもちたいとはあまり思いません。

●気ままな仮住まいも心地いい。でもいつかは…

一度だけ20代の頃に将来を考え、そろそろ落ち着かなければと、分譲マンションを見に行ったことがありますが、時代はバブル突入で、とんでもなく高額だったため、頭金を準備できないことを理由に諦めてしまいました。

これまでに払い続けてきた家賃を考えれば、買っておくべきだったと助言してくれる人もいますが、今のところはまだ気ままな仮住まいが心地よいのが正直なところです。

分譲か賃貸かは、いつも話題に上りますが、働き盛りの50代を終えた頃に、落ち着く場所を探したいと考えたりもします。自然豊かな場所で、ゆったりと暮らしたい、そんなあこがれはあるのですが、果たしていつのことになるやら…。

マンション内に徒歩圏内。近距離引っ越しをするわけ

 

なにしろわたくし現在引っ越し作業のど真ん中なのです。今回はちょっといつもの引っ越しとは違い住居ではなく、6年目を迎えた谷中で営業中のSWEDEN GRACEの店舗と、猫譲渡会などを行っている、谷中サロン「まいの間」を1か所にまとめるための引っ越しとなります。今後は1階が店舗で2階がサロンとなります。

移転も同じ谷根千エリアですので、環境が大きく変わるわけではありません。徒歩ですぐの場所への移転なのですが、そうは言っても引っ越しは体に堪える年齢となりました。

住居を12回も引っ越してきた経緯にも、「近い場所」というキーワードがあります。そして私が生きてきた時代も大きく関わっています。じつにこの引っ越しの3分の2は、同じマンション内での引っ越しでした。

●マンション内引っ越しのいちばんの理由は…

つまりこういうことなのです…。私がひとり暮らしを始めた時代は、まさにバブル期と重なります。兎にも角にも家賃が高い時代でした。新築のマンションも次々に建ち、「衣食住」の「住」に人々が楽しみを見出した時代でもあります。家賃のために働いていたと言っても過言ではありません。ところがバブルが弾けてみると家賃の相場もずいぶんと変わりました。

賃貸で暮らしているといつも不思議だなと思うのは、更新のたびに更新料なるものを払い、場合によっては、賃料も上がる契約があったりします。どうにも納得がいかなかった私は、一旦外から現在暮らしているマンションの賃料を調べてみたことがあります。

すると驚いたことに、自分が契約していたときよりかなり下がっていたのです。なのに更新するとさらに家賃が上がる…。

なんだか馬鹿馬鹿しくなり、交渉をしてみましたが、家賃を下げてもらうというのは、なかなかのことです。そこで考えたのが、同じマンション内で部屋を移るという選択でした。

●同じマンションに住んでいた志村けんさんとの思い出も

これがかなり快適で、引っ越し作業のほとんどは業者を入れず自らエレベーターを使ってちょこちょこと移動させ、最後に冷蔵庫や家具などの大物だけ専門業者にお願いします。家賃が安くなったうえに、きれいな部屋に移れるというのはかなり魅力的なことでした。

とくにウォーターフロントの高層マンションに暮らしていたときには、部屋から見える景色がガラリと変わりとても新鮮でもありました。

とくに東京湾に面した部屋では、当時夏の花火も圧巻で、同じマンションに部屋を借りていた志村けんさんととに、仲間を集い爆音と美しい花火を堪能もしました。志村さんとの思い出にあふれているマンションでもあります。あまりに部屋を変える私に、花火の時期になると、「今年は何号室なの?」と聞く志村さんも懐かしいです。

ただ、やはり部屋が変わるとなにかしら、欲しいものが出てきたり、窓に合わせてカーテンやブラインドをそろえたくなるもので、結局は費用がかかります。経済面だけで考えれば、決して最善の策ではなかったかもしれませんが、引っ越しはいつもワクワクした気持ちで挑んできました。

●数々引っ越し経験のおかげで「シンプルな暮らし」ができるように

でもそのおかげで、DIYも女性にしてはそこそこ自信が持てるようになりましたし、オーディオ関連の配線は大得意でつなげられます! そして数々のインテリアグッズや、安物の家具で失敗した経験から、ようやく本当に自分が好きなものだけに囲まれ、シンプルな暮らしを手に入れることができたように思います。

18歳のあの当時に、この経験と知恵があればどれほど無駄なく、生きてこられたことかと思いますが、これが人生というものなのでしょう。大切なのは失敗をすること。

ムダをたくさん重ねた人ほど、シンプルを手に入れることができる。そんなふうに考える50代。60歳からをシンプルに生きるためのラストスパートです。