玉山鉄二さんインタビュー。40代になった今考えるこれからのこと、これまでのこと
端正なルックスと高い演技力を兼ね備えた、俳優・玉山鉄二さん。13年ぶりに主演を務めた映画、『今はちょっと、ついてないだけ』が4月8日に公開となりました。
玉山鉄二さんインタビュー。年齢を重ねて感じたこと
今回は、作品や役づくり、映画のタイトルにちなんで、玉山さんが感じた「今はちょっとついてない」ことについてお話を伺いました。
●役に共感するところが自分にもあった
玉山さんが今回の映画で演じたのは、かつては秘境を旅する番組で人気カメラマンとして脚光を浴びながらも、表舞台から姿を消した主人公・立花。映画では、この立花がシェアハウスで暮らしながらカメラを構える喜びを思い出す様子が描かれています。
玉山さんは、同年代の「立花」というキャラクターに対して共感できる部分が多かったと言います。
「自分の中に、立花の要素があるんじゃないか、とあとから感じたことは結構ありましたね。多分、僕ぐらいの年齢の方って、だれしもがいい意味でも悪い意味でも向上心が低下する時期ってあると思うんです。台本を読んでいて、そういうことをまざまざと感じたというか。自分自身も向上心であったり、やる気と向き合う機会があまりなかったので。多分気がついていないところで、向き合うことを避けていた人たちが、大きな問題とぶつかったときに折れてしまうことも多いのかもしれないし、意外とそういう部分と背中合わせで生きてるのかな、とは感じましたね」
作品に取り組んでいる間は、オンオフの切り替えはなく、「基本的に入れっぱなし」という玉山さん。
「撮影の期間は、立花の気持ちになっているので、自分なのか立花なのか…。視点を変えてみてないから結局わからないというか、立花と自分のはざまを行ったりきたりしているような感じでした」
●未来は、今よりも向上心がもてる社会であってほしい
作中でご自身に近いキャラクターは「立花」。では、憧れるのは? と問いかけると、同じシェアハウスで暮らす、音尾琢真さん演じる元テレビマンの「宮川」の名前が挙がりました。
なにか感じたことや行動など、一旦止めないでそのまま進む“自由奔放な”性格の宮川を玉山さん自身も「羨ましい」と思うのだそう。
「僕はどちらかというと、自分を押し殺しながら生きてきたと感じることが多くあるので、もっと自分の意見を押し出して生きてくればよかった、と思うこともあります。
宮川って、たとえば、なにか思いついたら止まることなくそのまま行きそうなタイプなんですよね。僕は結構考えてしまうタイプで。今の日本って1回ミスをしたらダメ、という風潮があるじゃないですか。だから、余計にミスしない生き方を選んでしまうんですよね。でも、ミスしない生き方って、それなりの行動しかやっぱりできないんですよね。すごく広い道なのに、ど真ん中じゃないと怖い、みたいな」
本当は、右にも左にも歩ける道があるのに、真ん中を歩いていないと否定される怖さ。それは現代の日本人ならだれでも感じることかもしれません。
「そういう世の中を生きていると、しんどいし、向上心も持てないんですよね。…ということを考えるのも、立花っぽいな、と思います。僕は子どもがいるので、子どもたちが大人になったときにそうじゃない社会になっていてほしいな、という願望はすごくあるんですけどね」
●じつは「ずっとついてない」!?
劇中で「今はちょっと、ついてないだけ。そのうちいい運がやってくるよ」そんなふうに言いながら過ごす立花たち。確かに、「ちょっとついてないな」と思うことはだれにでもあります。
玉山さんにもついていないな、と思うエピソードについて聞いてみると、「僕はずっとついてないと思う」という意外なご回答が…!
「たとえば、ECサイトでものを頼むと、サイズや色が違ったり、まったく違うものが来たり、ほつれていたり…。そこを結構ひいちゃうんですよね。ほかにも飛行機に乗っても、僕が座っている座席に他のお客さんが来て、確認したら2人とも同じ番号だったり…」
そう苦笑いを浮かべる玉山さん。とくにショックだったのが、旅先でのある出来事でした。
「これは旅行で福岡に行ったときのことなんですけど、絶対に行きたいと思っていたお蕎麦屋さんがあって、最終日の飛行機に乗る前に行ったんですよ。そのお店の『天とじ丼』が、写真もめちゃくちゃおいしそうだし、『絶対にこれを食べて帰る』と思っていたのですが、来た商品を見たら普通の天丼だったんです…」
なんと焦っていて「天とじ丼」と頼みたいところ、「天丼」と言ってしまっていたのだそう。
「丼のフタを開けたときのショックが本当にひどくて。間違えましたと言えるタイプでもないし、もうひとつ天とじ丼を頼んだら天丼は食べられないし…ほかのお客さんはみんな天とじ丼を頼んでいて、それを見たらみちゃくちゃうまそうなんですよ。本当に悔しくてしばらく引きずりましたね」
●リスタートのきっかけは日常に転がっている
立花も玉山さんも現在40代に差し掛かったばかり。40代の理想の人間像は「仕事以外のやりたいことや趣味があって、自分の時間もちゃんとあって…という生活ですね」と教えてくれた玉山さん。
若いときの自分と違うな、と思うことについて聞くと、「いい意味でがんばらなくなった」と言い、こう続けます。
「こうじゃなきゃいけない、みたいな固定概念がなくなりましたね。若いときって、『こうでありたい』、『ああでありたい』とかあるけど、いざ実行するとどこかで辻褄が合わなかったり。それで立ち止まったり、悩んだり、なにかするのがちょっとめんどくさいなと思った時期もありました。今はこういうふうに見せようという考えはなくなりましたね」
そんな玉山さんが、ESSEの読者に伝えたいことは…。
「女性の方は男性に比べると、多分、結婚や出産もそうですが、リスタートの数が多いと思います。そういった部分で、もう1回スイッチを入れ直すことがすごく苦痛だったり、しんどかったり、という方は結構いらっしゃると思うんです。でも、ちょっとでもやってみようかな、とか、アクティブなスイッチが入るきっかけって、普段の生活の中に転がっていて、それを見逃すか見逃さないか、そこが大事だと僕は感じているんです。結婚したからこう、出産したからこう、子どもがある程度大きくなったからこう、というよりは、一度自分と向き合う時間を作って、どうありたいとか、昔の自分はどうありたかったのかとか見つめ直す作業も必要なんじゃないかな、と思います。そのきっかけの1つにこの作品がなれると幸いです」