〇〇ちゃんママ、奥さん、嫁…。日本人女性はなぜ「自分の名前」で呼ばれない?
持続可能な社会をつくるための「SDGs」という言葉が注目されています。一見難しそうに感じますが、じつは私たちの暮らしのなかに取り入れられることがたくさんあります。今回のテーマは「ライフステージで変わる日本女性の呼び名」「ジェンダー平等」について。SDGsに詳しいフジテレビの木幡美子さんにつづってもらいました。
多すぎ!?ライフステージで変わる日本人女性の「呼び名」
みなさんは、普段どう呼ばれていますか?
相手や状況によっても違うかもしれませんが、私の場合は、5歳のときに妹が生まれてからは、家族の中では「おねえちゃん」と呼ばれてきました。長女・長男の多くは、私のように名前ではなく「おねえちゃん・おにいちゃん」と呼ばれているのではないでしょうか? 一方、妹や弟のことを、「いもうと」「おとうと」とは呼ばないでしょうから、長女長男以外は、名前に「ちゃん」や「くん」をつけたり、あだ名で呼ぶケースが多いかもしれません。
小学校に入ると、「よしこちゃん」や「こばたさん」になりました。まれに「よっちゃん」。そして、海外に移り住んだときは「Yoshiko」「Yoshi」となり、大学時代は「美子」が多かったです。
●結婚で登場する「嫁」「家内」「奥さん」
さて、ここまでは「呼ばれ方」にそれほど変化はないですが、「結婚」というビッグイベントと同時に“大変革”が起きます。ずっと使ってきた名字が変わるのです。そんなの当たり前と思うかもしれませんが、海外では、旧姓を残したり、併記したりするケースも多いのです。
この世に産まれてからずっとつき合ってきた、自分のアイデンティティともいえる名前が変わるって、大きいですよね。銀行でも病院でも、これまでと違う名前で呼ばれます。最初は自分のことだと気がづかずポカーンとしたこともありました。あとは、「奥様」と言われたり…「家内」とか「嫁」などと呼ばれたりするようになります。
●子どもが生まれると「〇〇ちゃんママ」に
次に大きな変化が訪れるのは、子どもが生まれてからです。家の中では、「ママ」「おかあさん」が定番に。配偶者からもそう呼ばれる人も多いですよね(注:あなたのママになった覚えはないですが)。また、自分のきょうだいに子どもができると、今度は「おばちゃん」という新たな呼び名も加わります。
保育園(幼稚園)に通いはじめると不思議な呼称になります。「○○(子どもの名前)ちゃんのママ」、学校でも「○○さんのおかあさん」などなど…私も育児休業中は、「こばたよしこ」と言われることが、日常生活の中でほぼなくなりました。
今では子どもも成人しましたが、久々にママ友と集まってもお互いを「○○ちゃんママ」と呼び合う現象は続いています。会話をしながら、あれ? そもそもこのママ友の下の名前ってなんだっけ…? 一度も聞いたことないかもと、思ったり。
●「自分の名前」が与えてくれるもの
このように、女性が社会の中でどう呼ばれるかは、人生のステージに順じてずいぶん変わっていくものです。
ちなみに海外でも、○○’s mom という言い方はあるそうですが、それは最初だけで、仲よくなるとファーストネーム(下の名前)で呼び合うそうです。家庭内でも、夫からは、名前で呼ばれるのが一般的と聞きました。
以前フジテレビで『名前をなくした女神』というドラマがありました。幼稚園のママ友の間で、「お受験」などをめぐって繰り広げられる複雑な人間関係を描いたものですが、登場する5人の女性たちがみな「〇〇ちゃん(くん)ママ」と呼ばれることから、『名前をなくした女神』というタイトルがついています。
名字が変わり、下の名前もほとんど使われなくなって、“だれか”の“なにか”である時間が日本人女性は長いのです。そんなこと、あまり気にしたことない、という方も多いかもしれません。私もそうでした。でも、もしかしたら、自分の名前が呼ばれなくなっていくのと同時に、自分と向きあう時間も大きく減っているのではないでしょうか?
●SDGs目標5は「ジェンダー平等を実現しよう」。実際の日本の状況は?
こんなデータがあります。
OECD(経済協力開発機構)による無償労働時間の国際比較によると、日本人女性が1日のうち家事や育児などに費やす時間は224.3分なのに対し、男性は40.8分。女性は男性のじつに5.5倍です!(2022年3月18日時点のOECDのオープンデータ)この男女の差は主要先進国の中でトップ! 平均は、1.9倍ですので、そもそもどの国でも女性が男性の約2倍の無償労働をやっているということですが、日本の場合は5倍以上ということ。
別のデータで、睡眠時間が最も少ないのは、日本人女性(とくに共働きの女性)という結果もでています。これを見ると、ジェンダー平等という点で大問題で、日本人女性は明らかに負担が大きく、がんばりすぎです!
ただ、育児休業をとる男性は、2007年頃から年々増えていて、令和元年度には7.48%になりました。1%にも満たなかった20年前と比べると増えていますので、今後もっと増えることを期待したいです。
●“本当の自分”と向き合う時間を大事にしたい
3月8日は国際女性デーでした。イタリアでは男性が女性にミモザの花を贈り、感謝の意を伝える日です。自分の本来の名前で呼んでくれる人との時間は、もしかしたら唯一“だれか”の“なにか”ではなく、“本当の自分”になる時間なのかもしれません。
そんな時間をもてるよう計らってくれる家族がいれば幸せなことですが、そうではない場合は、無理やりでも時間をつくって好きな場所に出かけたり、自由な時間をもつことも大事です。
「ただいま、私」
そんなふうに言ってあげられる時間を日々の生活の中で、ちょっとだけつくってあげてくださいね。
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