インプラント治療の新潮流「Xガイド」。安全性と精度の高さの理由

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一般の医療機関への提供が2020年にはじまった「Xガイド」。インプラント治療の安全性を高めるシステムとされているようですが、マウスピース状の「サージカルガイド」と比べ、格段の違いが出るものなのでしょうか? 実際に「Xガイド」を導入している「野村歯科クリニック」の野村貴正先生に、話を聞いてみました。

監修歯科医師:
野村 貴正(野村歯科クリニック 院長)

日本大学松戸歯学部卒業。民間の歯科勤務を経た1992年、群馬県太田市に「野村歯科クリニック」開院。患者と医師の双方に妥協のない、より良い治療を心がけている。国際歯周内科学研究会、日本一般臨床医矯正研究会、日本口腔インプラント学会、日本臨床歯科CADCAM学会の各会員。

インプラントの機能を向上させる「Xガイド」

編集部

先生の医院ではインプラント治療に「Xガイド」を用いているそうですね?

野村先生

はい。「Xガイド」は、インプラントの機能を向上させる意味で、かなり有効な方法だと考えています。インプラント治療で重要となる観点は、「きちんと機能してくれる人工歯の位置はどこなのか」と「しっかりと固定するために、顎のどこへ穴を開けるか」です。Xガイドは、この両者を事前にシミュレートしてくれます。

編集部

「きちんと機能してくれる人工歯の位置はどこなのか」とは、どういう意味ですか?

野村先生

理想的な人工歯の位置は、食べ物を噛んだ感覚や噛み合わせなどとも関わってきます。それこそ、ミリ単位の調整が必要です。ところが従来のインプラント治療では、「顎の骨がたくさんある箇所はどこなのか」が重要視され、そこからさかのぼって、人工歯の位置を決めていました。

編集部

まず、土台アリキだったわけですね?

野村先生

そうなりますね。インプラントについてインターネットなどを調べてみると、「顎の骨の量の話題」にこと欠かないと思います。しっかりした土台があるから、噛む“力”も遜色はないという論法です。その一方で、噛み心地のような“質”の部分が、置き去りにされてきたのかもしれません。そのような経緯から、昨今では、「きちんと機能してくれる人工歯の位置はどこなのか」も重視されるようになってきました。「Xガイド」のコンセプトは、歯の機能と顎の骨の量の両立です。理想的な手術計画を、CTなどの口腔内データに基づいて「ガイド」してくれます。

Xガイドはインプラント手術のナビシステム

編集部

マウスピース状の器具をはめて、ドリルの角度や深さを固定する方法があると聞きます。

野村先生

それは、「サージカルガイド」と呼ばれる器具のことでしょう。名称が似ているのでややこしいですが、「Xガイド」では、マウスピース状の器具を必ずしも用いません。「サージカルガイド」が進路を固定する“電車のレール”だとしたら、「Xガイド」は理想的な進路を指し示す「ナビゲーションシステム」のようなものですね。

編集部

つまり、施術に相当する“運転”は、医師自らが行っていると?

野村先生

はい。「Xガイド」でシミュレートした画面を見ながら、手作業で施術しています。なお、実際のカーナビなどと同様、付近の店舗や施設などもリアルタイムで写しだされる仕組みです。お口の中だと、血管や神経などが相当するでしょうか。これらを傷つけない「理想的なコース」が画面に示されていると考えてください。

編集部

マウスピース状の器具で固定してしまったほうが安全ではないのですか?

野村先生

サージカルガイドが“1mmもずれずに”固定されていれば、安全性は担保できるでしょう。しかし、施術中にずれたり、そもそもサージカルガイドをつくるための「歯形取り」の段階で不正確だったりしたら、間違ったコースをたどりかねません。

編集部

レールが最初から反れている可能性もあるわけですか?

野村先生

はい。歯型取りでは麻酔を使いません。ところが、インプラントの手術では麻酔を使います。麻酔によって歯肉の腫れを起こすと、それだけで本来の想定からずれてきますよね。つまり、レールのように固定されることで起こるエラーも、ありえるということなのです。やはり、医師という人間の判断を交えたほうが“安全”という印象です。

Xガイドでインプラント治療の時短が可能に

編集部

ところで、Xガイドには特別なプロセスが必要なのでしょうか?

野村先生

はい。「Xクリップ」という位置情報を決めるための器具を、シミュレーション時にも施術時もはめていただきます。この「Xクリップ」があれば、サージカルガイドをつくるための「歯形取り」という工程は不要です。ただし、例外として、残っている天然歯が少ない場合などにサージカルガイドを併用することもあります。

編集部

つまり、インプラント治療の時短が可能だと?

野村先生

そのとおりです。極論すれば、予約していただいた施術日当日に全ての施術を終わらせることが可能です。ネックになるのはインプラントにはめる人工歯の形状と製作時間ですが、「セレック」などの技工システムを併用することで即日対応可となります。もちろん、「セレック」を導入していないクリニックもありますので、「必ず日帰りで済む」わけではありません。

編集部

事前のシミュレートも、施術日におこなえるわけですか?

野村先生

おこなえますが、実際にそうするかどうかは、医療機関によって異なるでしょう。全体の流れとしては、(1)「Xクリップ」をはめてCTを撮り、(2)そのデータを元に「Xガイド」でコース設定をして、(3)医師がリアルタイムな画面を見ながら施術するというものです。加えて、「セレック」と連動すれば、(4)人工歯の設計と製作が同時におこなえます。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

野村先生

インプラント治療を時系列でさかのぼると、初期の段階では、「歯ぐきを開いてみて、自分で進路を確認する進め方」でした。それがCTとサージカルガイドの登場により、「目的地まで固定されたレールを敷く方法」になったわけですね。ところが、上手くいかない症例が散見されてきたため、「医師の判断を反映できるカーナビ運転」に切り替わってきたということです。歯形取りの時短などは副次的な要素で、主たる観点は「事故防止」にあると考えています。

編集部まとめ

同じガイドでも、「Xガイド」は、コース取りを固定しない進め方とのことです。「Xクリップ」で得た位置情報を元に、施術中でもカメラで撮影しながら、ドリル周辺の“景色”をモニターに写し出してくれる優れ技です。治療の流れとして特徴的なのは、この「Xクリップ」を用いることでしょう。ただし、工程が増えるわけではなく、逆に一手間省けるようです。加えて、歯の機能を考慮したシステムなのですから、「患者の立場を優先した設計思想」といっていいのではないでしょうか。

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