奨学金の借入額は実態どれくらい? 返還時の平均額や年数なども紹介
大学への進学にはまとまった資金が必要です。しかし、経済的な理由から大学進学が難しいケースも決して少なくありません。そうした人のために用意されているのが奨学金制度です。
奨学金制度は、大学や公的機関、民間までさまざまな団体が設けており、借入可能額や返還額、期間などが異なります。この記事では、アンケートから明らかになった返還時の平均額や年数などを公開。さらに、返済が困難なときの救済制度についても解説します。
奨学金制度とは
まずは、奨学金制度の基礎知識や教育ローンとの違いについてあらためて確認しておきましょう。
日本学生支援機構(JASSO)
奨学金とは、家庭の事情などから進学資金の用意が難しい学生に対して、学費の付与・貸与を行う制度です。国や市町村などの自治体、大学、企業、法人など、さまざまな機関が奨学金制度を設けています。また、貸与条件や金額、返還時の利子の有無などは奨学金のタイプによって異なります。
奨学金のなかで、もっとも知名度が高いのは国が支援する「独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)」。短大を含む大学進学者の多くがこの奨学金制度を利用しています。
対象の定義も広く、4年制大学はもちろん、短大や専門学校、海外留学先などあらゆる場所で学ぶ人が対象です。また、入学時だけでなく、在学中に申請をして奨学金を受けることもできます。
教育ローン
大学進学で利用できるのは奨学金だけではありません。「教育ローン」もまた、進学に際して家庭の経済的負担を軽減できる方策の一つです。
奨学金制度と教育ローンとの大きな違いは、その対象者にあります。奨学金を借り入れ、「返還」義務を負うのが学生本人であるのに対し、教育ローンを借り「返済」義務を負うのは基本的に保護者です。
教育ローンは、奨学金よりも申し込み時期や利用目的の自由度が比較的高いのがメリット。しかし、一般的に奨学金よりも金利が高くつきます。
また、教育ローンには日本政策金融公庫(国)によるものと民間金融機関によるものがあり、審査基準にも違いがあります。公庫の教育ローン「教育一般貸付(別名:国の教育ローン)」は保護者の前年の収入が一定以上だと利用できません。反対に民間の教育ローンは、確実な返済のために安定した収入があることが求められます。
奨学金の貸与型と給付型
奨学金は大きく分けて貸与型と給付型の2種類があり、それぞれ申し込み条件や返還義務の有無などに違いがあります。
貸与型奨学金
貸与型奨学金は、その名の通り貸し付けるタイプの奨学金です。利用後は学生本人による返還が求められます。
貸与型は奨学金の大半を占めています。日本学生支援機構では無利子の「第一種奨学金」と利子付きの「第二種奨学金」を設けており、併用での申し込みも可能です。どちらも学生の学力と保護者の収入が審査されますが、第一種奨学金のほうがより審査基準は厳しいものとなっています。
学生の進学を助ける奨学金ですが、返還条件の厳しさや救済制度の少なさから、返還に悩む人も少なくありません。近年では、貸与型奨学金の制度がたびたび問題視されるようになっています。
給付型奨学金
貸与型に対し、返還が不要なのが給付型奨学金です。
給付型奨学金は、2017年度(平成29年度)からは日本学生支援機構でも導入され、2020年(令和2年)4月からはさらに対象範囲が広がっています。また、大学や企業・法人が実施する奨学金のなかにも給付型奨学金があります。しかし、貸与型に比べてまだまだ少ないのが現状です。
返還不要な給付型奨学金は、専攻や出身地など申し込み条件が細かく、審査基準も厳しく定められています。しかし、給付がかなえば進学費用が大幅に軽減されます。
奨学金の平均借入額は
貸与型奨学金を受けた人は平均でどれくらい借りられているのでしょうか。ここからは、アンケートから実際の借入額を見ていきましょう。
借入総額などの平均額は
労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」によると現在の親世代で自分が学生時代に奨学金を利用していたと答えた人は34.9%(日本学生支援機構以外含む)。そのうち日本学生支援機構の有利子奨学金が41.2%、無利子が30.1%です。
日本学生支援機構の奨学金利用者において、平均の借入総額は324万3,000円。毎月の返済額は平均1万6,880円、返済期間は平均14.7年です。また、借入総額500万円以上という利用者も、12.4%と1割以上を占めています。
アンケート結果からは、現在の親世代の人の3割以上が学生時代に奨学金を利用し、15年近くかけて返還していることがわかります。
負担感を感じている人が多い
奨学金破産が社会問題になったことは広く知られていますが、アンケートからも返還を負担だと感じる人が多いことがわかりました。
前出の「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」によると、奨学金の返還を延滞したことのある人は、39歳以下で学生支援機構の奨学金を利用した人のうち15.7%に及びます。今後の返済に「不安を感じる」と答えた人は、正規雇用で5割強、非正規雇用で7割強。また、返済が「苦しい」と感じている人が正規雇用で4割、非正規雇用で6割弱を占めています。
低賃金や非正規雇用の増加など、経済面で不安を覚える人が増えている昨今、月々の返還金が生活を大きく圧迫していると感じる人はおよそ半数に達しています。
このような負担がありながらも、奨学金を頼りに大学進学を選ぶ人が多いのは、社会人になったときの学歴による賃金の差が背景にあります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、高卒男性の生涯賃金は2億1,280万円とされています。(学校を卒業した後すぐに就職し、60歳で退職するまでフルタイムの正社員を続ける場合。退職金を含めない。)
それに対し、大学・大学院卒の生涯賃金は2億6,910万円。その差は実に5,630万円にのぼります。
参照元:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計 労働統計加工指標集 2021
奨学金の返還が困難になったら
前章でも触れたように、奨学金の返還が難しくなることは珍しくありません。もしも返還が困難になった場合、救済制度はあるのでしょうか。
ここでは、特に利用者の多い日本学生支援機構が設ける救済制度について解説します。
返還期限猶予制度
まず挙げられるのが「返還期限猶予制度」です。災害や傷病、失業などで経済的困難に陥ったときに所定の書類を提出、審査に通れば、返還が猶予されます。また、猶予期間中は一般的な延滞と異なり延滞金が発生しません。
猶予期間は通算10年。給与所得者収入300万円以下、給与所得者以外は所得200万円の基準が定められています。
なお、返還期限猶予制度では、利子や返還金の減額はありません。返還期限の猶予が過ぎた後は以前通りの返還が始まり、猶予期間に応じて返還終了の年月日も延長されます。
減額返還制度
返還期限猶予制度に対して、毎月の返還額を減らせるのが「減額返還制度」です。経済的な理由で奨学金の返還が困難になったものの、「毎月の返還額を減額してもらえれば返還できる」というケースに利用できます。
減額返還制度では、願い出により最長15年、当初の割賦金額が減額されます。1回の申請で減額されるのは12ヶ月までですが、1年ごとに再度願い出ることで継続して減額が受けられます。
なお、この制度によって返還義務が免除されたり、返還総額が減ったりするわけではありません。減額期間に応じて返還期限が延長されます。
返還免除制度
日本学生支援機構の奨学金には、返還金そのものの免除が受けられる「返還免除制度」もあります。返還免除制度の種類は2つです。
1つ目は、「特に優れた業績を持つ」と評価された人への返還免除。学問や文化・芸術、スポーツなどの分野で優秀な成績を修めたり、めざましい活躍をしたりした場合に受けられます。さらに、ボランティアなど社会貢献の実績も加味されます。
2つ目は、奨学生が死亡した場合や、心身に障害を負った場合です。これらの理由で返還不能となった場合には、返還未納額の全部、または一部が免除されます。
まとめ
この記事では、大学進学時に受けられる奨学金制度について解説しました。
進学費用の負担を軽減し、学業の継続を望む人を支援するのが奨学金制度です。しかしながら、卒業後の返還に苦心し、生活を圧迫される人が一定数いるのも事実。奨学金制度を利用するときは返還時の負担を視野に入れ、無理のない範囲で借りるよう注意しましょう。