「もう二度と作れません」伊豆&北海道を走る「THE ROYAL EXPRESS」は未来の鉄道へつなぐバトン 水戸岡さん語る
東急が企画する伊豆方面のクルーズ列車「THE ROYAL EXPRESS」が、2022年も北海道の大地を走ります。車両をデザインした水戸岡鋭治さんはプレスツアーでの車内で、最高の旅の舞台作りにかける情熱について語りました。
北海道に上陸する東急のクルーズ列車
東急が北海道で展開するクルーズ列車「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」が、2022年も運行されます。それにあわせて3月14日(月)、伊豆方面へプレス向けの臨時列車が走りました。
クルーズ列車「THE ROYAL EXPRESS」(乗りものニュース編集部撮影)。
「THE ROYAL EXPRESS」は2017年に運行開始。「リゾート21」の愛称がある伊豆急行2100系を全面改装し、木材や伝統工芸をふんだんに取り入れた上質な車内空間に仕上げた列車が、横浜から伊豆方面へ走ります。走行中も旅路の名産品を取り入れた食事や、バイオリンなどの生演奏が楽しめます。
2020年からは「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」として、北海道でも運行開始。伊豆を走る列車が北海道まで移動し、雄大な北の大地を行くことになったのです。今年で3年目となります。
通常は8両編成のところ、北海道へ向けては5両に減らし、パンタグラフを外したうえ、機関車の牽引で北海道へ。札幌で列車を組みなおし、JR東日本から移譲された電源車と、JR北海道の機関車を連結します。「東急と伊豆急の車両がJR北海道の鉄路を走る」という前代未聞のプロジェクトです。
これは、「北海道を元気にしたい」というJR北海道の思いにこたえる形で実現。好評を得ているといい、今年の予約状況も、すでに30%がリピーターだそうです(予約は締切後抽選)。
デザイナー・水戸岡鋭治さんが託した「鉄道の未来」
この「THE ROYAL EXPRESS」をプロデュースしたのが、デザイナーの水戸岡鋭治さん。九州の特急「つばめ」787系電車を皮切りに、キハ71系気動車「ゆふいんの森」、800系新幹線など数多くの鉄道車両をデザインし、「ななつぼしin九州」「或る列車」など観光列車のプロデュースも手掛けています。
自身がデザインした「THE ROYAL EXPRESS」から、伊豆の海を眺める水戸岡鋭治さん(乗りものニュース編集部撮影)。
その水戸岡さんの集大成とも言える車両が「THE ROYAL EXPRESS」です。東急の松田高広さん(交通インフラ事業部 事業運営グループ 統括部長)が惚れ込んで「突撃」し、デザインをお願いしたといいます。
車内の意匠は既製品を廃し「本物」にこだわったという水戸岡さん。プラスチックは使わず、可能な限り鉄や木材、ガラスを素材に使用し、職人の手で作り上げたものだといいます。金をあしらった木組みの天井は、鉄道以外を見渡してもなかなか見られない贅沢さ。調度品からクッションまで、全て特注品で揃えたのは「たった2m70cmの幅の室内空間で、どこにもない贅沢で豊かな体験をしてもらいたい。そのためには、利便性と経済性が重視されがちな時代に、それとは真逆の、手間暇をかけたものを提供したかった」と話しました。
そのこだわりの底には、もともと家具屋の家に生まれ、物心ついた頃から職人の手による工芸品に触れてきた下地もあり、つねに「最高の環境を提供したい」という思いがあるといいます。
小さな子どもが最初に触れた列車が「最高に良いもの」との出会いで、鉄道とはこういうものなのか、という意識が生まれる、そういった「環境」が大事なのだと話します。
「旅は何度行っても、同じ景色には出会えず、人とのふれあいも毎回違う。そんな旅は人間にとって大切なもので、その旅の最高の舞台となるよう、いまだかつてない車両で、最高のサービスや食事を人々に与えられるものであってほしい。そうすれば日本は観光立国として、世界から桃源郷のように感じてもらえるようになれるはずです」
最後に水戸岡さんは、「もう同じ作品は二度と作れません」と前置きしたうえで、「みなさんの若い力にかかっています。もっと豊かに、清く正しく美しい、そんな鉄道文化を守っていってください」と私たちに語りかけました。