スーパーチャージャーで最高出力5割増し!

カワサキがNinja誕生30周年と合わせ、既存のスポーツバイクのアプローチに拘らず「すべてを超える、至上のロードスポーツ」として2014年に発表したNinja H2&Ninja H2R。市販量産車として世界で初めてスーパーチャージャー装備のエンジンを開発し、クローズドコース専用のNinja H2Rは、なんと最高出力310馬力! 同じ1,000ccのDOHC4気筒エンジンを搭載する、SBKレースのベース車にもなるスーパースポーツモデルの最高出力がおおむね200馬力なので1.5倍以上のパワーを叩き出すワケで、いかにスーパーチャージャーに威力があるかをうかがい知れる。
……けれど、そもそもスーパージャージャーとはどんなモノ? なんとなく、クルマ(四輪車)のターボチャージャーの仲間?といったイメージを持つ方が多いのではないだろうか。おおむね正解だけれど、ちょっと違う。そこのトコロを紐解いてみよう。

KAWASAKI Ninja H2

2015年に登場した、世界で初めてスーパーチャージャーを装備した市販量産車。ガスタービンや機械、航空宇宙技術など川崎重工グループの技術を結集して作られた。写真は2021年モデルのNinja H2 CARBONで最高出力231馬力。近年はこのスーパーチャージドエンジンをビモータのTESI H2が搭載したことでも話題になった。さらにクローズドコース専用のNinja H2Rなら、なんと310馬力! また派生モデルのスポーツツアラーNinja H2 SXとスーパーネイキッドのZ H2も、最高出力200馬力と各カテゴリーでトップクラスのパワーを発揮している

クルマはターボが一般的

1970年代の“スーパーカー・ブーム”の頃は、ターボといえば高性能スポーツカーの特別な装備という位置付けだったが、現在では軽自動車もターボ車が設定され、燃費や排出ガスに考慮した小排気量化によるトルクの低下を補う「ダウンサイジング・ターボ」も増加している。写真はホンダN-ONEのバンパーステッカー(オプション)で、前走車のバックミラーで正対して見える鏡文字になっており、じつは'80年代のターボ車で流行したステッカーだ

スーパーチャージャーもターボチャージャーも、エンジンに空気を押し込む「過給機」

現行の市販バイクは、カワサキのNinja H2/Z H2シリーズを除けば、排気量やエンジン型式に関わらず、すべてが「自然吸気エンジン」。これは空気にガソリンが混ざった混合ガスを、ピストンがシリンダー内を下がる時の負圧によって“吸い込む”仕組み。その吸い込んだ混合ガスをピストンが圧縮し、点火・爆発することでエンジンが回る。ちなみに混合ガスをいっぱいに吸い込んだ、ピストンが一番下がったときのシリンダー内の容積が「排気量」だ。

それでは、同じ排気量のままでエンジンをパワーアップするにはどうしたら良いか? 大気圧の空気を自然に吸い込むのではなく、ポンプのようなモノでエンジンにグイグイと空気を“押し込む”ことができれば、結果として排気量を増やすのと同じ効果が得られパワーが増大する。この“ポンプのようなモノ”が「過給機」だ。
そしてスーパーチャージャー、ターボチャージャーのいずれも過給機で、目的は基本的に同じ。ただし、空気を押し込むポンプを駆動する方法が異なるのだ。

クランク軸出力で過給機を回すスーパーチャージャー

空気を押し込むポンプである過給機(コンプレッサ)は、エンジンの回転(クランク軸)からチェーンやベルト、ギヤ等を介して駆動される。エンジンが直接回しているのでスロットルの開け初めに対するタイムラグが生じないため、バイクの特性に向いている。ただしエンジンの発生するパワーの一部を使っているので、燃費などを含めた全体の効率ではターボに譲る部分もある

写真はNinja H2Rのスーパーチャージャー。クランク軸からチェーンで駆動され、ステップアップギヤで1.15倍に増速し、さらに遊星ギヤで8倍まで増速するため、空気を圧縮するインペラはNinja H2Rで最大で13万回転近くになり、吸気の圧力は大気圧の2.4倍まで高まる(公道仕様のNinja H2でも10万回転以上)。インペラはアルミ鍛造から超高精度で削り出している

排気ガスの圧力でタービンを回すターボチャージャー

過給機(コンプレッサ)の同軸上にタービンを配置し、そのタービンを排気ガスの圧力で回すことで過給機を駆動する。普通はただ捨ててしまうだけの排気ガスを利用するので、エネルギーが無駄にならないのがメリット。ただし過給圧が上がってパワーが出るまでに、「スロットルを開ける→エンジンの回転が上がる→排気ガスの量が増える→タービンの回転が上がる」という行程を要するため、いわゆる「ターボラグ」が発生するのがデメリットといえる。しかし近年の四輪車のターボは可変バルブなどの進化もあり、ほとんど気にならないレベルになっている。

1984 KAWASAKI Z750 TURBO

国産4メーカーで最後発の1984年に発売。エンジンや車体のベースはGPz750で、738ccの空冷DOHC4気筒に日立製のターボチャージャーを装備し、同時期のGPZ1100(120馬力)、GPZ900R(115馬力)に迫る112馬力を発揮した

'80年代初頭には国産4メーカーのターボ車が出揃った

現行の“過給エンジン”を搭載するバイクは、カワサキのNinja H2/Z H2シリーズのみだが、かつては国産4メーカーがターボバイクを発売した。ところがこれらのターボバイクは、クルマのようにヒットすることはなかった。原因は色々と考えられるが、日本国内においてはターボバイクの認可が下りず逆輸入でしか購入できなかったし、当時の免許制度では400ccを超える大型バイクの乗るのが実質的に困難だったこともあるだろう。

また、ターボ特有のスロットルを開けた瞬間のわずかなタイムラグが、四輪車では許容できてもバイクの特性に合わなかったというのも大きい。とはいえ二次曲線的にパワーが立ち上がる加速感はターボならではで、少なからずファンもいたのだが……。残念ながらターボバイクは、基本的に全メーカーとも一代限りで消滅してしまった。

1981 Honda CX500 TURBO

量産市販バイク初のターボ車。500cc水冷V型2気筒のOHVエンジン(GL500がベース)にターボチャージャーを装着し、ホンダ初の電子制御式燃料噴射装置によって82馬力を発揮。翌'82年には650ccに排気量を拡大したCX650 TURBO(100馬力)を発売した

1982 YAMAHA XJ650 turbo

XJ650の空冷DOHC4気筒エンジンにターボチャージャーを装備。燃料供給は4メーカーの中で唯一キャブレター方式を採用し、最高出力85馬力。車体やカウルなどの外装はスポーツツアラーのXJ750Dを踏襲

1982 SUZUKI XN85

車名の85は排気量ではなく最高出力85馬力の意味で、エンジンは673ccの空冷DOHC4気筒。前輪16インチやリヤのフルフローターサスペンション等をいち早く採用

日本初のターボは日産グロリア。ハイパワーより低燃費を謳った時代背景

日本で初めてターボチャージャーを装備したのは、1979年のグロリア/セドリック(6代目の430型)だった。'70年代は2回もオイルショック(石油危機)を迎えたため、ターボ車はハイパワーよりも“低燃費”を前面に打ち出し、最初に高級車のグロリア/セドリックに採用したと言われた。日産は同年にブルーバードとスカイラインにもターボモデルをラインナップし、徐々に高性能路線に移行した

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