●東日本大震災からテレビを覆った雰囲気

YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。

第5弾は、テレビ朝日『ミュージックステーション』プロデューサーの利根川広毅氏、フジテレビ『FNS歌謡祭』『MUSIC FAIR』演出・プロデューサーの浜崎綾氏が登場。『新しいカギ』などを手がける木月洋介氏(フジテレビ)をモデレーターに、「音楽番組」のテレビ談義を、全4回シリーズでお届けする。

第3回は近年、大型音楽特番が増加した背景の話題から。放送時期が集中するため、各番組が埋もれないために色の違いを出すことを意識しているという。さらに、各局に受け継がれるノウハウの重要性についても話が及んだ――。

(左から)利根川広毅氏、木月洋介氏、浜崎綾氏


○■音楽の力で癒やしや励ましを

木月:近年、大型の音楽特番が増えたじゃないですか。これはどういう流れがあるんですか?

利根川:僕はいくつか要因があると思っていますが1つは、2011年の震災があって、被災者の方だったり、日本の空気に対して、癒やしとか励ましを音楽の力で与えられないかという雰囲気が強まり、大きな音楽番組が企画されたんだと思います。震災から時間が経ってなかった頃って、バラエティがどうあるべきか、など番組編成が議論された時代でしたよね。

木月:そういう空気がありましたね。

利根川:そのときに音楽が人の力になるというところで、2011年にTBSさんが『音楽の日』というのを最初に始めたんですよね。それが成功して定番化していき、日テレが『THE MUSIC DAY』というのを立ち上げる(2013年)など、10時間級の番組が各局でスタートしていった流れなのかなと思います。

浜崎:うちも夏に12時間近くやったことがあるんですけど(2016年)、月曜日の放送で月9をどうしても休止できないという事情があって、途中夜の9時から1時間ドラマが挟まるというのがあったんです。そのときに(副調整室の)卓に座ってたんですけど、あの1時間で集中力がブチッと切れてしまって(笑)。局としてもこの編成はやっぱり難しいなとなって、1回だけの放送になりましたね。

木月:でも『FNS』の音楽特番は増えてきましたよね。

浜崎:この前『秋』を初めてやって、『春』も何回かやったことがあって、それも震災があって音楽で人々を勇気づけようという世の中の雰囲気からだったと思います。私も、岩手の被災地に行って桐谷健太さんが「海の声」を歌うというのをやりましたけど、全体的に音楽番組がそういう方向に進んだというのは確実にありますね。

○■各局で放送時期の駆け引き、差別化の意識

木月:それにしても、毎年近い時期に音楽特番が固まるので、皆さん大変ですよね。

浜崎:どうしてもかぶってしまうのが、夏と11月から12月にかけてになりますね。毎年どこの週でやるんだみたいな駆け引きが結構あるんですけど、やっぱり見てる人は同じアーティストが同じ曲を歌ってると飽きてしまうので、曲を変える交渉をアーティストサイドにするのが、後の時期のOA番組のほうが大変だったりしますよね。

――そうすると『Mステ SUPER LIVE』は年末ですので…。

利根川:そうなんですよ。勘弁してくださいよ(笑)

浜崎:(笑)。冬に関しては読売テレビの『ベストヒット歌謡祭』と、日テレの『ベストアーティスト』と、うちの『FNS歌謡祭』が前半めに固まっていて、『Mステ SUPER LIVE』は『レコード大賞』(TBS)とか『紅白(歌合戦)』(NHK)と後ろのほうの固まりという認識ではいるんですけど、そこで各局が色の違いを出さなければ埋もれてしまうというのは、どこも考えてることだと思います。

●ゴールデンのレギュラー番組を持ち続ける意義

『ミュージックステーション』(テレビ朝日系、毎週金曜21:00〜) (C)テレビ朝日


木月:『Mステ』さんだと、タモリさんの司会という特色がパキッとありますけど、他に意識していらっしゃる特色はあるんですか?

利根川:一番オーソドックスに、今人気のアーティストが今人気の曲を生放送、ライブで歌うというところですね。企画というよりそのフォーマットがしっかりあるのが『Mステ』で、王道っちゃ王道ですよね。

浜崎:最近『CDTV ライブ! ライブ!』(TBS)が始まりましたけど、数年間ゴールデンにレギュラーでやってる音楽番組って『Mステ』しかなかったんですよ。他局でどんどん消えていく中で『Mステ』だけが守り続けたから、当然唯一の番組は一番スタンダードな形になっていくと思うんですよね。今流行のアーティストが最新の曲を歌う、それを毎週生放送で続けていくってすごいことだから、年末の『SUPER LIVE』はその集大成という位置づけなんだろうなと思います。

利根川:そうですね。

浜崎:フジテレビは『HEY!HEY!HEY!』が2012年に終わって、2014年に『僕らの音楽』と『新堂本兄弟』が終わって、一気に音楽番組がなくなった時期があったんです。アーティストとの日々のお付き合いすら絶たれていくくらい番組がなくなって、そうするとヒット曲を普段からやってもらう場がないから『FNS歌謡祭』をどういう位置づけの番組にすべきかというのが議論になったことがあるんですよ。もともとフジテレビは『HEY!HEY!HEY!』で最新曲をやってもらうというメインの番組があって、『MUSIC FAIR』でコラボとか企画ものをやるという両輪があって成立してたのに、メインの車輪がなくなったから『MUSIC FAIR』をメインにしなきゃいけなくなって、今まで出ていなかった若手のアーティストとか、最新曲を歌う人たちを出していくという位置づけにちょっと変わっていった時期があるんです。

木月:ああ、そうなんですね。

浜崎:だから、レギュラーでゴールデンの音楽番組を持ち続けるということがいかに大事かというのを、すごく感じるんですよね。

『MUSIC FAIR』(フジテレビ系、毎週土曜18:00〜) (C)フジテレビ


利根川:僕も日テレにいたときに同じような経験をしたので分かります。『Music Lovers』が日曜夜にあって、ゴールデンに『1番ソングSHOW』という音楽バラエティがありつつ、金曜深夜にも音楽番組があるという体制だったんですが、バタバタっと終わっちゃって(2013〜14年)、気づいたら金曜深夜しか残ってなくて、そこで全部やらなきゃいけない。アーティストとのお付き合いもグッと減って、年に2回の特番となるとなかなか難しいので、『Mステ』はすごいなと思ってましたし、NHKさんもすごいなと思って見てました。

浜崎:NHKはやっぱりすごいですよね。たぶん『SONGS』が最上位品質の番組と位置づけられていて、いろいろな種類の曲を紹介する『うたコン』がある感じ。

利根川:NHKさんはもともと『ポップジャム』から続いた『MUSIC JAPAN』が終わってしまうんですけど(16年4月)、同時に演歌・歌謡曲中心だった『歌謡コンサート』にポップスも入れてリニューアルし『うたコン』(16年4月〜)という形で続けていて、さらに『シブヤノオト』(16年4月〜)も立ち上げて、ポップスのアーティストと向き合う場所を作って今に至るという感じですよね。きっと芸能班の人たちが頑張ったんだろうなと思います。

木月:そういうことって本当に大事なんですよね。体制を変えながらも頑張って続けていくことで、ノウハウも継承されていくので。

○■『Mステ』驚異の転換の速さ

浜崎:ノウハウの話で言うと、私が『Mステ SUPER LIVE』を見に行った時に一番驚いたのは、転換の速さなんですよ。KinKi Kidsさんは必ず自分たちのバンドを連れてきて生演奏するんですが、ステージでセッティングするのにうちだったら音のチェックを含めて10分はほしいと言われるんですけど、『Mステ』さんは3分でやってたと思うんです。とにかくそのスピードにびっくりして、次の日にうちの美術さんとPA(=音響スタッフ)さんに「これから3分でやってください」って言いました(笑)。それはやっぱり、毎週の生放送のノウハウだと思います。

利根川:脈々と受け継がれてる感じはありますね。僕も外から来たので、生放送での転換の速さとか段取りの組み方は、素晴らしいなと思います。

木月:『いいとも!』をやってるときに、アルタで20年くらい小道具を担当されていたすごく仕切ってくれる女性スタッフさんがいまして。ADとかに「速く運んで!」って美術さん以外のスタッフに対しても仕切ってくれる生放送の番人のような名物の方で。その話を聞いて久々に思い出しました(笑)

浜崎:そういうノウハウってうちで言うとコント番組もそうじゃないですか。『ピカルの定理』以降コント番組がなくなって、大掛かりなセットが倒れるといったノウハウを持っている美術さんが残ってるのかという問題が出てきたり。

木月:それで『新しいカギ』という番組を始めたんですけど、本当にギリギリでしたね。あと何年か経っていたら美術が途絶えていたと思います。今、必死でそれを継承しているところです。

利根川:僕好きですよ、あの番組。『Mステ』の裏に来ることが多かったですけど(笑)

木月:10月からは土曜日になりましたので(笑)

利根川:ありがとうございます(笑)

次回予告…〜音楽番組編〜<4> ネット時代の音楽番組の役割、“音楽愛”ある演出を

●利根川広毅1977年生まれ、千葉県出身。千葉商科大学卒業後、制作会社を経て、フリーランスとして『Music Lovers』(日本テレビ)、『グラミー賞授賞式』(WOWOW)などを演出。13年に日本テレビ放送網へ入社し、『LIVE MONSTER』『バズリズム』『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』などを担当。18年にテレビ朝日へ入社し、現在は『ミュージックステーション』『関ジャム 完全燃SHOW』『イグナッツ!!』のプロデューサーを務める。

●浜崎綾1981年生まれ、北海道出身。慶應義塾大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『堂本兄弟』『新堂本兄弟』『FACTORY』『僕らの音楽』『ピカルの定理』『水曜歌謡祭』などを担当し、現在は『FNS歌謡祭』『MUSIC FAIR』『KinKi Kidsのブンブブーン』『オダイバ!!超次元音楽祭』で総合演出・演出・プロデューサーなどを務める。

●木月洋介1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『バチくるオードリー』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲〜RONDO〜』などを担当する。