2021年は栗の違いに注目! 今年食べたいのは和栗と洋栗、どっちのモンブラン?
お菓子の歴史研究家・猫井登による、スイーツのトレンドや歴史を知ることができるおいしい連載。今回は、旬真っ只中のスイーツ「モンブラン」を特集。今年食べるべきモンブランをチェックしよう!
お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。今回は、旬真っ只中のスイーツ「モンブラン」を特集! モンブランの歴史のおさらいから、今年注目のモンブランまで、栗指数高めでお届けします。
【猫井登のスイーツ探訪・特別編】「モンブラン」
モンブランの起源はフランスやイタリアの家庭料理?
モンブランは、直訳すると「白い山」の意味を持つ。諸説あるが、アルプス山脈のモンブラン峰周辺地域である、フランス・サヴォワ地方やイタリア・ピエモンテ州などで食べられていた家庭菓子が原型と言われる※1。これは、地元で採れた栗をやわらかく煮てペースト状にしたものに、泡立てた生クリームをのせた素朴なもの。イタリアでは「モンテ・ビアンコ(白い山)」と呼ばれている。このお菓子がフランス・パリに伝わり、洗練され、現在見られるモンブランができたのではと考えられている。
※1 一般的には、雪山を模しており、上部は雪の積もった部分を、下部は山の地肌を表現していると言われるが、雪山とその麓に広がる栗林を表現しているという説もある。
モンブランは、日本ではフランス菓子店の定番として知られ、フランスにおいても、どの店でも売っているポピュラーなお菓子だと思ってしまうが、まずパリでは、モンブランを初めて売り出したとされる「アンジェリーナ」以外では、比較的高級な菓子店でしか見かけない。
パリ以外でモンブランが見られるのは、モンブラン峰の麓にあるシャモニー。アルザス地方やローヌ地方でも類似のお菓子が見られるが、これらの地方では「トルシュ・オー・マロン(Torche aux marrons)=栗の松明(たいまつ)」と呼ぶ。スイスでも見られるが「ヴェルミチェッリ(Vermicelli)=イタリアの極細パスタ」と呼ばれる。
フランスのサヴォワ地方、イタリアのピエモンテ州、そしてスイス……。地図を広げて見ると、かつてサヴォイア家が治めていた地域と重なることがわかる。サヴォイア家と言えば、第二次世界大戦直後までイタリアに君臨した王家。11世紀に、ブルゴーニュ公国の有力な家臣の一人であるウンベルト1世を始祖としてアルプス地方のサヴォワ(サボイア Savoia)におこり、13世紀から15世紀にかけてピエモンテ地方に領土を広げ、現在のフランス、イタリア、スイスにまたがる地域を治めていた。
要約すれば、モンブランは、もともと地元の特産品である栗を使った、フランスのサヴォワ地方、イタリアのピエモンテ州辺りで作られていた家庭菓子であったが、サヴォイア家が治めていた地域やその周辺に、形や名称を変えながら広がっていったということだ。
なぜ黄色いモンブランと茶色いモンブランを見かけるの? 日本のモンブランの歴史
その1 黄色いモンブラン
現在、東京・自由が丘に店を構える「モンブラン」の初代店主・迫田千万億(さこた ちまお)さんが、1933年にフランス・シャモニーを旅行した際に食したお菓子に感動し、日本人の口に合うように工夫し作り上げた「モンブラン」が全国的に広がった。これが現在も見られる「黄色いモンブラン」の原型だ。
構造的には、カステラ生地に栗の甘露煮を埋め込み、カスタードクリームを絞り込んだものを土台にして、周囲にバタークリームを、中央に生クリームをこんもりと、その上に栗のクリームを絞る。てっぺんに白いメレンゲを飾り、完成。
栗のクリームが黄色いのは、渋皮を取り除いてから甘露煮にしたものをペーストにしているから。日本人はふんわりとした生地を好むため、土台をカステラ生地にし、当時栗と言えば栗きんとんで、黄色いイメージだったので、それに合わせて甘露煮のペーストにしたとも言われる。
<店舗情報>
◆モンブラン
住所 : 東京都目黒区自由が丘1-29-3
TEL : 03-3723-1181
その2 茶色いモンブラン
パリで最初にモンブランを販売したのは、1903年創業の「アンジェリーナ」※2 だと言われている。一説には1920年代、パリでは焼き栗が大流行。お店でも栗のお菓子を開発することに。同店のパティシエの奥さんがイタリア人であったため、イタリアの地方菓子であった「モンテ・ビアンコ」を参考に「モンブラン」を考案したとも言われる。
※2 創業者は、ルネ・ランペルマイエ。アンジェリーナは彼の妻の名前
こちらは、メレンゲを土台に、生クリームをこんもりと、その上から渋皮付の栗をペーストにして作ったマロンクリームを絞ったもの。マロンクリームの絞り方にも工夫し、当時女性の間で流行していたショートカットの髪型に似せたと言われている。
1984年にアンジェリーナが日本に上陸し、銀座に店を開いたことが、現在、多くのフランス菓子店で「茶色いモンブラン」が日本でポピュラーになるきっかけを作ったと言われる。
<店舗情報>
◆アンジェリーナ 日本橋三越店
住所 : 東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店 本館 B1F
TEL : 03-3241-3311
2021年専門家が注目する、和栗&洋栗モンブランのおいしい店3選
「ルポ バイ パティスリーイーズ」
「パティスリー イーズ」は、2020年7月にパティシエの大山恵介氏が開いたお店。大山氏は、日本菓子専門学校卒業後「イデミスギノ」「アカシエ」などで修業後渡仏。フランス各地のレストランで修業し、帰国後は、ひらまつ銀座「アルジェント」、代官山「リストランテASO」などで腕を振るわれ、福岡「リストランテASO天神」、新橋「レストラン ラ フィネス」ではシェフパティシエを歴任された。
2020年9月には、伊勢丹新宿店に「ルポ バイ パティスリーイーズ」もオープン。こちらでは、2種類のモンブランが用意されている。
「洋栗のモンブラン」1,001円
メレンゲの上に生クリームをこんもりと絞り、さらに洋栗のクリームを絞った、伝統的な組み立て。メレンゲがしっかりと焼き込まれ、キャラメル化しているので、生クリーム、マロンクリームともよく合い、サクサク感が食感のアクセントに。メレンゲは、生クリームの水分で湿気ないように、ホワイトチョコレートで薄くコーティングされているのだろうか。そのような甘みを感じた。
付属の「栗とベリーのソース」は、まったりと優しい酸味のあるソース。ヨーロッパでは、栗にはカシスを合わせるのが定番の組合せだが、カシスの主張が強すぎて、栗が負けてしまうことも。その点、こちらのソースは、上手にマロンの味わいを引き立てて、なんともエレガントな味わいへと昇華させている。
「和栗のモンブラン」1,001円
和栗のモンブランも、洋栗のモンブランと同様の構造。ただ、こちらのマロンクリームは、和栗に白あんを加えたものとなっている。ほっくりとした、柔らかな和栗本来の味わいが楽しめる。
付属の「和栗とベルガモットのソース」は、穏やかな甘みのあるミルキーなソースで、大人の味わいに味変してくれる。どちらのモンブランも繊細かつデリケート。シェフの丁寧な仕事ぶりがうかがえる作品だ。
<店舗情報>
◆パティスリー イーズ
住所 : 東京都中央区日本橋兜町9-1
TEL : 03-6231-1681
<店舗情報>
◆ルポ バイ パティスリーイーズ
住所 : 東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館 B1F
TEL : 03-3352-1111
「東京會舘 スイーツ&ギフト」
1920年に「世界に誇れる、人々が集う社交場」として設立された東京會舘の初代の本館は、1922年に竣工。以来、英国エリザベス女王など多くの国賓や著名人の社交の場となった。
現在の建物は2019年1月に全面リニューアルオープンした、レストラン・バンケット・ウエディングを有する複合施設。こちらの1階にあるのがペストリーショップの「スイーツ&ギフト」。店内は左側が生ケーキ類、右側がクッキーなどのお土産類の売場となっている。
こちらのお店の定番商品となっているのが「マロンシャンテリー」。70年余の歴史を持つ名物スイーツで、日本における洋菓子の祖としても知られる東京會舘初代製菓長の勝目清鷹氏(1900〜1972)が、1950年頃にモンブランを日本人向けにアレンジして発案したと言われている。
「プレミアムマロンシャンテリー」1,836円
期間限定の「プレミアム」バージョンは、栗の名産地として名高い「笠間産の新栗」を使った、まさに「旬の逸品」! 極薄のふんわりスポンジ生地の上に笠間産栗を粗めのそぼろ状にしたものをふんわりとのせて、生クリームで全体を覆っている。
生クリームと、ごろっとしたそぼろ状の栗がふんわりと絡まる。滋味深く、柔らかな甘味が口いっぱいに広がり、栗本来のおいしさを堪能できる。
「プレミアムモンブラン」1,026円
こちらは、繊細な甘さの和三盆を使用した生クリームに、京都「一保堂茶舗」の番茶を練り込んだスポンジを土台と中層に加え、厳選された「笠間産の和栗」のマロンペーストで覆い、周囲にナッツを、上部に生クリームとチョコレートをトッピングしたもの。番茶のスモーキーな香りが、和栗の味わいに深みを与え、大人向けのスイーツに仕上げられている。
なお上記2種は、11月30日までの期間限定販売なので、ご購入はお早めに! このほかに、ミニマロンシャンテリーセット(アールグレイ、ラ・フランスなどの3種セット)も期間限定販売中!
<店舗情報>
◆東京會舘 スイーツ&ギフト
住所 : 東京都千代田区丸の内3-2-1 東京會舘本舘 1F
TEL : 03-3215-2015
「アンフィニ」
「アンフィニ」は、金井シェフが2020年1月に東急大井町線・九品仏駅のほど近くにオープンしたお店。シェフは「ビゴ東京」で修業した後に渡仏、三つ星レストランなどで上質なデセールについて学ばれた。帰国後は青山のレストランや、ミニャルディーズ専門のパティスリー「UN GRAIN(アン グラン)」のシェフパティシエを務め、こちらのお店をオープンした。
ショーケースには、人気のショートケーキほか、こちらのお店の看板商品とも言える「パルファン」(写真上の下段、ショートケーキ左側の球体のケーキ)などが並び、華やかな雰囲気。詳しくは、過去に九品仏のスイーツ特集にて紹介した際の記事にてチェックを!
話題の新店が続々オープン中。注目の街・九品仏のスイーツがおいしそう!
そして現在、こちらのお店では以下2種類のモンブランが楽しめる。
「四万十栗のモンブラン」825円
大粒で糖度も高いと評判の高知県四万十栗と、京都の宇治茶、埼玉の狭山茶などと並び日本五大銘茶のひとつに数えられる、滋賀県朝宮のオーガニックのほうじ茶を合わせた和栗のモンブラン。
断面をつぶさに観察すると、シェフの細かな気遣いが見える。まずは、ほうじ茶のメレンゲが湿気ないように、薄くホワイトチョコをコーティング。その上には、伝統的に日本型のモンブランでお馴染みのカスタードクリームを敷き、大きな和栗の渋皮煮を丸々ひとつ固定。それをホワイトチョコでほんのりと甘みを加えた生クリームで包み、その上から、ほっくりと甘い四万十川の和栗クリームをたっぷりと絞り、仕上げにほうじ茶の茶葉をはらりとトッピング。
清流・四万十川が流れる山々の風景や標高が高く朝夕の寒暖差が大きく霞がかかる朝宮の茶畑の風景が目に浮かぶような、まさに、日本ならではのモンブランだ。
「モンブランフランセ」770円
「モンブランフランセ」は、マロンクリームにヘーゼルナッツとコーヒーの味わいを合わせた洋栗のモンブラン。ヘーゼルナッツを丸ごと入れたタルトを土台に、粗く刻んだマロンコンフィ(栗のシロップ漬け)が混ぜ込まれたカフェクリームをこんもりと。その上から洋栗のマロンクリームを円錐形に、らせん状に絞った、ラム酒が香る、濃厚な味わいの大人のモンブランだ。
和の素材を組み合わせた和栗のモンブランと、洋の素材を組み合わせたモンブラン、和洋のモンブランの競演を楽しんで!
<店舗情報>
◆アンフィニ
住所 : 東京都世田谷区奥沢7-18-3 1F
TEL : 03-6432-3528
※価格はすべて税込です。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。
※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2021年10月3日)時点の情報をもとに作成しています。
撮影:猫井登
文:猫井登、食べログマガジン編集部
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