MotoGPヘレスGP:アレックス・リンスのスズキのマシンからブレンボ製ブレーキフルードリザーバータンクカバーを持ち去ろうとしてレーススタッフが現行犯で取り押さえられる事件が発生

モータースポーツファンなら、ひいきの選手やチームを観に行った記念にその証を何か一つ持って帰りたいと誰もが思うはず。写真を1枚撮れれば満足する人もいれば、憧れの選手と一緒に自撮りできたラッキーな人もいるだろう。しかし、なかには熱狂のあまり我を忘れて他人のモノを奪う人もいるのだ。

2010年MotoGPミザノGPでのこと。ウィニングラン中にサーキット内にファンがどっと流れ込み、そのうちの一人がヴァレンティーノ・ロッシ(3着)のヤマハのマシンに近づくと、サドルの後ろに搭載されていたジャイロスコープカメラを抜き取ったのだ。この盗みの行為は後にロッシのメカニクスの一人がツイッターに投稿して明るみに出た。

つい数日前には、あるレーススタッフによる別の窃盗事件が起こった。今回の現場は、ヘレス・サーキット - アンヘル・ニエトで開催されたスペインGP。ブレンボ製ブレーキ搭載のマシンがプレミアクラスで果たした勝利が連続400回目となったグランプリである。(そのうち300回は2002年から始まったMotoGPでの優勝、100回はその前の500ccクラスでの優勝だ。)

犯行

ヘレス・サーキットのフィニッシュラインを2着で通過したアレックス・リンスは、ファンと喜びを分かち合おうと、コース脇に自身のスズキGSX-RRを停めてスタッフに預けた。まさかそのスタッフがこの機を逃すまいとブレーキフルードリザーバータンクのカバーを外して素早くポケットにねじ込むなどとはリンスは夢にも思わなかっただろう。しかし、盗んだ本人にはアンラッキーなことに、その犯行の一部始終が、リンスのヘルメット方向に向けられた車載カメラに記録されていたのだ。窃盗マニアを自称するこの犯人は、その後スズキのピットに駆け込み、盗んだものを返して謝罪した。

カバーの目的

このスタッフは、ブレーキフルードリザーバータンクのカバーを盗んで、自分のバイクに装着して使えていたかもしれない。このカバーは伸縮素材でできていて、公道仕様車も含め、ほとんどのバイクのブレーキフルードリザーバータンクに取り付けることができるのだ。

テレビ中継で車載カメラに切り替えた際の映像などで皆さんはすでにお気づきだと思うが、MotoGP、Moto2、Moto3、スーパーバイク選手権の選手はほとんどが、マシンのブレーキフルードリザーバータンクに、ブレンボのロゴのついたカバーをかぶせている。これは単に見栄え目的でやっているのだろうか?まったく違う。説明していこう。

皆さんがよくご存知の機能

ブレンボのカバーは、機能上の役割を確かに担ってはいるが、パーツとしては非常にシンプルだ。これと対極にあるのが、ブレンボが製造する最先端技術の製品、たとえばカーボンセラミックディスクやアルミニウム製モノブロックラジアルマウントキャリパーなど、MotoGPクラスの選手全員が使用している高性能のブレーキパーツである。これらはブレンボの技術的研究から得られた最先端の成果を結集させたものだが、カバーの場合は、極めて単純なパーツとしか言いようがない。

まず、カバーのいちばんの目的は、何かのきっかけでブレーキフルードが漏れるのを防ぐことにある。ブレーキフルードは腐食性が強いため、1滴漏れただけでもカウルやヘルメットのバイザーを傷め、選手の視界やマシン構造の完全性を損なうことがあるのだ。

マシンの振動や急カーブでのマシンの傾きでリザーバータンクのキャップからフルードが漏れ出ることが決してないように、リザーバータンクにカバーをかぶせてブレーキフルードを完全に封じ込めることによって、カウルのウィンドスクリーンやヘルメットのバイザーあるいはその周囲の車載パーツが汚れないようにしているのだ。

あまり知られていない機能

カバーを使うことにはもう一つ重要な役割がある。ブレーキフルードの量が徐々に減ってくると、外気中の水分を吸収する可能性が高くなる。水分を吸収すると、ブレーキが効き始めるまでのレバー操作が長くなり制動性能が低下してしまう。

作り話と誤解

ブログやフォーラム、またSNSなどでは、多くの記事が、カバーの目的について、ブレーキフルードが直射日光で熱せられて化学的・物理的特性が低下するのを防ぐためでもある、としている。

しかし、これには基本的な事実の認識が2つ欠けている。まず、ブレンボがMotoGPとスーパーバイクの有力チームに供給しているブレーキフルードは、動作温度が約-40℃~200℃と幅広く、沸点が極めて高くなっている。日光による数度の温度上昇の影響は無視していいレベルだ。

また、ブレンボのブレーキフルードには、光感応しないため、つまり光が直接当たることで劣化する特性は存在しない。ただし、吸湿性は非常に強く、空気中の水分を吸収しやすい性質がある。そのため、使用寿命は短く、頻繁な交換が必要となる。

カバーを入手するには

これで、カバ-のことがわかった皆さん、ブレンボ製品の取扱店 (ブレンボ製品の正規取扱店の一覧参照 )で次回ブレンボのバイクパ-ツを購入する際には、お店の人に、カバ-も欲しいと伝えてほしい。

例えばブレンボRCSコルサコルタのご購入。これはレバ-レシオとブレ-キレスポンスの両方が調整できる唯一のマスタ-シリンダ-で、使う人のライディングスタイルを根底から一新するような画期的な製品だ。

ブレンボの製品情報や取り組みなど、さらに詳しく知りたい人はブレンボのウェブサイトをチェック!

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