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10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。

不自由するほど、人の能力は伸びる

 私はある実験結果を見たときに「左利きは、ものすごく大きなポテンシャルを秘めている」ことを確信しました。

 その実験とは、ラジオを聴くことと脳の成長の関係を、MRI画像で解析したものです。実験では、被験者に1日2時間以上ラジオを聴き続けてもらい、1ヵ月後に脳の状態を実験前と比較しました。(*)

 私たちは、人の話を聴くと、まず聴覚系脳番地で言葉を認識し、理解系脳番地で意味を理解します。そして、思考系脳番地で判断を下し、伝達系や運動系の脳番地で実際に意思を伝えたり行動を起こしたりします。

 言葉を聞いて左脳の聴覚系が刺激されることにより、理解系、感情系などの左脳の他の脳番地も活性化されるのです。(脳番地についてはこちらの記事をご覧ください:最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?)

 私は、ラジオを聴く習慣を身につけると、左脳の聴覚系が発達するであろうと予想していました。また、関連する理解系、伝達系なども働くであろうと事前に予測できました。しかし、実際はラジオを聴き続けた人のほぼ全員の右脳の記憶系脳番地が発達したのです。これは、実験前には考えてもみませんでした。

 なぜ、ラジオから流れてくる言葉を聴いているだけなのに、右脳の記憶系が活性化したのでしょうか。

 右脳の記憶系脳番地は、イメージ記憶に関係しています。つまり、人はラジオの音声を聴いているときに、右脳の記憶系も働かせてさまざまなイメージを思い浮かべ、話を補完しながら楽しんでいたのではないかと考えられます。

 ラジオのように、脳に入力されるソースが「言語」という一つのものに絞られると、人間は自分で足りないところを補って楽しんでいるのではないかと私は考えています。

 人間は不自由な環境にあるほど、創意工夫し高い能力を発揮します。左利きも右利き社会のなかで、同じように「右利きではないからできないこと」がたくさんあり、絶えず完成形に近づけようと考えをめぐらせています。

 そのことが左利きの能力を密かに強化し「あとはその力を発揮するだけ」になっているのではないかと私は思うのです。

(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)

参考文献
*:radiko ホームページ「ラジオを聴き続けると脳が成長することを世界で初めて実記(株式会社脳の学校調べ)」https://radiko.jp/rg/lab/brain/

[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com