採用担当者が詠んだ「採用川柳短歌」の入選作品を見ると企業側が決して“強者”ではないことがわかる(写真:metamorworks/PIXTA)

8月5日の配信記事「コロナ2年目『就活川柳・短歌』に込めた学生の本音」では、オンライン面接に慣れすぎて、対面型面接で思うように答えられない学生や、いつものとおり下半身はジャージ姿のまま面接会場に向かおうとする学生、カメラ目線を気にするあまり面接担当者の顔を見ていなかった学生、さらには面接に落ち続けてYouTuberになることを考えてしまう学生など、就活体験を素直に詠んだ就活生の川柳短歌を紹介した。

今回は、立場を変えて、企業の採用担当者による「採用川柳短歌」の入選作品をもとに、2022年卒就職戦線の裏側を見てみたい。一般的に、就職活動というと「企業(採用担当者)=強者、就活生=弱者」とひとくくりに捉えられがちであるが、決してそんなことはない。企業だって弱者でもある。採用担当者の心の叫びもぜひ受け止めてほしい。

用意周到な学生に脱帽?

まずは最優秀賞からだ。

履歴書に マスク姿の 顔写真(東京都 GLさん)

コロナ禍での選考では、オンライン面接が主流であるが、対面型の面接を実施する企業ももちろんある。オンライン面接ならマスクの着用なし、対面型の面接なら感染症対策としてマスク着用で行われるのが通常だ。応募書類の履歴書には、コロナ以前と同様にマスク着用なしの写真だけが添付されているのが普通である。だが、ある時、わざわざ両方の写真を添付した履歴書を送ってくれた応募者がいたらしい。人事担当者の驚く顔が目に浮かぶ。


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マスクの着用ありなし両方の写真を送ってくれた真意は測りかねるが、対面型の面接時にも人事担当者が自分を認識しやすくするためだとしたら、大したものである。

対面で行われるのは何も面接だけではない。選考をクリアして内定すれば、内定者フォローの集まりは集合型で実施されるかもしれないし、来年4月の入社式やその後の研修は対面で行われる可能性は大いにある。はたして、マスク姿の写真は役に立ったのだろうか。

続いて、優秀賞の2作品を紹介しよう。

Uberで 届けて欲しい 内定承諾(東京都 きゅうぴいちゃんさん)

就活生は内定が喉から手が出るほど欲しい一方、内定を出した企業の人事担当者は、一刻も早く「内定承諾」の返事が欲しくてしょうがないもの。内定を出すまでは強者だといえる人気企業をしても、内定を出した後は企業が弱者になる。主導権は学生の手の中にあるといっていい。

良識ある企業は内定切りなどできない代わりに、学生はメール一本で気軽に内定辞退をしてくる。内定承諾の返事を、手数料を払ってでもいいから早く届けてほしいという、その切実な作者の思いを、コロナ禍で急成長する手軽なデリバリーサービス「Uber」に例えて表現した、秀逸な作品である。はたして、この作者の思いは内定を出した学生にしっかりと伝わったのだろうか。どうか届け先を間違えないように配達してほしいものだ。

「釣りが趣味」 深掘りしたら 「あつ森」ね(新潟県 うさたろうさん)

趣味が「釣り」と書いてあれば、当然アウトドアなイメージを持つ。ところが、よくよく聞いてみると、リアルな釣りではなく、「ゲームソフト『あつまれどうぶつの森』での釣り」だという。

アウトドアなイメージは一変、一気にインドアなイメージに大転換。大事な情報を応募者に隠されていたことに気づいた作者の気持ちと、今どきの学生にはこういうことも想定しないといけないのかも、という参考事例をユーモラスに紹介している作品である。学生にしてみれば、コロナ禍でどこへも行けない環境での楽しみといえば、室内でできるゲームやSNSしかない状況にあることも考慮して、採用担当者には寛大な評価をしてあげてほしいところである。

本当に実在するのか?

ここからは、佳作に入選した作品を抜粋して紹介しよう。

オンライン 内定出せば 辞退され 会えずに終わる 今の新卒(東京都 うすみどりさん)

苦戦し続ける自社の採用状況を自虐的に描くことで、今の採用活動において主流となるオンライン採用が、企業と応募する学生のつながりをいかに希薄にしているか、人事担当者を代表した嘆きともいえる作品。

それにしても、インターンシップを皮切りに、セミナー・会社説明会もオンラインで開催し、一次面接から最終面接までをすべてオンラインで選考し、内定を出しても内定辞退となってしまえば、一度も対面で会うこともなく、応募学生との関係が終わってしまう。この状況は、あまりにもバーチャル感にあふれ、採用活動の手応えどころか活動の実感も湧かないのではないだろうか。内定を出した学生は本当に実在するのかと、疑念すら覚えてしまいそうである。

君来ると 終わるはずだよ 採用は  始まるはずだよ インターン(神奈川県 学生を信じ続けて十数年さん)

あと1人の内定者が内定承諾してくれれば、2022年卒学生の採用活動が終わるかという採用活動の佳境となるころには、もう2023年卒向けのインターンシップが始まるという、休みなく続く採用活動の忙しさがよく伝わる作品。

「終わるはずだよ」と「始まるはずだよ」の対比が見事である。できれば今年度の採用活動をすっきり終えて、心新たに次年度のインターンシップに臨みたいところだろうが、それも自分たちでは決めることはできず、あと1人の内定者の決断に委ねられている。なんとも歯がゆいことだろう。

画面越し 俳優張りに リハ重ね (東京都 あけあけさん)

オンラインでの面接やインタビュー前に、念入りにリハーサルを重ねて、いかに画面映りがよくなるかを工夫する学生の姿が、ほほえましく思えた作者の、親目線で心温まる作品。

オンライン面接ならではの失敗を悔いたり、少しでも印象を良くしようとオンラインスキルを磨いたりする学生の作品も多くあるが、その姿を、このように温かく見守っている採用担当者がいることを、学生に教えてあげたいものだ。

ただ、これは学生だけに当てはまるわけではなく、この作者は違うかもしれないが、学生への印象をよくしようと、リハーサルを重ねる採用担当者だって少なくない。本番以上の時間をかけて、投影データや原稿を一つひとつ丁寧に確認しながら進める、ライブ配信前のオンライン会社説明会のリハーサル風景を、ぜひ学生にも見せてあげたいものである。NG場面などをメイキング映像として、採用ホームページで公開してみてはどうだろう。きっと学生は親近感が湧くと思う。

一社目は 御社「でも」いい なるほどね(大阪府 Jさん)

転職しながらスキルアップするのがもはや普通の時代であることは、理解しなくてはいけないのだろう。しかし、それを直接面接で正直に伝えられ、しかも「御社『でも』いい」と上から目線の一言に、苦々しく感じつつも時代の流れとして受け入れようと、大人な対応を見せる作者のため息が、聞こえてきそうな作品である。選考を受けている立場であれば、もう少し言葉を選んでほしいと思ってしまうのだが、いまの学生は正直すぎるのだろうか。

やはりマスクあり写真が必要か

佳作をあと3作品紹介しよう。

入社式 リアルで実施も マスクあり 誰が誰だか わからない (愛知県 なごやだがねさん)

採用活動を無事に終え、内定者フォローの末にやっと迎える、待ちに待った入社式。オンライン採用だったために、やっとリアルで会うことができたにもかかわらず、実際に会ってみると、新入社員が全員マスク姿のため、「誰が誰だかわからない」というコロナ禍の少し残念な入社式を詠んだ作品。こんなときこそ、前掲の最優秀作品の学生のように、マスク姿の履歴書も提出してもらうようにしたらどうだろうか(笑)。

厳密にいえば、「2022年卒採用」ではなく、「2021年卒採用」の入社式のエピソードだといえるが、今年のエピソードということで、そこは大目に見よう。ずっとオンライン上で会っていた内定者にようやくリアルで会えるというのは、人事担当者も内定者同士でも感慨深い瞬間となるはずで、早くマスク無しで安心して会える日が戻ってほしいものである。

加工され 証明写真が Miiのよう(新潟県 うさたろうさん)

証明写真の加工は今に始まったことではない。昔から某百貨店の写真館の写真は神業のような修正が施され、そこで写真を撮ってもらうことが合格祈願と同義になるほどの都市伝説も生まれていた。わかるか、わからないか程度の微妙な修正はしょうがないにしても、ゲームのアバターである「Miiのよう」になるほど修正を加えるとはなかなかの強者である。昔ではありえなかった写真加工技術によって、今の学生の特徴を上手く表現した作品。


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履歴書に貼る自分の顔写真を加工するのは、今や当たり前のことなのだろうか。Instagramやプリクラの影響もあるのだろうが、証明写真とは何なのか、一体何のための写真添付なのか良くわからなくなりそうだ。ちなみに、この学生はオンライン面接時にもフィルターがかかっていたらしく、美への意気込みを強く感じたと作者。

WEB面接 ひらり舞い飛ぶ カンペメモ(神奈川県 川崎の大仏さん)

学生にとってオンライン面接のメリットの1つは、「カンペメモが見られる」ということらしい。ただし、問題は、それをいかに面接担当者に見つからないようにのぞき見しながら受け答えできるか、ということ。

これは面接担当である作者が見てしまった学生の失敗例について、その一瞬をスローモーションのように切り取って、上手く描写した作品だといえる。同時に、応募学生が驚き、慌てる表情も目に浮かぶようである。作者もここまでごまかしようのない形でカンペが見えてしまうと、かえって学生に同情し、カンペメモの設置方法までアドバイスしてあげたくなったのではないだろうか。

採用担当は「強者」ばかりでない

いかがだろう、企業(採用担当者)が決して「強者」ばかりではないことを感じ取ってもらえただろうか。そして、学生を温かく見守っていることも。


さて、HR総研のオフィシャルページでは、「2022年卒 採用川柳短歌」の全入選作品について、作者の思いを踏まえての寸評・解説も掲載している。それぞれの作者がどんな気持ちでこの川柳短歌を詠んだのか、ぜひご覧いただきたい。来年は、どんなテーマの作品が集まるのか、今からもう楽しみである。