桑田真澄が名を挙げた「巨人の星」は誰か。「一流ピッチャーの条件」も語った
『特集:We Love Baseball 2021』
いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将大を筆頭に、捲土重来を期すベテラン、躍動するルーキーなど、見どころが満載。スポルティーバでは2021年シーズンがより楽しくなる記事を随時配信。野球の面白さをあますところなくお伝えする。
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今年1月、巨人の投手チーフコーチ補佐として15年ぶりにユニフォームに袖を通した桑田真澄氏。キャンプでは精力的に動き、選手たちを指導していた。昨年、巨人はリーグ連覇を果たしたものの、日本シリーズではソフトバンクに2年続けて4タテを食らうなど、圧倒的な力差を見せつけられた。復権を目指すチームにあって、桑田氏はどのような投手陣をつくり上げようとしているのだろうか。
今年1月に巨人の投手チーフコーチ補佐に就任した桑田真澄氏
---- 15年ぶりのジャイアンツ復帰です。投手チーフコーチ補佐として選手をご覧になって、何を感じましたか。
「今の選手はよく練習するなとビックリしています。僕らの時代はあれやれ、これやれと強制的にやらされていましたが、最近はいろんなところから情報を集められるので、自分なりに考えて練習に取り組めるんでしょうね」
---- ジャイアンツへ戻ってみて、チームに何かしらの変化を感じましたか。
「ジャイアンツだけでなく、野球そのものが進化していますよね。だから戦術も道具も。指導者も指導法も、すべて進化させていかなきゃいけない。僕たちの時代に比べたら環境もよくなっていますし、今の選手たちは35年前に僕が考えていたことをすべて持っていると思いますよ。今日は投げる、投げないとか、これは何のためのランニングなのかとか、35年前はそんな質問をしたら、『何をゴチャゴチャ言ってるんだ、コイツは』『屁理屈いう前に走れ』って感じですよ。でも今はみんな、その理由をちゃんと言えるんです。35年前の高卒ルーキーだった僕がもし今の時代にいたら、きっとみんなと同じになって、逆に目立たなくなっちゃうでしょう(苦笑)」
---- 課題を挙げるとしたら?
「ピッチャーの技術力はマウンドから投げてナンボだと思うんです。だから僕は宮本(和知)投手チーフコーチと相談して、先発を目指すピッチャーはキャンプで1000球は投げて下さいと伝えました。それもただ投げるのではなく、1球1球、目的を考えて......そうでなければ意味がありませんから」
---- 選手とはどんなことを意識しながら接していますか。
「僕が先に何かを言うのではなく、どうしたらいいかと聞かれたら『こういうやり方もあるよ』と選択肢を提示できればいいですね。言葉のキャッチボールを大切に指導したいと考えています。コーチの語源って、ハンガリーのコチという村でつくられた馬車に由来しているんです。乗った人を望む目的地まで大切に送り届ける役割を担う馬車から派生してコーチという言葉が生まれました。だから僕も選手と一緒に考え、苦しみ、悩み、喜びながらともに目的地を目指す伴走者でありたいと考えています」
---- 桑田コーチが選手に最も伝えたいことは何でしょう。
「ピッチャーの何が難しいかって、それは約25センチの高さのマウンドから投げなければならないというところなんです。肩が強ければピッチャーができるわけじゃない。マウンドの傾斜を制することが一流のピッチャーの条件になります。ですから傾斜のあるマウンドからある程度の球数を投げて、傾斜の使い方を自分で身体に染み込ませなければなりません。シーズンに入ったら、あのマウンド上で苦しむ時が必ず来ます。その時、僕たちコーチはどうすることもできない。だからこそ、今のうちに彼らがマウンドで困らないよう、微調整したりアイディアを出したりしているわけです」
---- 桑田さんがよく話す「投げ終えたマウンドに答えがある」という言葉にはどんな意味が含まれているんですか。
「力を出すべき方向へちゃんとステップできているのか。今日はピッチングの調子がよかったけど、どれくらいの歩幅になっていたのか。逆に今日は調子悪かったのはクロスステップになっていたからじゃないか。あるいは体重がしっかり踏み込んだ足に乗り切っていたのか、そういうことの答えが、マウンドの足跡にすべて残されているんです。だからそれらを投げ終えたあと、しっかり確認していこうということです」
---- 桑田さんはこれまで球数制限の導入を積極的に訴えてきましたが、ジャイアンツでは先発陣には完投を目指してほしいとおっしゃっています。
「僕が球数制限を取り入れるべきだと訴えてきたのは選手がまだ成長期にある学童野球、中学野球、高校野球の話です。プロの選手は身体もできあがっていますし、むしろプロ野球で先発を任されるようなピッチャーなら、完投するためにどうするかを考えるべきだと思っています」
---- 完投できるようなピッチャーになるためには何が必要になってくるんでしょうか。
「たとえば一日おきに、今日は100球、次は50球とか、今日は全力、次は7〜8割の力で、と練習に強弱をつけることも大事です。そういう練習を、傾斜を使って続けることで、敵にも味方にもなってくれるマウンドの傾斜に対応する術を身につけておくことが、やがて自分を助けてくれるんです」
---- 日本一を目指す今年のジャイアンツで期待の星をひとり挙げるとしたら?
「ひとりと言われれば横川凱(かい)投手かな。彼は大阪桐蔭から入団して3年目の左ピッチャーなんですけど、体格的にも恵まれていますし、なによりセンスがいい。バッターに投げる姿を見ているとマウンド捌きが抜群にうまいんです。これは教えてできることじゃない。春夏合わせて4度も甲子園に出て、3年の時には春夏連覇も成し遂げている。そういう大舞台を踏んできたことも大きいのかもしれません」
---- 横川投手は20歳、桑田さんは球団史上最年少の20歳で開幕投手を務めました。
「いやいや、ジャイアンツには背番号18を受け継ぐ菅野(智之)くんがいますから。もちろん横川投手には、いずれ開幕戦を任される存在になってほしいですね」
---- その菅野投手は、桑田コーチに決め球になるカーブを伝授してほしいと話していました。
「彼はほぼ完璧なピッチャーですからね。さらに上に行くために、2点、克服してほしいことがあるという話はしました。意識してこの2つのことに取り組めば、もう一つ、二つ、高いレベルのピッチャーになれるはずなんです」
---- その2つというのは......。
「それは僕からは言えませんよ、菅野くんに聞いて下さい」
---- ジャイアンツはリーグ連覇を果たしましたが、日本シリーズでは2年連続でホークスに4連敗を喫しました。日本一になるためのカギはどこにあるとお考えですか。
「今の時代の野球は、パワーとスピードが前面に押し出されています。もちろんパワーとスピードで勝負できる選手はそれで勝負すればいい。でも、それがなかったらダメかというと、そうじゃないんです。だってワザがあるじゃないですか。日本の野球の一番の特徴、長所は技、技術だと思うんです。
僕は、ジャイアンツは戦術や技術でもホークスを倒すことができるチームだと思っていますし、そういう選手が揃っていると思います。だからこそジャイアンツには"打倒ホークス"に止まらず、たとえメジャーのチームと戦っても勝てるかもしれないという、そんな期待を抱かせるレベルであってほしい。そのために僕が少しでも力になれたらと思っています」