五輪中止「島根の乱」!「頑張れ」と応援エール殺到 「注意する」と豪語したあの人に丸山知事の対応は......(1)
「聖火リレーを中止する!」
東京五輪開催に公然と反旗を翻した島根県の丸山達也知事(50)に共感のエールが広がっている。「♯頑張れ島根県知事」がツイッターでトレンド入りし、「島根の乱」という言葉まで生まれた。
2021年2月25日、その丸山知事が直談判のために上京、関係省庁や国会議員などを回ったが、どこでもけんもほろろに近い扱いを受けた。しかし、丸山知事はぶれずに五輪開催の問題点を訴えて回ったのだった。
なかでも注目されたのが、「知事を呼び出して注意する」と豪語していた「島根のドン」竹下亘・竹下派会長(74)との会談だったが......。
丸山知事の「オトナの対応」に称賛の声が集まっている。
島根ゆかりの「秘密結社 鷹の爪」も応援ラン
地元・島根県では丸山達也知事への共感はうなぎ登りだ。丸山知事が「聖火リレーの中止を検討する」ことを明らかにしたのは2月17日だった。さっそく翌日には県庁に多くの反響が寄せられた。
毎日新聞(2月18日付)「聖火リレー中止検討で島根に反響330件 『鷹の爪』アニメが代走」がこう伝える。
「島根県の丸山達也知事が県内での東京オリンピック聖火リレーの中止を検討すると表明したことが大きな反響を呼んでいる。県には18日午後2時現在で約330件の反響が電話やメールで寄せられた。島根にゆかりのあるアニメ監督、FROGMAN(本名・小野亮)さん(49)は代表作『秘密結社 鷹(たか)の爪』の登場人物『吉田くん』のツイッターを通じて『僕が代わりに走ってみました』と投稿。3万回以上が再生された」
そして、「吉田くん」が国宝の松江城や浜田市の今福線・鉄道遺跡など県内14か所を走る写真を公開したのだ=写真参照。
県広聴広報課によると、「よくぞ言ってくれた」「応援しています」など丸山知事を支持する、肯定的な意見は7割。否定的な意見には「聖火ランナーの気持ちを考えて」「コロナが収まりつつあるからリレーはできるのでは」などの声があったという。
そんな丸山知事が2月25日、上京して中央省庁などを回った。「聖火リレーの中止を検討する」と表明した理由を説明し、東京五輪の負担がいかに地方を圧迫しているかを訴え、さらに政府の不公平な支援の是正を要望するためだった。
「島根の乱」の張本人の丸山知事を中央省庁、そして竹下亘衆院議員らはどう迎えたか。
直談判に上京した丸山知事に冷たい中央省庁
丸山知事に密着取材した地元メディアの山陰中央テレビ(2月25日付)「五輪・聖火リレー中止発言の丸山知事が上京し直談判 中央省庁の反応は...」や、山陰中央新報社(2月26日付)「丸山知事、政府に経済支援を要請 具体的な回答なし」などを総合すると、こんな扱いだった。
「オリンピックを開いてもらっちゃ困る。(東京都には開催する)資格がない」「東京五輪の聖火リレーを中止していただきたいと要請する」
......。いざ直談判へ上京した丸山知事がまず向かったのは厚生労働省。
「大臣ご無沙汰しております。きょうは急にお時間をいただきありがとうございます」
とばかりに田村憲久厚労大臣への面会を要望したが、山本博司副大臣との面会に。保健所の積極的疫学調査が不十分な状態で、新型コロナウイルス対策の改善・強化がされないままでは東京五輪を開催すべきではないことや、県内の聖火リレーも中止の判断をせざるをえないとする要請文を手渡した。
「保健所の調査の重要性については、よく認識しており、できるだけ解消したい」と、山本副大臣。
会談後、丸谷知事は記者団にこう語った。
「(東京五輪は)首都圏プラスアルファの話なのに、西日本の島根からあれこれ言われる筋合いはないという批判もあるだろうが、感染拡大は飛び火する。東京エリアでコロナの対応能力を引き上げて、安心して選手を迎えられることが望ましく、状況を改善して国民に受け入れやすい環境を整えるべきだと(副大臣に)述べました」
「副大臣の反応は?」と記者団に聞かれると、丸山知事はこう語った。
「考え方、要望内容が的外れだとは言われなかった。聖火リレーで人が沿道に出る。それによる感染拡大を恐れて島根が反対していると誤解されている。そうではなく大元の問題だ。(政府、東京都が)対策の強化をしないと五輪を開催すべきではない、と言いました。一定の理解を得られたと思います」
その後、経済産業省、内閣府を訪問。現在、政府は緊急事態宣言下の地域しか支援していない。島根県など感染拡大を抑えられている地域に対しても経済支援の拡充を求めるためだった。
しかし、経産省と内閣府は政務3役ではない事務方の課長クラスが対応。ただ要請文を受けるだけに終わった。丸山知事が強く求めた新型コロナ担当の西村康稔経済再生担当相との面会は実現しなかった。
注目の竹下氏との会談はグータッチで始まったが...
さらに、島根県選出の5人の国会議員を訪問した。記者団が注目したのは「不用意な発言だ。注意しなきゃいかん」と公言していた竹下亘衆議院議員との面会だった。竹下氏の事務所を訪問。
竹下氏「やあ、ごくろうさん」
まずは感染予防のグータッチ。丸山知事はコロナ対策強化の要請文を提出。記者団が竹下氏からどんな「注意」があるのか見守っていると、雑談から――。
竹下氏「国会議員たるもの国民に苦労や迷惑をかけている最中に自らの行動に十分注意しようと今日も派閥の総会でした」
丸山知事「今回の政府の緊急事態宣言措置は的確でした」
竹下氏「一定の成果をあげたことは事実だよね」
丸山知事「ただ、いろいろな副作用が出ているのでお願いに上がりました」
「注意」がないままぎこちない会話が続き、ここで記者団は外に出された。あとは30分の会談。終了後、竹下氏は記者団にこう語った。
「(経済支援について)島根一つじゃ力が弱い。同じ悩みを持っているところが徒党を組んでほしい。集まって言えば、政府も取り上げやすいし、われわれもアシストしやすい、と言いました。ただ、それと聖火リレーの中止は別の話だと言ってやった。本人も五輪はやることには賛成みたいなことを言っていましたよ」
と、「注意」が功を奏したように語ったのだった。
――以上が地元メディアなどの報道である。ところが、夕方、都道府県会館で記者会見に臨んだ丸山知事は、記者団から竹下氏との会見内容を聞かれ、こう笑ったのだった。
「お互いに相手が何を考えているかわかっていますから、その話題(五輪中止問題)はさけました。私は政治経験も人生経験もない。注意していただけるのはありがたいこと。(竹下氏から)私の所作に問題があったとしても、県民のためにきちんと対応しようと言っていただいた」
(福田和郎)